第22話 放課後の嵐(2)
こ、これは……。
今日出来たばかりの友人が告白され、しかも振っている。
なんだか知らないが無性に、見てはいけないものを見てしまった気がした俺は、その場を去ろうと踵を返した。
――その直後。
「俺と付き合ってくれ!」
こっちでもかいっ!
目線の先に、先程とは別の男女の姿があった。
その男子が思いを告げる相手の姿にも……見覚えがあった。
「……なんで?
私、あなたと、喋ったこと……ないよ?」
小首を傾げながら、天然で残酷な返事をするレビィ。
「え? 俺、前に君と授業でペアを組んだ事があって……」
「……そうだっけ?
ごめんね。今急いでるから……」
そう言って男子に背を向けたレビィと目が合ってしまう。
「……あ。マルヌス、いた」
そう言って俺の元に駆け寄ってきたレビィ。
そんな彼女の奥には、俺を殺さんとばかりに睨みつけてくる、先の告白男子の姿。
……気持ちは分からなくはないが……。
君が思うようなやましい事は一切無いから、勘弁してくれ。
「……マルヌスが見えたから、追いかけてきた」
「そ、そうなんだ」
「あれー? マルヌスにレビィ! どうしたの?」
たじろぐ俺に追い討ちをかけるように、後方から聞こえるこの明るい声は――シエルである。
「シエルもいた」
「き、奇遇だな」
「……見た?」
ぎこちない笑顔の俺に何かを察したシエルは、顔を赤らめながら訊ねてきた。
「な、何を?」
「……いいや、何でもない!
恥ずかしい所見られちゃったかと思って! あはは!」
依然として赤らめたままの頬と、照れ隠しのように頭を掻くシエルの様子を見ていると、なんだかこちらまで恥ずしくなってくる。
「シエル、マルヌス。
一緒に帰ろ?」
そんな気まずい空気を断ち切るように、レビィが純粋な声でそう切り出す。
「そ、そうだね! そうしよう!」
「ああ、そうだな!」
慌てて俺も同意した。
気まずい空気から逃れようとしたのも否めないが……。
せっかくできた友達からのお誘いだ。
断る理由もないし、むしろ嬉しい。
大丈夫。きっと昨日と同じく、馬車の迎えは無いだろうし。
***
「――あそこのオムライス、めっちゃ気になってたんだ!
マルヌス行った事ある?」
「いんや。まだこの町来たばっかりだしね」
「……今度、みんなで行こ?」
他愛のない会話をしながら正門の前まで来ると、一人の女性が門脇の石柱に寄りかかっているのが目に留まった。
誰かを待っていた様子の彼女は、俺たちを見た途端、足早にこちらに向かって来る。
あれは……。
「ここで待っていて良かったよ。
何となく、忘れられているんじゃないかと思ってね」
相変わらずの妖艶な笑みを浮かべる彼女は、昨日の試験官であり、生徒会会長――アルテアさんだった。
そんな彼女の姿に、隣のシエルが声を上げる。
「会長さん!」
「おや、君は。昨日は巻き込んでしまってすまなかったね」
「いえいえ、会長さんがあんなに演技が上手いなんてびっくりしました!」
「ふふふ。ありがとう」
ああ、そういえば。
昨日はシエルに弁当強盗されている途中で、アルテアさんの試験が始まったんだった。
『すぐ戻るって言っといて』
――シエルにはそう頼んだきりだったっけ。
恐らく、そんな俺に困っていたシエルに、アルテアさんが事情を説明したのだろう。
「さて、マルヌス君。実は君にお願いがあってね」
アルテアさんは俺に向き直り、ニコリと意味深に微笑みながら続ける。
「是非、私の所属する『生徒会』に入ってもらいたいんだ」
……は?
「え! すごっ! 会長の推薦!?」
「……マルヌス、大抜擢……!」
驚くシエルとレビィ。
だがそれ以上に驚く俺は、状況が掴めないまま混乱していた。
「生徒会!? って、え? なんで俺を?」
そんな俺の様子にクスクスと笑うアルテアさん。
「君の能力を見込んでのことだ。
私はこれでも人を見る目はあると思っているよ」
アルテアさんはそう言うと、昨日と同じように指を一本ずつ立てながら要点を説明し始めた。
まずは一本目、人差し指。
「まずは状況判断能力。
昨日の君の、瞬時にクレイドール達の中核を見抜いた冷静な判断力には恐れ入った」
アルテアさんは昨日のことを思い出すように目を瞑る。
続いて二本目、中指。
「次に人柄。
まだ君の人となりはわからないことも多いが、少なくとも最低限の良識があることは、昨日の時点でわかっている。
あと、人柄をわかりやすく表すものとして、君のその清潔感は好印象だ」
そして「最後に」という言葉と共に、三本目の薬指を立てた。
「魔法使いとしての実力――言ってしまえば、『強さ』だな。
生徒達の模範となる以上、ある程度の実力が伴っていなければ、生徒達は付いてこない。
その点、君の『強さ』は私が保証しよう」
「そんな……いきなりそんな事言われても!」
アルテアさんにそこまで太鼓判を押されて悪い気はしないが、当の俺はまだ学園について右も左もわからない状態だぞ!?
「やってみなよマルヌス!
生徒会って言えば、学園の中でもエリートだよ!
エリート!」
「……出世街道、まっしぐら」
隣のシエルとレビィはそう囃し立てて来るが……。
これ、たぶん面白がってるだけだな。
そもそも、学生における出世って何だよ。
「ちょっと待てーー!!」
そんな俺たちの後方から、不意に語気の強い男の声が響いた。




