第2話 教練対空戦闘
「教練対空戦闘用意!」
カンカン、と艦内に鳴り響く警鐘の音とともに、艦内スピーカーから号令がかかる。
対空戦闘──敵艦船からの砲撃や敵航空機からの攻撃を迎撃する戦闘──その抜き打ち訓練である。
艦内の各員があわただしく動きだし、それぞれの配置に向かう。
カウルもまた、それまでしていた艦内の掃除を中断し、自分の担当する配置場所に向かう。
カウルの所属は、艦上歩兵科右舷守備隊第三銃座付き──小隊呼称でいうと、第六小隊第二分隊所属であった。
艦上歩兵科──その任務は、敵艦船の砲撃や魚雷、飛来してくる敵航空機から、艦を守ることである。
兵員室に向かったカウルはそこで装備──防弾装具(防弾チョッキ)と鉄帽を身につける。
兵員室はカウルと同じ艦上歩兵科の隊員で混雑しており、カウルはほかの隊員と体をぶつけながら、それらの装備を装着し、併設された武器庫から、他の隊員が渡す小銃を受け取った。
そして、他の隊員に遅れまいと、急いで艦内通路を駆け、防水扉から甲板に出る。
扉をくぐった瞬間、海を走る自艦『アマネ』が切った風が、ぶわっとカウルの体を打つ。
空は晴天。遥か遠くまで澄んだ青空と、空よりずっと濃い青色をした大海原が視界を二分している。
眩い日差しを受けながら、カウルは重たい装備を抱えて、配置場所に急ぐ。
一等巡洋艦──いわゆる重巡洋艦である『アマネ』は、二十・三センチ連装主砲を前甲板と後甲板にそれぞれ二基ずつ、計四基八門有する。また、舷側にはケースメート式十センチ単装副砲を両弦合わせて八門を、ほか対空高角砲や機銃を多数装備している。
艦の中心線には、艦橋や煙突が立ち、それに付属する形で、探照灯や射撃指揮装置が備わっており、また短艇とそれを吊るためのクレーンといった艦上構造物が集中している。艦尾には、偵察と艦砲射撃の補佐を担う水上偵察機と、それを発射するためのカタパルトが装備されている。
こうした構造物が密集する艦の中心部とは対照的に、前後左右の甲板は兵の往来がしやすいすっきりとした構造なっており、左舷右舷にあるのは機銃を置く銃座と、兵員を防護する掩体──甲板に備え付けられた鋼鉄板のものや、半円状に積まれた土嚢による手製のもの──がある。
カウルの配置場所は、右舷の前方にある銃座──艦橋の横近くにある第三銃座のそばに設けられた土嚢製の掩体である。
「遅えぞ、グズ!」
銃座に到着し、すでに整列していた隊員たちの列に並んぼうとしたカウルだったが、いきなり怒号を浴びせられた。
怒鳴り声をあげたのは、すでに整列していた同じ分隊の兵士──シーナ=スレヴィアスであった。