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第35話 森の調査(2)

 俺と目が合ったものの、すぐに視線を外す受付のお姉さん。

 俺には微塵も興味がないといった様子で、辺りをキョロキョロと見回している。



「リブさん。今日は『魔弾の射手』として名高い、マルヌ・スターヴィンさんとの合同任務だと聞いていましたが……。

 ご一緒ではないのですか?」


「いるじゃない。ここに」


「……そこの長身で色黒の(かた)ですか……ッ!?」


「違う違う。こっちの、ちっこくて白い(ほう)よ」


 俺は、チャラッという静かな金属音を立てながら、首から下げているライセンスタグを取り出して見せる。

 まあ、お姉さんの立つ位置からタグに彫られた文字が見えるかはわからないが。


 リブの素振りからも、決して冗談を言っている様子は感じないだろうから、それだけで多分伝わるだろう。



「は……はぁーーッ!?」


 ちょっ!? 声がでかい!


 振り返らずともわかる。ギルド内の人々の視線が一斉に受付カウンターに集中しているのが。



「――おい! あれ、リブ・ステイクスじゃないか?」

「本当だ! ギルドランキング9位の!」

「剣聖の娘だ」

「……美しい」

「一緒にいるの誰?」



「……これこれ。失礼な態度を取ってはいけないよ」


 そんな様子を見かねたロータスのギルドマスターが、受付のお姉さんを(たしな)めた。



「皆さん、失礼致しました。

 本日はクエストの受注は休止しておりますが、バーカウンターの方は通常営業……いえ、ドリンクを割引してご提供させていただきます。是非ご利用ください」



 ギルドマスターの、優しくも通る声が響く。

 それにより、周りの人々の注意はバーカウンターの方に向いたようだ。助かった。

 それにしても、一言で収めてくれるとは。流石は、このギルドの(おさ)といったところか。



 澄まし顔でグラスを拭き拭きしていたバーテンダーのお兄さんが、鳩が豆鉄砲を食らったようにハッとしてこちらを向いたが、無視させていただこう。



 そう思ったのも束の間、バーカウンターに雪崩れ込む人達で、お兄さんの姿はすぐに見えなくなってしまった。

 大繁盛ですね。ご愁傷様。



 ギルドが通常クエストの斡旋業務を休止しているのは、やはり昨日、幻獣種が出没したことが理由だろう。


 余計な騒ぎが起きないよう、昨日の件はブルーノ王より緘口令(かんこうれい)が出た。

 だから一般の人々はまだそのことを知らないはずだ。


 しかし、原因の一端がわかるまでは、何らかの理由をつけて休止が続くかもしれない。

 そうしないと、思わぬ被害を招きかねないからだ。



「――マルヌさん、お久しぶりですね。と言ってもあなたは覚えていないかもしれませんが。

 12年前の魔王討伐の時に一度、あなたにお会いしているのですよ。大きくなられましたな。」



 そう言って、「ホッホッ!」と優しく笑いながら語りかけてくるギルドマスター。

 小さなフレームのメガネが少し落ちてきてしまっていることも加わってか、先程とは打って変わり、ただただ癒されるおじいちゃん、といった印象を受ける。



「そうなんですか! すみません、覚えてなくて……」


「いやいや、仕方ないですよ。当時貴方はまだ五歳くらいでしたから」



 そんな会話が聞こえているのか、いないのか。口をパクパクさせて力無く俺らを見つめる受付のお姉さん。

 そんな彼女の様子がふと横目に入ったのか、ギルドマスターは、苦笑いを浮かべた。



「先程は失礼しましたな。

 この子、ロータスのギルドに配属されたばかりなのですが、どうも『魔弾の射手』の()()()だったようで……。

 魔王討伐部隊が拠点としたこの街のギルドならば、いつかマルヌさんに会えるかもと、この街への配属を希望したと言っておりました」



「それは……悪いことをしたわね」

「どういう意味だよ!?」


 深刻に顔を曇らせるリブ。

 そんな彼女に対して思わず声を荒げたが、俺もその意味は分かっているつもりだ。

 なんかごめん……って、俺は悪くないけど。



「――じゃあ、ちゃっちゃと行きましょう!

 ほら、行くわよ!」


「わかったから! 引っ張るなって!」


「では、お気をつけて」



***



 静かな森。ひんやりとして澄み切った空気に、木々の合間からまばらに差し込む温かな日差し。時折聞こえる鳥たちの声。


 のどかな自然に包み込まれ、心が安らいでいくのを感じる。

 同じ森のはずなのに、昨日とは大違いだ。


 ――行きは、血の気の多いハンターの男たちが、まるで自分たちを鼓舞するように大きな声で喋っていたし、ドラゴンと対峙していた時は尋常じゃない緊張感。

 そして帰りは、ドラゴンを倒した余韻に浸ることもままならず、すぐに別の脅威が襲ってくるんじゃないかと、あたりを警戒していたからな。



 こうして自然を感じていると、山に住んでいた時を思い出す。

 思えばここ数日は、人混みにまみれて暮らしていた。慣れない環境に対して、自分なりによく頑張っている方だと思う。



「……ピクニックに来たんじゃないのよ?」


 そんな俺の心情を察してか、こちらを振り返ることなくそう言い放つリブ。確かに、昨日の今日ではあるのだが、精神的にいくらか余裕があるように思う。

 それもそうか。なんたってギルドランキング9位様が一緒だもんな。

 

 なんてことを考えながら、前を行く彼女の後ろ髪を眺めていると、そんな呑気な俺を律するかのごとく、キッときつく睨んでくるリブ。

 前々から思ってたけど、こいつ、俺の心が読めるのか?



「どこに向かってるんだ?」


「まずは、昨日ドラゴンが討伐されたポイントね。

 そこからドラゴンの動向を遡ってみれば、何か手がかりが見つかるかもしれない」


「……それだったら、こっちじゃないぞ?」



 俺の言葉を聞くや否や、バッと勢いよく振り返ったリブ。

 その顔は驚きの表情から、徐々に赤みを帯びてきて……。



「――そうよ! あなたが討伐したんじゃない!

 案内しなさいよッ!」


 討伐したのは俺じゃなくてガントだけどな。

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