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第41話 賑わいの朝(2)

 シエルとレビィに案内されて、俺は今日の会場前に辿り着いた。



 ここは、今までの学園生活では来なかった場所だな。

 なんでも、ポポロミート杯のような学園の一大イベントでしか使われることのない施設だそうだ。


 円形な外観。その形に沿って、まるで木の年輪のように何層も観客席が並び、その中央に少し開けたスペースがある。

 円形闘技場――所謂、『コロシアム』と呼ばれるところである。



 その建物の外、ちょうど入り口の脇くらいに、掲示板が立てられており、そこに今日のトーナメント表が張り出されているようだ。


 ぎょうぎゅう詰め、とまではいかないものの、そこそこの人だかりが出来ている。

 そんな中に、見知った姿を見つけた俺達は、その人物の元に駆け寄った。



「委員長、おはよう」


 あれ? 聞こえなかったのかな?

 俺の声掛けに全く反応のない委員長。


 立ったまま寝ている、なんて事ないよな?


 目はこれ以上ないくらいに見開いているし……。

 というか(まばた)にをしていない?

 口も半開き。顔色も悪い。

 ……これは普通じゃないな。



「委員長!?」


 その尋常じゃない委員長の様子に、只ならぬ事態を悟ったシエルも、思わず声を張り上げる。

 しかし当の委員長は、そんなシエルに答えるでもなく、力無くポツリと。


「大変なことになったわ」


 それだけ呟いた。



「大変な事?」


「あれ、見てみなさいよッ!」


 うお!? 急にいつもの委員長の勢いが戻って来た!

 いつも荒いんだよなぁ。



 恐る恐る委員長の指差す方を見る。

 ま、当然、トーナメント表についてだよなぁ。

 まさか本当に、一回戦目からリブだったりして。



 ……うーん。

 あ、あった。マルヌス・ターヴィン。第三試合だな。

 相手は――。


 ――『ガント・ハグバール』。

 なんだか最近よく聞いた名前だな。



「……うわっ」

「あっちゃー……」


 レビィがあからさまに嫌そうな顔をしている。

 隣のシエルは頭を抱えている。


「まさか初戦から、風紀委員長と当たることになるとはね……。

 あなた、さては昨日、何か悪いことしたでしょ!?」


「してねーよ!」


 むしろいい事をしたくらいだ! 密猟者を捕らえたんだから!



 それにしても――初戦の相手は風紀委員長か。



 噂では、今年のポポロミート杯の優勝候補は三人。



 一人目はリブ・ステイクス。

 ギルドランキング9位という肩書きは勿論のこと、去年、一昨年と、二年連続の優勝者。

 誰もが認める、文句なしの優勝候補だ。



 二人目はアルテア・スノウ。

 生徒会会長を務める才色兼備。得意とする魔法――クレイドールも強力で、攻守盤石の布陣。

 間違いなく強い出場者であると言えるだろう。



 そして三人目が、剣術科の生徒――ガント・ハグバール。

 風紀委員長であり、学園の規律を乱す生徒を厳しく取り締まれるだけの確かな実力がある。

 戦い方が近い事もあり、()()()()()()()()()()()ようだった。



 ――そう。一昨日、彼から名前を聞いた時は咄嗟に思い出せなかったのだが、あの後城に戻ってから、噂に聞いた風紀委員長の名前だったと思い出した。


 そして、ダメ元でサーロンに聞いてみたんだ。


『ギルドに登録している若者で、ガント・ハグバールという男を知っているか?』と。


 サーロンはその名を聞くと、ガハハと笑いながら答えてくれた。

 ギルドランキング29位。『不屈のガント・ハグバール』。


 ()()、ね。

 聞いた瞬間、俺は「ククッ」と小さく笑った。

 込み上げてくる笑いを抑えられなかった。一昨日、グリーンドラゴンと対峙していた彼の姿は、まさにそれだったから。



「すぐ会えるさ」


 別れ際、彼はそう言っていた。

 きっと彼は、俺の名前を知っていたのだろう。

 学園の規律を守るものとして、編入生の動向などは監視対象だったのかもしれない。


 ……まさかこんなにすぐに会えるとはな。



「なにニヤニヤ笑ってるのよ!? さっそく優勝候補との戦いなのよ!? わかってるの!?」


 俺の様子が気に食わないようで、早口で捲し立ててくる委員長。

 ……俺はガントよりも君の方が怖いよ。



***



 しばらくして。



「さぁさぁ、今年もやってまいりました。

 第十回、ポポロミート杯。

 みんなー。盛り上がってるー?」


「イエーー!!」


「まだまだ声が小さいぞー。もう一度いくよー。

 みんなー。盛り上がってるー?」


「イエーーーーッ!!」


「いいねー。盛り上がってるねー。

 今年の司会進行は私、剣術科三年のマリーと――」


「……同じく剣術科三年のオレガノ」


「――がお送りしまーす。みんな、よろしくねー」


「ウオーーーーッ!!」



 絶妙に、語気に覇気を感じない司会者たちの声が聞こえてきた。

 別に、彼女らにやる気がない訳ではないのだろう。

 ただ単に向いてないと言うべきだろうか。


 マリーさんはそんな事を気にも留めていないようで、至って平常運行といった様子だが、一方でオレガノさんの方はいまいち乗り切れていない様子。


 しかし、客席のボルテージは中々のもので、そんな彼女らの様子もお構いなしに盛り上がっている。


 ……なんだか、アイドルのライブが始まったみたいな雰囲気だな。



 それにしても、あの二人が司会をやっているとは意外だ。


 マリーさんは「えー、めんどくさぁい」とか言いそうだし、オレガノさんも「そういうのはパス」とかバッサリ言いそうだし。

 なんか特別な意図でもあるのだろうか?



 そんな事を頭の片隅に浮かべながらも、俺は未だ会場に入らず、気になっていた焼きそばの列に並んでいた。

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