第23話 放課後の嵐(3)
「……また出た」
顔を歪めながらレビィが呟く。
ん? また? 一体何を――。
――ああ、なるほど。納得した。
嫌そうだな。俺も同感だ。
遠くから俺らを呼び止めたのは、三人組の男子生徒。
立ち居振る舞いから、先程の声の主は右端の男だろう。
だが、俺たちの視線は彼らの中央に立つ人物に集まった。
何故ならその人物こそ、今日という短い時間の中でも絶大な存在感を放っていた男――ディックだったからだ。
「待てよ編入生!
お前、初日から好き放題やってくれるじゃないか!」
今度は左端の男がそう言った。
それに合わせて「フンッ」と不機嫌に鼻を鳴らす中央のディック。
俺に対して、あからさまに敵意をぶつけてくるなぁ。
……先生。やっぱ俺、仲良くやれそうにないわ。
とは思いつつも、彼等の言い分には全く心当たりがない。
俺自身が恥をかくこともあったし、別段、彼等の気に触るような事はしなかったはずだけど。
「ディック君が一番だったんだ!
中級魔法も! 射撃も!」
そう叫ぶのは、再び右側の男。
「なあ、そーだろ! シエル! レビィ!」
それに続く左側の男。
なんだ? 左右交互に話さなきゃいけない決まりでもあるのか?
打ち合わせでもしてきたのかと疑いたくなる。
それにしても……一体何が始まったんだ?
俺は両隣にいるシエルとレビィの顔色を伺う。
シエルは頭に『?』を浮かべながら首を傾げており、レビィは無表情で首を横に振っている。
しかし彼等はそんな二人の様子などお構いなしに続ける。
「なのにお前……。
中級魔法も使えないお前が、なんでシエルとレビィと仲良くしてんだよ!
あり得ない! そんな事、許されてたまるかよ!」
「……」
脈略が無さすぎて最初はいまいちだったが、それでも彼らの言い草から、ピンとくるものがあった。
そこで思うのは、偏に『やっぱりこの二人、モテるんだな』という事。
なんたって、さっき告白されてた所も見ちゃったし。
冷静に考えると、編入初日からそんな二人に挟まれている今の状況は、恨まれても仕方がない事のように思えてきた。
いずれにしても。
取り乱しながら叫ぶ彼等と、それを満更でもなさそうに聞くディック。
そんな彼等の熱量とは対照的に、シエルとレビィの顔色は次第に青ざめてゆく。
――のだが、彼等はその事に気付いてないようだ。
やばい。こいつら、思ったよりも面白いかもしれない。
と思った矢先、中央で静観していたディックが何かに気付き、目を見開いた。
お、ついに気付いたか? ドン引きしている彼女達の様子に。
「おい、待て。そこにいるのは……生徒会長か?」
……違ったみたいだ。
ディックの視線は俺達のすぐ隣にいた生徒会長、アルテアさんに注がれていた。
すると両側の男達も、次々と驚きの声を上げる。
「『白銀のクールビューティー』!?
いや、それとも『ポポロミートクイーン』と呼ぶべきか!?」
「『エターナルスノーホワイト』のアルテア先輩か!?」
……今のは、アルテアさんのあだ名、なのだろうか?
仰々しい言葉の羅列と共に異常な盛り上がりを見せ始めた彼等を尻目に、俺はアルテアさんの顔を窺った。
しかし当のアルテアさんは、自分の事を言われているという自覚がないのか、「ん? どうした?」とでも言いたげな表情で俺を見るだけだった。
「キィーーー!
魔法科の綺麗どころばっかり集めやがってー!」
キィーってなんだよ。どういう感情だよ。
彼等の口振りから察するに、やはりアルテアさんも人気があるようだ。
そりゃそうだ。こんだけ美人なんだから。
この妖艶な雰囲気に一度でも呑まれたが最後、絞り尽くされてしまいそうだからな。
他人の目など気にせず騒ぐディックの様子に、次第に辺りの生徒達の注目も集まってゆく。
当然か。
ディック達だけのせいじゃない。
アルテアさん、シエル、レビィ――ただでさえ目を引く三人の美女が集まっているんだ。
……俺の周りに。
あれ。やっぱりこの状況、かなりやばいのでは?
さてここで、先程の光景を思い出しながらふと疑問に思う。
シエルとレビィは今まで一体どれほどの男子から告白され、その思いを一刀両断してきたのだろう?
そんな男子達は、今俺らの周りに集まる生徒達の中に何人いるのだろう?
加えて、アルテアさんの場合は?
既にお付き合いしている人がいれば良いが、もしいなかったらどうだろうか?
……ギルドランキング10位の勘が告げる。
周りの男子からの視線……これは、命のやりとりの中で今まで幾度となく感じてきたものと同じ――殺気だ。
――こんなの、魔物の相手をしている方が何万倍もマシだ!
逃げ出したい! 今すぐに!
湧き上がる悪寒に身を縮こませる俺の傍らで、冷静さを取り戻したディックが怪しい笑みを浮かべた。
「さて。ここからが本題だ、編入生。
お前、俺と勝負しろ」
「勝負!?」
周りの視線を気にしすぎる余り、不意に出された提案に思わず声が裏返ってしまったが、そんなことはお構いなしに続けるディック。
本当に、さっきからこっちの都合は一切お構いなしだな。
「そうだ。この学校では年に一度、魔法科と剣術科の合同で『ポポロミート杯』という武術大会が行われる。
それが一週間後だ。
今年、俺はそれに参加する。お前も参加しろ」
「ポポロミート杯は、学科もそうだが、学年も一切不問の武術大会だ。
組み合わせ次第では、一年生と三年生がいきなり対戦することもあり得る。
そういった理由からか、毎年、三年生以外の出場はほぼない」
ディックの言葉を捕捉してくれるアルテアさん。
「……因みにアルテアさんは?」
「ふふ。私も出るぞ」
口元に人差し指を当てがいながら微笑むアルテアさん。
エロい。
「だが、ただ勝負するだけでは物足りない。
編入生、お前が負けたら……」
俺が負けたら?
「シエル、レビィ。お前らは俺の元に来い」




