第33話 久々のギルド(5)
***
「……まさか本当に倒してしまうとは……」
緑の鱗を散らばらせ、白目を剥いて横たわるグリーンドラゴンの亡骸。
それを見ながら、僕はぽつりとそう漏らす。
先程までの緊張感から解放されて、全身の力が抜けきってしまった。
そんな僕とは対照的に、少年達は冷静だった。
「こいつの肉も……美味そうだな」
「ようはでっかいトカゲだろ?」
「……そう言われると、食う気が失せる」
「なんで? 鶏肉みたいな味なんじゃない?」
「トカゲ、食ったことあるのか!?」
「グレイオオヤモリとか、俺は好きだけど」
……。
「……一番好きな食べ物は?」
「グルメフロッグの唐揚げ、とか」
「なるほどな」
「なにが『なるほど』なんだよ!?」
何かを納得している大剣の少年と、何か納得のいかない様子の細身の少年。
そんな他愛のない会話に、彼等がハンターとしてはまだ年端もいかぬ少年達であったことを思い出し、思わず乾いた笑いが溢れた。
「ハハッ……君達はすごいな」
僕は、もうダメだ。
完全に心が折れてしまった。
決して埋まらない、圧倒的な才能の差を思い知らされてしまった。
それ程までに、彼等と僕とではスケールが違いすぎる。
そんなものは甘えだ、努力で補える――僕がもう少しだけ若かったら、そう思うことも出来たかもしれないな……。
***
ギルドに報告を終えた俺たちが外に出ると、辺りはもう夕暮れになっていた。
それもそのはず。あれだけ長いこと拘束されていたんだからな。
――幻獣種のグリーンドラゴンが街のすぐ近くで現れた事は、ギルドの職員達をかなり驚かせた。
それだけ珍しいことであり、同時に脅威的な事であったと再認識させられた。
元々、ここからは遠く離れた、魔力の密度の濃い山の上を好むグリーンドラゴン。
それがなぜこんなところに現れたのか。
彼等の住まう山の生態系に、何らかの変化があったのだろうか。
ギルドマスターはロータス城に連絡係を向かわせていた。
この事はすぐに、ブルーノ王とサーロンに伝わるだろう。
そんな事せずとも、後で城に帰ったら俺が伝えときますよ、とは言わないでおく。
俺がなぜ城に住んでいるのかの説明なんかしたくないし、その他にも色々と面倒そうだから。
大体、俺は特別任務とやらで学園に通わされて――除け者にされているんだし、難しい話は大人に任せるとしよう。
そんな事よりも俺は、受付のお姉さんが何やら不満そうな顔をしていたのが気がかりだ。
グリーンドラゴンを討伐したことを伝えると、彼女は怒った様子で口を開いた。
「大人をからかうのもいい加減に……!」
と、そこまで言ったところで、ギルドマスターに止められていた。
俺らが討伐した事がそんなに信じられないだろうか?
なんだか悲しい。
これからもギルドの依頼をこなしていく中で、彼女のお世話になるだろう。
是非とも良好な関係を築きたいところだが……。
さてと。
俺は今日の戦友を見やる。
あれだけ饒舌に喋っていたリーダーの男は、見る影もなく大人しくなってしまった。
少しだけ寂しく感じる。
彼はなんだかんだ最後まであの場に残っていたな。
戦いの中で助言もくれたようだったし、悪い人じゃない事は十分伝わってきた。
出会いの形はあまりいい印象では無かったが、また会うことがあったら、一緒にクエストに行ってもいいと思っている。
そしてもう一人。
大剣の男――と言ってもその大剣は崩れ去ってもう無いのだが。
彼がいなければ、今日のグリーンドラゴンの討伐は叶わなかっただろう。
感謝と尊敬の念を抱くと同時に、俺自身、目を背けてきた課題を嫌と言うほど痛感させられた。
――俺は大型の魔物に対しての有効打に欠ける。
敵の弱点を撃ち抜くことでカバーできていたつもりだったが、それも幻獣種の大型レベルの敵には通用しないことは、なんとなくわかっていた。
せめてもう少し威力がないと、貫くべき弱点も貫けない。
そんな事を考えている横で、大剣の男はリーダーにハンマーを手渡す。
「ハンマー、助かった。返しといてくれ」
「ああ、わかった」
リーダーはハンマーを横に置くと、寂しそうな顔で口を開いた。
「今日は助かったよ。ありがとう。
色々と勉強させられたのはこちらの方だった。
最後に一つだけ……君達の名前を教えてくれるかい?」
最後に? なんか引っかかるな。
そんな水くさい言い方するなよ。
「マルヌ……マルヌス・ターヴィンっす。
また会うことがあったら、誘ってください」
この街では偽名の方がいいだろう――なんて、水くさいのは俺も同じか。
俺が手を差し出すと、リーダーは「ハハッ」と小さく笑いながらその手を握り返す。
「ガント・ハグバールだ」
大剣の男――ガントも、リーダーと握手を交わした。
「君達はきっと大物になる。応援しているよ」
「ちょっと待って! 名前は?」
俺たちの名前だけ聞いといて、それはないだろう。
「……エドガー・アンダーだ。覚えなくていいよ」
覚えなくていい? なんだそりゃ?
去りゆく彼の背中。
それを見ていると、なんだか彼はもう戻ってこないような気がした。
そんな哀愁漂う後ろ姿を見送った後で、俺はガントに向き直る。
「同世代でこれだけ戦える奴は珍しい。感謝する。マルヌス」
「俺もだ。今日は助かったよ。また会えるといいな」
「……すぐ会えるさ」
ガントは意味深にそう言って去っていた。
ガント・ハグバール……。
どこかで聞いたような気がするが、どこだったっけ。




