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GODSPEAR  作者: 辰巳杏
第1章「旅の始まりと、守りたがりな少女」
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4話「白銀の森」

「どれにするか悩むな……」


 冒険者ギルドにあるクエスト掲示板の前で、どのクエストを受けるか悩んでいた。


「記念すべき最初のクエストね。どれにするかお任せするわ」


 悩む僕を見守りながら、シモンは言う。口出しは一切しないようだ。


 クエストのほとんどは、魔物の討伐と素材収集の依頼だった。その中に、見覚えのある文字を見つけた。『ピリカの採集求む』という依頼書で、ピリカは昨日食べた料理に入っていた香辛料の名前だ。依頼書を読んでみると、ピリカは白銀の森というところに生えている植物で、赤い実が香辛料として使われていることがわかった。


 依頼内容はピリカの実を指定の袋に詰めて納品してほしいというもので、報酬は150ランだった。なんと、宿代5日分だ。植物の実を集めるだけで、これだけもらえるなら悪くない気がする。


「それ、なかなか良いと思うわよ」


 横からシモンが依頼書を覗き込む。


「だな。こういうクエストはよく受けるのか?」


「うーん、あんまり受けないわね……」


 シモンはそう言い苦笑いを浮かべる。


「て、適当に言ったわけじゃないわよ。いいなーって思ったのはほんとよ。私はチマチマしたのが苦手で、魔物を討伐してクエスト完了! みたいなわかりやすいのが好きってだけよ! ほら、受けた受けた!」


「ちょ、勝手に……」


 シモンは僕の目の前にある依頼書を、いきなり掲示板から引き剥がした。


「決まりね! 行きましょ」


 腕を無理やり引っ張られ、クエスト窓口の方に無理やり連れていかれる。


「お任せするんじゃなかったのか……」


 僕の口答えはシモンの耳には届いていないようだった。




* * *




 シモンによると、『白銀の森』は、僕が最初に入ってきたルーイッヒの門を出て、歩いて行ける距離にあるらしい。ルーイッヒの冒険者たちは、主に白銀の森を探索しているそうで、シモンも毎日のように通っているみたいだ。


 門を出て東方向の道を歩いていると、森に向かう他の冒険者たちをちらほら見かけた。その多くは小団(パーティ)を組んでいるようで、ソロでいる冒険者は見かけなかった。


 前を歩く4人組の冒険者たちを見てみる。そのうち2人は鎧を身にまとい、大剣を背負っていた。見るところ剣士だろう。他には、弓を背負っている者や、高貴そうな服装に大きな杖を持つ者がいる。1人は間違いなく弓士だが、もう1人の職業がわからなかった。


「なあ、あの杖を持った人は何の職業なんだ?」


 小声でシモンに問いかける。


「たぶん神官だと思うわよ。回復者ね。回復者は小団(パーティ)に欠かせないから、引っ張りだこで、仲間に入れるのはなかなか難しいと思うわ」


「なるほど、回復者か……」


 確かに、探索中に怪我を負ってしまい、回復者する者がいなかったら……と考えると恐ろしい。一応、治療薬はいくつか持っているが、即効性があるものではない。ひどい怪我を負ってしまったら、確実に命取りだろう。


 そういえば、シモンは小団(パーティ)に所属しているのだろうか。2ヶ月間もルーイッヒを拠点にして探索しているなら、誰かしら他の仲間が出来ていてもおかしくはない。


「シモンは小団(パーティ)に入っているのか?」


「どこにも入ってないわ。私、ソロが好きなのよね」


「誰かと組もうと思ったことは?」


「ないわよ」


「……そうか、少し残念だな」


 独り言のように言うと、シモンが嬉しそうに微笑んでいた。


「あら、もしかして誘おうとしてくれたのかしら」


「……まあ」


「気持ちは嬉しいわよ。正式に誘ってくれるなら、ちょっと考えてみるわ。あんまり期待はしないで欲しいけど……」


 そう言うと、空を見つめていた。理由はわからなかったが、その目は少し寂しそうだった。


 過去に何かあったのだろうか。もしかしたら、仲間を無くしたことがあるとか……は考えすぎだろうか。とりあえず、ずけずけと理由を聞くのは気が引けるので、何も言わないことにした。


 話しているうちに、真っ白い何かが遠くに見え始めていた。だんだん近づいていくうちに、白いものの正体がわかった。


 あれは森だ。森全体が真っ白なのだ。


「あれが白銀の森よ。名前の通りでしょ」


 シモンは驚く僕に説明した。


 更に近づくと、森の木が全て、葉も幹も真っ白だということがわかった。雪が木の上に積もっているとかじゃない。木そのものが白いのだ。


「すごいな……」


 思わず感嘆の声が出てしまう。


 しかし、森の入口を目の前にすると、森がただ白くて美しいだけではないことがわかった。森から異様な殺気というか、緊張感が漂ってきているのだ。


「油断しない方がよさそうだな」


「そうね、森の中では大声で話をしない方がいいわよ。魔物を引き付けるかもしれないから」


「どんな魔物がいるんだ?」


 今のうちに森の情報を聞いていた方が良いと思い、シモンに問いかけた。


「そうねぇ、入口近くなら、ピジョルプっていう、亀みたいな見た目の魔物が出現するわ。甲羅が硬いから、上手く身を攻撃してやっつけるといいわ」


「亀、か。動きが鈍いのか?」


 そう質問すると、シモンが突然笑い始めた。


「ふふ! あなた、油断しているとやられるわよ! ピジョルプはとても素早いの。魔物に分類されてるだけあって、凶暴で、ぼーっと突っ立ってると死ぬわよ」


「なるほど……気をつけないとな。他には?」


「森の奥に生息しているのは、ヴォルフオガ。白いオオカミみたいな見た目をしていて、オオカミよりもずっと凶暴よ。厄介なのは集団行動をしているところね。でも、森の浅いところでは見かけないから、今日のところは大丈夫じゃないかしら」


「集団行動か……2人だと、手数が多いと厄介だな」


「そうね。……厄介といえば、あの魔物のことも言っておかないとね」


 シモンは急に真剣な口ぶりになった。


「……アメタリウス。白銀の森で1番の脅威、って言われてるわ。私も遭遇したことはないし、他の冒険者からの情報もとても少ないの。なんで情報が少ないか、わかる?」


「遭遇した者がほとんどいないから、か?」


「……ほとんど当たり。これはただの噂なんだけど、アメタリウスの情報が限りなく少ないのは、遭遇した冒険者のほとんどが、生きて帰ってきていないから……って言われているの。森のどこら辺で見かけたかも、情報が曖昧でハッキリとしていないから、とにかく、どこにいても注意するしかないわね」


「見た目とかは?」


「白いとか、人より大きいとか、わかるのはそれくらいね。ヤバい魔物はもう、見ただけでわかると思うから、それっぽいのに遭遇したらすぐに逃げましょ」


 見かけたらすぐに退避……か。話を聞くだけでも恐ろしそうな魔物だ。とにかく気をつけて探索するしかないのだろう。


「ありがとう、色々教えてくれて」


「お役に立てたら幸いよ。さ、行きましょ!」


 僕らは、得体の知れない白い森へと足を踏み入れた。


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