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第99話 アレックスが往く(2)

***



 マルヌス達を囲む魔物達。

 それはマルヌスが数日前に、ロータスの街中で見た魔物だった。



「――ゴブリン、ですか」


 ネストの言う通り、その魔物の呼び名はゴブリン。


 彼がその正体を口にしたのを皮切りに、ゴブリン達は続々と姿を現し始めた。


 ある者はガサガサと茂みをかけ分けて来て。

 またある者は木の上方の枝に立ち、そこから見下ろすように。


 四人が立つ場所を中心に、ぐるりと取り囲むように、四方八方から続々とゴブリン達が出てくる。



 ――ゴブリンは群れを成して動く。

 彼らの小柄な体は、単体で敵に立ち向かうにはあまりにも心許ないからである。

 仲間と連携して敵を囲い込むのが、ゴブリン達の常套手段。

 これはさながら、巨大な魔物に相対する時の人間のような考え方である。



 涎を垂らしながら、ニタニタとした笑みを浮かべるゴブリン達。

 その中でも、前方に出ていた三匹のゴブリン達が、勢いよく地を蹴って飛びかかってきた。


「ギャギャギャーー!」


 ――血走った目をギラつかせ。

 ――鋭い牙を剥き出しにして。

 ――溢れ出る涎を撒き散らし。


 笑い声にも似た奇声を上げながら飛び掛かってくるゴブリン達。


 その醜悪で凶暴な姿を前にした時。

 普通の人であれば、恐怖に縮み上がることであろう。



 しかし、残念ながら、この時のゴブリン達の標的は()()()()()()()()



 背に担いでいた大斧を引き抜く動作の延長で、腕を横に振り抜くアレックス。


 ――ブンッ!


 鋭く、重たい風切り音。


 大斧を横に振り抜いただけ。

 たったそれだけで、空気が震えた。



「……違うんだよなぁ」


 ぽつりとアレックスが呟く。



「……ギャ?」


 一方で、飛び掛かってきた三匹のゴブリン達は、不思議そうな声を漏らす。



 何が起こったのかわからないとばかりに、疑問符を浮かべるゴブリン達。


 しかし、その表情も(もっと)もであった。

 ――突然、ゴブリン達の視界がグラリと揺らいだのだから。



 まるで()()()()()が急に変わったかのように。

 ゴブリン達の視界は(かたむ)いていったのである。



 その理由は至って簡単な事だった。

 飛び掛かっていった三匹のゴブリン達は、アレックスの大斧によって、一瞬で上半身と下半身を切り離されてしまったのである。


 分離した上半身はバランスを崩し、頭の重みで横に倒れてしまう。

 それが、ゴブリン達が感じた()()()()()()であった。



 しかし、当のゴブリン達がその事実を知ることはない。

 自分の身に何が起こったのかを理解する間も無く、静かに絶命していくのだ。



 ――仲間達が一瞬で殺された。

 そんな光景を目の当たりにして、後に続こうとしていたゴブリン達は、思わずたじろいでしまう。



 そんな彼らに追い打ちをかけるがごとく、アレックスはズッシズッシと歩み始める。

 そして怯んでいるゴブリン達を、自慢の大斧でバッタバッタと切り裂いていった。



「違う、違う」


 常人では到底持ち上げられないであろう大斧を軽々と振り回すアレックス。

 その痛快な光景とは裏腹に、彼は不満そうな声を漏らし続けていた。



「……違ぁぁぁうッ!!」


 切り裂いたゴブリンの数が十を超えた頃、溜まりに溜まった鬱憤が爆発するかのように、アレックスは叫ぶ。



「俺が求めてるのはこんな奴らじゃない!

 こんな()()じゃあねぇーんだよぉぉ!!」


 空を仰ぎ見て、声高らかにそう訴えるアレックス。



 しかし、ゴブリン達はその隙を見逃さなかった。

 自分達から目線を切ったアレックスの脇をすり抜け、今がチャンスとばかりに雪崩れ込んで来たのである。


 危険な大男――アレックスは後回しにして。

 他の()()()()人間達を仕留めてやろう、と。



 だが、ゴブリン達の脅威はアレックスだけではなかった。


「リジエ!」

「うん! マルヌスくん、下がってて!」


 ネストの声に答えたリジエは、手にした長い杖で地面をトンッと突く。

 すると、リジエ達三人の周りを囲むように、複数枚の防御障壁が同時に形成された。



「ウギャッ!」


 駆けてきた勢いそのままに防御障壁に突っ込んだゴブリン達は跳ね返されて、短い悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。


「ハアァァッ!」


 バランスを崩したゴブリン達の隙をついて、ネストは構えていた槍を連続で突き出す。


 ――そうして、素早く、正確に。

 次々とゴブリン達の身を貫いていった。



「ほお! やるじゃねぇか!」


 ゴブリン達を斬り伏せながら前進していたアレックス。

 彼は、他の三人とは少し離れたところから、ゴブリン達を仕留めていくネストとリジエの姿を見ていた。

 そして、その鮮やかな連携に感心していた。



 ――しかし、それは同時に、アレックスは余所見(よそみ)をしていて、油断しきっていることを示していた。



「ッ!? アレックスさん! 危ない!」


 何かに気付いたリジエが叫ぶ。


 彼女の視線の先の映るのは、アレックスの後頭部に向かって棍棒を振り上げているゴブリンの姿だった。

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