第32話 久々のギルド(4)
「鱗で覆われてる所はダメだ!
無い所を狙ってけ! 腹とか!」
細身の少年が声を上げる。
確かに、グリーンドラゴンの腹部は、緑色の鱗に覆われておらず、白っぽい外皮のみのように見える。
しかし、大剣の少年はあまり優れない表情を浮かべながら口を開いた。
「無理だ!」
「なんで!?」
「さっきのでお釈迦になった!」
僕の元にも少年達の会話が聞こえて来る。
見ると、彼の手にする大剣は、これでもかという程に刃こぼれしており、文字通りボロボロになっていた。
「なんでそうなる!?」
「さっき奴の鱗に弾かれた時だ!」
「それはわかってる!」
「ちょうど新調したばかりなのだが……今月、厳しくてな」
「安物買ったのか!?」
「イービルボア程度なら大丈夫な筈だったんだ!」
しかし敵は、そんな少年達の見苦しい言い争いを待ってくれるほど優しい筈もなく。
今度はその強靭な前足で踏みつけようとしてくる。
彼らはその場から飛び退いて、それを難なく避ける。
今度は細身の少年が腕をドラゴンに向けた。
そこからドラゴンの腹部に向かって、何かが一直線に進んでいく。
といっても、ほとんど僕の目では追えなかったが。
おそらく、魔法による攻撃。
それが命中すると同時に、短い声を上げるドラゴン。
しかし、それだけ。
大したダメージは負っていない。
「くそ! やっぱりダメか」
彼はその結果を分かっていた様子で、深く悩む素振りも見せずに、再び大剣の少年の方を向く。
「その剣、元々、斬るって言うより殴るに近いだろ!?
何とかならないのか!?」
「いや、感触でわかるんだが、もう何かの衝撃ですぐに崩れ落ちそうなくらいになっている!」
「もーー!!」
――殴る……?
「少年!」
僕は大剣の少年に向けて合図した。
これを使えと。
「……なるほどな」
大剣の少年は、持っていた剣を放り駆けてくる。
彼の言う通り、大剣は地面に当たると同時に砕け散った。
そして彼は、代わりの武器を拾い上げた。
それはハンマー。
僕の仲間の男が捨てていったものだが、それなりにいいものだったと記憶している。
ただ一つの懸念点。それは、このハンマーを扱えるだけの筋力。
このハンマー、見た目通りかなり重い。
おそらく、細身の少年ならば持ち上げるのも無理だろう。
しかし、大剣の彼ならば、もしかしたら……。
そんな僕の一抹の不安は即座に一蹴された。
大剣の少年は、ハンマーを軽々持ち上げると、試しに振ってみせる。片手で。
ブンッ! と重い音を響かせ、「……ハッ!」と意味深に笑う少年。
「気に入った! 借りるぞ!」
ぶっきらぼうにそう言って、再びドラゴンに向かって駆けていく。
「うおおお!!」
ドラゴンの前足に向かってハンマーを振り下ろす。
すると、先程とは異なり、ドォン! という地響きとともに、舞い散る緑の鱗。少し後に飛び散る鮮血。
「ギャアオオオォォォッ!!」
初めて、苦痛に顔を歪めるグリーンドラゴン。
その様子に、細身の少年は驚いている様子。かと思えば、叫び声を上げる。
「――離れろ!」
大剣の少年はその声に反応し、即座に後ろに飛ぶ。
次の瞬間、グリーンドラゴンは頭を少しだけ後ろに引いたかと思うと、すぐに前に突き出し、口から炎を吐き出した。
――あれは『ブレス』。ドラゴンが得意とする攻撃だ。
それを見るや否や、細身の少年は自分達の前に横並びに防御障壁を並べる。
一枚一枚は薄いものの、物理的な衝撃の少ないブレスは防ぎきれたようだ。
……それにしても、何という反応速度だ。
敵の挙動を見てから動いている筈だが、あそこまで近距離でそれに反応し、防御障壁を展開できるとは。
大剣の少年もそう感じている事だろうと思う。
そんな彼はニヤリと口角を上げると、ドラゴンの周りに沿うように走り出す。
「――頭を直接狙う! 手伝ってくれ!」
「わかった!」
ドラゴンの視線は、自らの周りを弧を描くように駆ける大剣の少年に向けられた。
しかしその直後、そんなドラゴンの鼻先で小さな爆発が起きる。
ドラゴンの視線は強制的に引き戻された。
さらに続け様に、ドラゴンの頭の周辺で横並びに連続して小さな爆発が起こる。
その爆発を目で追うドラゴン。
奴の視界からは、完全に大剣の少年が消える。
これは――細身の少年の魔法による陽動だ。
「最後に一発!」
細身の少年の声とほぼ同時に、ボフンッ! という鈍い爆発音。
その一発はこれまでのとは違い、空間での爆発ではなく、ドラゴンの顔に直撃して爆発した。
小さな黒い煙が立ち込めるが、程なくして晴れていく。
ドラゴンはダメージこそ受けていない様子だが、思わず目を瞑り、怯んでいる。
そんなドラゴンの意識の外に立つ大剣の少年。
彼はドラゴンの後脚の方まで駆け抜けていた。
「――来いッ!!」
「――行けッ!!」
大剣の少年と細身の少年が同時に叫ぶ。
それを合図とばかりに、大剣の少年が飛び上がる。
するとその先の空中に、細身の少年の防御障壁が、地面と並行に形成された。
かと思えば、連続して同様の防御障壁を数枚形成。
それはドラゴンの頭上まで続くように、階段状に設置された。
大剣の少年はその防御障壁を次々と踏み台にして、一気にドラゴンの頭上まで駆け上がる。
「うおおおおおッ!!」
そして、そこからハンマーを振り下ろす。
彼の力と重力が合わさり、ドラゴンの脳天に降り掛かる。
ズシーーンッ!
これ以上ないくらいの地響きが辺りを揺らした。




