第35話 砲戦開始!
(でもこれ体力もつか……?)
弾倉に普段より多めに『心』を込めるように言われたカウルの頭に不安がよぎる。
ちらりとシーナのほうを見上げるも、シーナは敵艦隊のほうを向いて、抱える対装甲狙撃銃の銃床を肩に当て、射撃体勢に入った。
弱音を口にしたところで聞く耳を持ってもらえるはずがない──カウルが暗い気持ちになる。これからの戦いが終わるまで、自分はしっかりやりきることができるだろうか。
海面の上に見える敵艦隊の四つの影は、先程より大きくなっている。
彼我の距離は刻々と近づいていた。
──ジリリリリリリ!
突然、『アマネ』甲板上に警報音が響く。
「!」
この音は、『アマネ』の主砲が発射される際の警報音である。
とっさにカウルが右側──艦首のほうを見る。
『アマネ』の二連装主砲塔の一番と二番、計四本の長大な砲身が、左舷──敵艦隊のほうを指向し、せり上がって空を仰いでいる。
主砲が発射されるときの爆音と衝撃は凄まじい。この警報音は、それを甲板上にいる兵員に警告し、退避させるためのものだ。
しかし、『鼓動』の能力を操ることができる甲板上の艦上守備隊の兵士は、主砲の発射時でも退避せず戦闘を継続するようになっていた。
それは彼らが『鼓動』という特殊な能力によって、主砲発射の衝撃から身を守ることができるからである。
「っ!」
来るべき衝撃にカウルが身構える。
特に、耳に意識を集中し、『鼓動』によって──『心』を耳の鼓膜に集中させることで──耳を保護する。そうすることで、耳に重大なダメージを受けないようにするのだ。
──バカン!バカン!
──バカン!バカン!
僅かな時間差を置いて『アマネ』の主砲がそれぞれ火を吹いた。
(うるさっ!)
主砲斉射の凄まじい轟音によって、耳が殴られたような衝撃を受ける。
首を縮め苦悶するカウル。
『鼓動』によって耳の保護には成功したが、それでもやはり大音響のせいでキーンと耳鳴りがした。
耳に分厚い膜がかかったように、あらゆる音が聞こえにくくなる。
ドオン……ドオン……
だが直後、耳鳴りの向こうからさらに別の轟音が聞こえてきた。『アマネ』に後続する僚艦も砲撃を開始したのだ。
「こほっ」カウルが小さく咳き込む。
『アマネ』の主砲の砲口から噴出した黒い砲煙が、後方に流れ、カウルたちのいる左舷を覆った。
だが黒煙はすぐに風に流されて霧散し、靄がかっていた視界が晴れる。
再び彼方の海上にいる敵艦隊の姿が見えた。
(弾は──)
砲弾の行方をカウルが追う。
『アマネ』の主砲から発射された砲弾は、音速を優に超える速度で、すでにはるか遠くに飛んでいっている。
しばらくして、敵艦隊の艦影の上の空中で一つ、ぱっと黒煙が花開いた。
同時に、艦影から横の少し離れた位置に水柱が複数立ったのが、うっすらだが視認できた。
その水柱は着弾した砲弾が立てたものだ。そして上空の黒煙は──
(迎撃された……!)
空中で砲弾が爆発したということは、敵がこちらが放った砲弾を撃ち落としたということだ。
敵にも、シーナのような対空迎撃要員がいるのだ。
すると、間を置かずして、今度は、敵艦隊の艦影の正面に、ぼわっと黒煙が広がって見えた。
──!
「敵艦、発砲!!」
カウルの周りで誰か──第四分隊の隊員が声を張り上げた。
(撃ってきた!!)
敵艦隊もまたこちらに向けて砲戦を開始したのだった。




