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第247話 魔王討伐の旅(8)

***



「……間違いなく魔王直属の魔物でしょうね」


「ああ。この村の手練れが手も足も出なかった事を考えると、な」


 アレックスによって切り伏せられたデビルやデーモンの亡骸を見て呟くサクリーに、サーロンは静かに同意した。



 ――フェンリルの群れを処理し終えた面々がスプリ村へ戻ってみれば、戦いは既に終着していた。


 デーモンの魔道砲によって損壊し、この世の地獄の如く燃え盛っていた村の建物も、マザーの魔法によって鎮火済み。

 しかし、ツンと鼻を刺すような焼け焦げた匂いが、確かにこの村で今の今まで激闘が繰り広げられていた事を物語っていた。



「牛舎や鶏舎への被害は甚大。

 この村の経済を揺るがす事態だな……だが」


「村民の死傷者はゼロだ。……彼らを除けば」


 商人としての一面も併せ持つクロチェティの言葉の続きを補うように、ブルーノは言った。

 ブルーノの視線の先には、この村をマザー達に託し死んでいった三人のハンター達の姿があった。



 ――文字通り、命をかけてこの村の民を守ったハンターの男達。

 彼らの亡骸には、全身を覆い隠すように布がかけられていた。


 綺麗に横に並べられた三つの亡骸。

 ブルーノはゆっくりとそれらに歩み寄り、傍らにしゃがみ込む。


「よくぞ、守り抜いたな」


 今となっては、決して本人達には届かない賛辞。

 それでもブルーノは、この勇敢な英雄達に言葉を掛けずにはいられなかった。





「……間に合わなくて、ごめんなさい」


 損壊した村を少しでも修復しようと、魔法を行使しながら涙を流すのはメモリー。

 彼女は自らを責めた。

 その贖罪の意味を込めて、村の修復にあたっていた。


 そんな彼女の心を見透かすように、ナナはメモリーの肩に手を掛ける。



「辛いね。でも、あんまり自分を責めるな」


 メモリーはハッとして振り返り、ナナの顔を覗き見た。


 ――やり切れない思いを忍ばせつつも、強い眼光を絶やさないナナ。

 彼女はメモリーを諭すように続ける。


「あたし達だって人間だ。『守れる範囲』なんて、たかが知れてる。

 今回はその『範囲』に、この村がいなかったんだ」



 ――メモリーの内心を埋め尽くしていたのは『罪悪感』。


 心優しく、他人に共感しやすいメモリーは、今回の件でひどく心を痛めた。

 加えて、魔王討伐を掲げる()()()()()に所属しておきながら何も出来なかったという事実が追い討ちとなり、彼女の心に重くのしかかっていた。


 だが、いかに最強の部隊といえど、できる事には限界がある。

 至極当然な事だが、決してそれを忘れてはならない。

 ナナはメモリーにそう伝えたかった。



「真正面から向き合うのだけが正解じゃない。

 乗り越えて前に進む。

 あたし達ができるのは、それだけだ」


 それだけ言うとナナは踵を返し、メモリーの元を離れてゆく――のだが。

 


「……ただ」


 しばらく歩みを進めてから、ナナはふと立ち止まる。


「……この村には悪い事をしたね……」


 メモリーを諭した手前、彼女には聞かれたくない。

 そう考えていたナナもついに、誰にも聞かれない場所でぽつりと、弱い言葉を吐いた。



 この村が襲撃を受けた直接の()()――それを持ち込んだのは、他でもない自分達、魔王討伐部隊。


 悲しみに顔を伏せる村民達。

 中には、大きな声を上げて泣く女性の姿もあった。

 死んだハンターの内、誰かの妻だろうか。


 後悔を押し殺すように、ナナは唇を噛み締めた。





「すまない。こんな事になるとは思わなかったんだ」


「……わかっています」


 マザーの謝罪に対し、スプリ村の長は力無く返した。


「奴らの狙いが()()()なら、あたし達が連れて行くしかない」


 マザーは幼いマルヌの肩にポンと手を置く。


「お願いできますか。一度は受け入れておいて恐縮でございますが。

 私どもでは……手に余ります……」


 憔悴しきった村長は、言葉を選んでいる様子だった。

 本来であれば、糾弾したってよい。それほど酷い目に遭ったのだから。



 そばで会話を聞いていたアレックス。

 彼自身は魔物達に快勝したものの、その心は晴れやかとはいかない。

 何があったのか理解できていない様子で呆けているマルヌの姿を視界に捉えつつ、マザーの言葉に付け加える形で声を発する。


「どっちにしろ――」



 言いかけた瞬間、一つの石ころがヒュンと飛んできて、カツンとマルヌの頭に当たった。

 飛んできた方向を見れば、この村のハンターの中でもリーダーであった男を父に持つ、例の男の子の姿があった。


 泣きはらしつつも、鋭い眼光でマルヌを睨む彼こそが、マルヌに石を投げつけたのだ。



「……出て行け。

 ……出て行けッ!!」


 父を奪われた彼の怒りがマルヌに向くのは、当然な事に思えた。



 マザーは自分の身で覆うように、マルヌを後ろに隠す。

 その光景に確信を得たアレックスは、先程言いかけた続きを素っ気なく呟く。


「――ここには置いとけねぇだろ」


「……そうだね」



 こうして一行はマルヌを連れて、スプリ村を後にするのだった。

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