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第69話 レビィと行く(1)

***



 レタリーさんに「プププ」と見下されたあの放課後から数日後。

 休日の昼間に、俺はロータスの街の中心にある噴水の前に立っていた。



 この噴水は街のシンボルのようなもので、よく待ち合わせに用いられるそうだ。


 暖かな日差しに、爽やかな水の音。

 人々の楽しげな笑い声が穏やかな風に乗って聞こえてくる。

 時折、無邪気に走り回る子供達の姿も目に映る。


 ――そんな、とてものどかな休日。

 心安らぐ雰囲気が満ち溢れるこの街の中心地が、この噴水広場なのである。



 しかし、そこに立つ俺の心臓は、その場に似つかわしくないほどにドクンドクンと騒々しく暴れ回っていた。


 俺がなぜそんな心持ちでこの場に立っているのか。

 その理由は、あの日に遡る――。

 



「これなんだけど」


 レタリーさんと委員長が去った後。

 残された俺とシエルの元にやってきたレビィが、ローブのポケットから二枚の紙を取り出して俺達に見せてきた。


「なにこれ?」


「……舞台のチケットだって。

 今日、アニマからもらったの」



 アニマというのは、レビィやシエルの友人の女子だ。

 俺はまだあまり話したことはないが。

 レビィが手にしている紙――もといチケットには何やら細かい文字が書いてあったが、俺がその文字を読む前に、隣のシエルが驚嘆の声を上げた。


「え!? すごい!

 それって今超人気で滅多にとれないやつじゃない!?」


「……そうなの……?」


 レビィの口ぶりからするに、彼女はその舞台についての前情報などは持ち合わせていないようだ。

 それに対してシエルはやや興奮気味に身を乗り出す。


「二枚ってことは二人分だよね?」


 レビィはこくりと頷いた。


「ん。二人が興味あったら、どうかと思って」


 なるほど。レビィ自身はあまり興味がないようだ。

 かく言う俺も、未だに何の舞台だかはわかっていないものの、あまり興味はない。


「レビィとシエルで行ってくればいいんじゃない?」


「え!? いいの!?」


 俺の言葉に、即座にそう聞き返してくるシエル。

 どうやら彼女は、チケットをもらったレビィは行くものとして、残りの一枚を賭けて俺とシエルでの争奪戦になると思っていたようだ。



 そんなシエルだったが、レビィの持つチケットをまじまじと見るなり、「あちゃー」と小さく落胆した。


「あたしは行けないや。

 その日、家の手伝いしなきゃいけないから」


 露骨に肩を落とすシエル。

 そんなに行きたがるものなのか。


「……シエルの家、人気のご飯屋さんだから。

 お休みの日はいつも忙しいもんね」


「まあ、いつもは平気なんだけど。

 その日は特に忙しいらしくて。

 ほら、ちょうどあたしも今、金欠だし」


 どうやら実家の手伝いをしてお駄賃をもらう予定らしい。

 毎日多くの間食を挟む彼女にとっては、()()という事態は文字通り死活問題と言えるのだろう。



 それにしても、彼女の実家はご飯屋さんなのか。

 日頃幸せそうに大盛りメニューを平らげる彼女の強靭な胃袋は、食事提供のプロフェッショナルである両親の英才教育の賜物なのかもしれないな。

 知らんけど。



「……じゃあマルヌス、行く?」


「うーん」


「やめとく? ……あたしも、あまり興味ないし」


 そんな俺とレビィのやりとりに勢いよく噛みつくシエル。


「だめだよ行かないと! アニマがどんな気持ちでそれを譲ったのか考えるだけで――ああッ!」


 ――ああッ! ってなんだよ。


「とにかく! レビィとマルヌス! 絶対に行くようにッ! 今週末だからねッ!」



 こうして、シエルの強引な説得に説き伏せられた俺たちは、休日に舞台を見に行くこととなったのだ。



 そして、その後の帰り道にて。


「……マルヌス。はい。チケット」


「ああ、ごめん。レビィが持っててくれない? 俺、無くしちゃうかもしれないし」


 苦笑いでそう言う俺の顔を見るなり、レビィはくすっと小さく笑った。


「なに? まさか、また()()()()って言いたいの?」


「……ううん。そうじゃなくて。

 ちょっとだけ、楽しみになってきたの」


 レビィはそこまで言うと、その人形のような端正な顔立ちで柔らかな微笑みを浮かべながら、小さな声で囁いた。


「……デートみたい……だね?」




 ――その日から、俺の心臓は故障したかのように落ち着きを失っていた。

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