第8話 マルヌが征く(4)
まずは、必要最低限の小さな防御障壁――それを狙われた腕の前に展開し、ラウダのナイフを弾く。
それとほぼ同時に、狙われたのと逆の腕を前に掲げる。
――が、その瞬間、俺にある妙案が浮かぶ。
そうだ! いい事思いついた!
「悪いなみんな」
小さく呟く。同時にニヤリと口角が上がってしまう。
まるでいたずらをする子供のような気持ちになり、思わず笑みが溢れてしまった。
掲げた手の前に冷気を集中。
パキパキッと音を立てながら、小さな氷の弾丸を九つ生成。
軽めの威力で俺の周りの九人に向けて発射する。
一斉射撃である。
まあ、当たってもデコピンで強めに弾かれたくらいの痛みだろう。
「いてぇ!」
「きゃっ!」
「いったぁーい!」
俺の放った氷弾は三人の額に直撃した。
嫌味男のラウダ。
嫌味女。
それともう一人の見知らぬ女。
いずれも新しくランキング上位になった者達だった。
ラウダが自分の事を6位と言っていた。
恐らく他二人は、現7位と8位だろう。
「――くそ! なにしやがんだ!?」
「先に仕掛けておいてそれは無いだろ?
って言うか、それぐらい防げよな。周りを見ろよ」
……と言っておきながら、正直ホッとした。
それぐらいやってくれなきゃあ困る。
前2位、現1位、サーロン・ステイクス。
腰の剣の鞘を持ち、半身だけ抜いた剣で氷弾を弾いている。
『剣聖』の剣技は今も健在だ。
前4位、現2位、クロチェティ・ノチス。
腕を組んだまま防御障壁を展開し、氷弾を弾き落としている。
小太りで口うるさいジジイ。
俺はこのジジイのことが嫌いだが、実力は確かだ。
前5位、現3位、ナナ・ナックル。
黒いバンテージをつけた拳を突き出し、氷弾を殴るように弾いている。
最強の女性モンクとして有名な彼女だが……あれ、痛く無いのか?
前6位、現4位、アレックス・ケイン。
大斧を振り回して戦う戦士……だが、腕を組んで頭を伏せたままだ。
彼の腕は大袈裟ではなく俺の胴回りくらいの太さがあり、氷弾はその腕に命中していた。
……ありゃあ多分、寝てるな。
前8位、現5位、メモリー・バフ。
彼女は『攻撃力強化』や『防御力強化』といった身体強化魔法が得意な魔法使い。
常に持ち歩いている分厚い魔術書で氷弾を防いでいた。
……俺が選んだのが炎弾じゃなくてよかったな。
現9位、リブ・ステイクス。
彼女に至っては、軽く抜いた剣の刃で氷弾を両断している。
これには驚いた。
昨日は素人みたいに狼狽えていたが、ランキング9位は伊達じゃ無いと言ったところか。
正直、リブ以外の現在のランキングは、昔のランキングを単純に繰り上げただけの推測でしかない。
だが、おそらく順当だろう。
ラウダ曰く古株組の全員が氷弾を防いでいる。
(アレックスは当たっているが効いていない、と言う事で良しとする)
その光景を目の当たりにして、ラウダ自身は額をさすりながら、言葉を詰まらせていた。
「……くっ! 俺だって来るのがわかってりゃあ……」
「そりゃそうだろうな。ただ、今のは全員が同じ条件だ。
実戦だったらあんた死んでたぜ」
「ふ、不意打ちかましていい気になってんじゃねえぞ!」
「騒ぐなよ。ガキじゃあるまいし」
俺は円卓をバンッと強く叩く。するとラウダは体をビクッとさせた。
「ガキのお守りで来たんじゃねぇぞ。こちとらよぉ」
いやらしい笑顔で先程のラウダの台詞をそのまま返す。
心なしか先ほどまでより一回り小さくなったように見えるラウダは、これ以降一言も喋らなかった。
「――こら! 机を叩くな!」
クロチェティの親父が俺を注意する。相変わらずの口うるささが滲み出ている。
まあ言っていることは……間違ってない。悔しいが。
「……話が逸れたな。とりあえず今は、俺の部下達と、クロチェティ商会の者達で、敵が何者かを探っている」
サーロンはこのロータス城の兵士団長も務めている。部下達というのはロータス城の兵士達だろう。
クロチェティは戦士であり、商人でもある。クロチェティ商会と言えば世界でも指折りの大商会であり、その情報網は侮れない。
「ま、一番可能性があるのは……魔王か」
「……考えたく無いですが」
現3位と5位のナナとメモリーが口を開く。
「当然、その線も考慮している。前回の魔王討伐から12年、新たな魔王が生まれていてもおかしく無い」
『魔王』とは単一の魔物を指す名前でも、魔物の種族の名前でも無い。
そして不定期ではあるものの、幾年かのサイクルで自然発生するものである。
種族も形態もまちまちだが、歴代魔王達の一つの共通点として、幻獣型の魔物を率いる長になっている事が挙げられる。
そんな才覚を持った魔物が必然的に魔王となるのだ。
「前回の魔王討伐に関わった者が優先的に狙われているってのも妙な話だけどね……」
ナナは神妙な面持ちで呟く。
すると、それに応えるように「ふあー」と大きなあくびの声が響いた。
「……どうでもいいけどよー。
要は俺らが囮になって、襲ってきた奴を片っ端から絞めればいいんじゃねえの?」
先程まで寝ていたと思われるアレックス。
彼はそれを隠そうとする事もせず、いかにも寝起きであると言わんばかりののんびりとした声でそう提案した。




