第30話 底のない恐怖
重巡洋艦『アマネ』、同日十八〇〇過ぎ──
空が橙色に染まり、夕日が海面に反射して見えるほど傾いても、敵の第二波空襲は来なかった。
「……」
長時間の緊張を強いられたカウルの瞳は虚ろであった。
重たい鉄帽と防弾装具をずっと着けているせいで、首や肩が痛い。
今日一日だった出来事が、まるで何日間も戦っていたかのように感じられる。
「各員、戦闘用具収め!」
『アマネ』艦橋からの全体号令で、艦上守備隊の戦闘配備が解かれたのは、それからもうしばらく経ち、空が暗い紺色になったころだった。
指示に従って他の兵士の動きに合わせるまま、気づけばカウルは食事を済ませ、寝台に横たわっていた。
敵の空襲を受け、艦自体は警戒態勢を続けているが、カウルたち艦上守備隊の兵士たちは休息を与えられていた。
『鼓動』の能力で心身ともに消耗する彼らは、例えわずかな時間でも、休みを取り体力を回復させる必要があるからだ。
「……」
寝台の上、縮こまった姿勢でカウルは眠らずに目を開けている。
その瞳は焦点が定まらず、虚ろであった。
疲れていてすぐに眠れるはずなのに、カウルは胸が苦しくて眠れなかった。
──こわい。
死への恐怖がカウルの心を黒く塗りつぶす。
戦いになれば、自分は次の瞬間にも死ぬかもしれない。
生きている状態から、自分が気がつかない間に死ぬかも知れないのだ。
──その瞬間は、どうなるのだろう?
──死んだらどうなるのだろう?
答えのない想像に、カウルは底知れない恐怖に陥る。
「ううっ……」
じんわりと目の奥からわき出た涙が、カウルの顔を伝って落ちた。
──カンカンカン!
『アマネ』艦内に再び戦闘配備の警鐘が鳴り響いたのは、朝日が海に覗いたころだった。




