第92話 焦燥(2)
「……うん。お誘いは受けることにした。
元々、ギルドライセンスは取るつもりだったから」
なるほどね。
実際、本職とは別に、ギルドライセンスを取っている人は結構いるらしい。
先日の委員長の話では、ギルド登録には試験があるらしいので、それを通過出来るほどの実力を持ち合わせている必要はある。
しかし、それさえパスしてしまえば、副業的にクエストを受注することができるので、ギルドライセンスを持っていて損はないのだろう。
特に、この学園に通う生徒ならば、ほとんどが将来的にギルドライセンス取得を目指すんだろうなぁ。
そんでもってレビィの場合は、一昨日の功績が認められて、試験は免除らしい。
まあ、それも当然だな。
大型幻獣種のワイバーンを単独で倒せる者など、それだけでランキング上位陣に食い込む事が確約されているようなものだから。
「おめでとう!」
俺は笑顔でレビィを祝福した。
しかし、レビィは不服そうな顔を浮かべながら口を開く。
「……マルヌスには来なかった? ギルド登録のお誘い」
真剣な眼差しで、じっとこちらを見つめるレビィ。
「あ、ああ! 俺には来てないよ!」
それに対して、俺は少し動揺しながらも、当たり障りのない返事をした。
「……なんで? ……納得できない」
ぶつぶつと呟くレビィから思わず視線を逸らし、シエルの方を見やる。
すると、シエルは少し遠くを見るような面持ちでため息をついた。
「そっかぁ。
……なんか、あたしだけ置いてかれちゃったみたいだね」
「ん? なんで?」
「だってさ。
マルヌスはポポロミート杯準優勝だし。
レビィはギルド登録のお誘いを、剣聖から直々に受けたんだよ?
二人ともすごいよ!
――それに比べて、あたしは、何も……」
「……シエル」
言い淀むシエル。
しかし次の瞬間、彼女はニッと明るく笑った。
「わかってるよ! 何もしなかったからだって!
だから――決めたんだ!
来年のポポロミート杯は、あたしも出場するッ!」
シエルは勢いよくそう言い放つと、今度は俺の顔を覗き込んでくる。
そして、まるで挑発するかように小生意気な笑みを浮かべた。
「そうしたら、マルヌスもライバルだからね?」
「……おう!」
俺は彼女の勢いに圧倒されながらも、口元を緩めながらそう返した。
――俺だってシエルに負けていられない。
そして、レビィにも。
***
「――だから先生、俺強くなりたいんです……ッ!」
放課後。
魔法実習の授業で使われる、学園内のいつもの広場で、俺はダーリィ先生に向かって自身の熱い気持ちをぶつけた。
そんな俺の話を聞いていたのか、いないのか。
ダーリィ先生はしゃがみ込み――俗に言うヤンキー座りで。
いつぞやレビィが遊んでいた、白い毛並みのぽっちゃり猫に猫じゃらしを垂らして戯れていた。
……あの猫は一体どこの猫なんだか。
まあ、それはともかく。
「……聞いてました?」
「あー、話は大体わかった」
ダーリィ先生は猫じゃらしを揺らす手を止める事なくそう言うと、「だがまあ……」と言って続けた。
「とりあえず今は、中級魔法の補修に集中しろー」
先生の言う通り、俺は今、放課後の時間を使って中級魔法の補修を受けている。
編入以来、時たま放課後にこの時間を設けてもらっているが、俺の中級魔法は一向に上達の気配がなかった。
「だりぃから、そろそろさー。
サクッと終わらそうぜー?
俺だって暇じゃねぇからさー」
「ぐっ……そ、それは申し訳なく思ってますよ。
だから今日は考えがあるんです!」
俺は手を掲げてニヤリと笑った。
「――炎よ、我が手に集い、灼熱の劫火となれぇぇ!」
手に集まっていく魔力の流れを感じる。
熱い――熱い魔力の流れ。
「おお、詠唱かー。
初歩的すぎて忘れてたぞ」
ダーリィ先生が猫から視線を切って、こちらに向いたのがわかった。
――詠唱。
俺はその存在を知らなかった。
元々俺の魔法は、マザーの見様見真似だったため、詠唱というものに触れる機会がなかった。
そしてどうやら、詠唱というものは基礎の基礎すぎて、ポポロミート学園ではあまり聞く事のない言葉らしい。
だからこそ先日、シエル達から『初めて中級魔法を使えた時の経験』を聞いた時に、詠唱というものの存在を聞かされた時には驚いた。
そして俺は思った。
詠唱を使えば、俺でも中級魔法を使えるかもしれない、と。
この感じ、悪くない。
今までで一番いい感じだ。
やってやる!
今日こそはやってやる……!
「炎よぉぉぉ……!」
駄目押しのようにそう呟きながら、ぐぐぐっと手に力を込める。
――ボッ!
俺の手元に、小さな火種が起こった。
そしてすぐに――消えた。




