第87話 唐突な招集(4)
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クロチェティによると、こういう事らしい。
――前7位のクワード・バレイは、既に魔力が空っぽになった召喚石をいくつか持っていた。
知識欲が旺盛だったクワードは、既にこの世から失われてしまった召喚石というものシステムに興味を持った。
そして独自に研究をしていたという。
既に効力を失ってただの石ころになった召喚石を買い集めていたのだ。
その話は当然の如く、魔王討伐時の仲間であり、大規模商人組織――『クロチェティ商会』のトップであるクロチェティにも伝わった。
そして、もし召喚石が手に入ったら優先的に売ってほしいと言われていたらしい。
――こうして聞くと、改めて思う。
俺の中でのクワードの印象は、魔法使いというよりは、物事の真理を追求するような――。
さながら賢者に近い印象だったな、と。
そしてどうやら、その印象は間違っていなかったらしい。
「――クワード卿の持っていた召喚石は……?」
ここまでの話を黙って聞いていたリブがそう聞くと、サーロンがゆっくりと首を横に振った。
「もちろん、確認済みだ。……無くなっていたよ」
そらを聞くや否や、俺はその場で勢いよく立ち上がった。
「じゃあ、クワードを殺した犯人に持ち去られたとかッ!?」
しかし、そんな俺を諌めるべく、クロチェティがすぐさま口を開く。
「結論を急ぐな! そうとは決まらんだろう。
そもそも、ワシがクワードから召喚石を見せてもらったのは何年も前なのだ。
途中で興が醒めて、自ら手放したのかもしれんだろうが。
……とにかく、座れ」
……むう。
確かに、その可能性も否めない。
しかし俺の知るクワードは、一度興味を持った物事に対して、途中で興味が失せるような性格の持ち主では無かった気がする……。
腑に落ちないところもあるが、クロチェティの目線に気圧された俺はゆっくりと腰を下ろした。
「まあ今のところ、召喚石とクワード殺害との因果関係は不明だ。
ビオラからの報告を待とう。
そこでなんだが……」
ここまで言ってから、サーロンは一息つく。
そうしてから、再び続きを語り始めた。
「現在、ロータスのギルドでは、クエストの受注を停止しているが。
これを機に、再開しようと思っている」
そういえば、先日グリーンドラゴンが森に現れて以来、ロータスのギルドはクエスト受注を停止しているんだったっけ。
ロータスのギルドと言われて、まず思い出すのは、あの温厚なギルドマスターのおじいちゃん。
次いで、俺に対して、ひたすらに懐疑的だった受付嬢。
彼女の冷たい目線を思い出し、思わず苦笑いしてしまう。
そんな俺の横で、リブは不安そうな面持ちだった。
「大丈夫でしょうか?」
「ううむ。リブちゃんの心配するところも尤もなのだが……。
ひとまず、幻獣種が現れた原因の一端がわかった。
そしてその被害を抑える策として、『クエスト受注の停止』が別段有効ではない、という事も。
なにより、街の経済活動や治安を考慮すると、これ以上クエスト受注を止めているわけにもいかんのだ」
困り顔でそう答えるサーロン。
そんな彼の言葉の意味を、素人ながら、俺なりに考えてみる。
クエスト受注停止により、困っているクエスト依頼者達。
有り余る力を振るう場もなく、昼間から酒盛りをしている荒くれ者のハンター達。
収入源が絶たれ、別のギルドを拠点とすべく、ロータスの街を離れてしまう強者達。
監視の目が減った森には密猟者が増え、それにより崩れていく生態系。
色々な懸念が浮かぶ。
確かに、いつまでも正体のわからない敵に怯え、クエスト受注を停止しているわけにもいかない、か。
「一般人ならば守るべきだがの。
仮にもギルド登録者ならば、狩場に入った時点で、それはもう自己責任。
過剰な心配は不要というものだぞ、ステイクス嬢」
「厳しい言い方だが、そういうことだ。
だが一方で、街の警備にはこれまで以上に力を入れねばならぬ。
ロータス城の兵士たちの警備体制を再度検討する。その他の方策についても絶えず検討していくつもりだ――」
こうして、この場はお開きとなった。
召喚石というものの脅威はわかった。
しかし、その出所は未だ不明。
そして、マザー達殺害の犯人の手がかりも依然見つからず。
……これといった進展はなかったな。
その場を去る皆の背中を見ながら、俺も席から立ち上がる。
俺も戻ろう。
しかし、そんな俺を呼び止める声が一つ。
サーロンだ。
「お前、やっぱりまだあの癖、治ってないんだな」
……やっぱりその話か。
「ああ。相変わらず、初級魔法しか使えない。
……だからワイバーンにも勝てなかった」
俺は手を広げて、戯けるように笑った。
『本来、お前が速やかに仕留めておかなければならないだろうが……!』
さっきのクロチェティの言葉が反芻する。
実際、さっきのクロチェティの言葉は、俺の心にしっかりと突き刺さっていた。
その傷を抉るようなサーロンの問いかけに対して、これが今の俺にできる精一杯の強がりだった。
しかし、サーロンは首を横に振る。
「俺が言ってるのはその事じゃない」
その言葉に疑問符を浮かべる俺に対して、サーロンは続ける。
「お前は昔から、大型の幻獣種を前にすると弱腰になる癖がある。
それが何から来るものなのか、俺にはわからない。
お前自身は、初級魔法しか使えないからだと、大型の幻獣種に対抗する術を持ち合わせていないからだと、そういう風に考えているようだが。
もしそれが原因ならば、魔法についてきちんと学び直すのも良いかと思い、ポポロミート学園に通う事を推奨した。
――だが、本当にそれが原因か?」
「……」
「どうもお前は、初級魔法しか使えない事に劣等感を抱きすぎているように思う。
……俺は、お前の力には、もっと色々な可能性が満ち溢れていると思うんだがなぁ」
押し黙る俺の肩に、大きな手をポンッと置いてから、サーロンは去っていった。




