第21話 放課後の嵐(1)
***
射撃訓練の後もいくつかの授業をこなし、今日スケジュールされていた授業が全て終了した。
ホームルームが終わり解散となった――のだが。
俺だけは担任のダーリィ先生に呼ばれた。
先生の後についていくようにして、彼の事務室へ続く廊下を歩く。
こうやって先生と歩くのは今朝ぶりの事だが、そうとは思えないくらい、初日から密度の濃い時間を過ごしたような気がする。
「どうだったー? 学校初日は?」
「えっと……楽しかったです」
「やっていけそうかー? マルヌ」
「はい。なんとか」
……ん?
今、先生、『マルヌ』って……。
一瞬、聞き逃しそうになるほどの自然な流れでの不意打ち。
俺は驚きを隠さずに先生の顔を見るが、当の先生は別段、表情を変える事もなく。
「あー大丈夫。みんな気付いてない。
俺はサーロンさんから聞いてるだけだ」
――どうやら、先生はサーロンと知り合いらしい。
興味本位で、どういった関係なのか気になり訊ねてみたが……。
「……昔ちょっとな」
と、意味深に返されるのみだったので、それ以上は聞けなかった。
「それにしても、あの時はやりすぎだ。
流石に学生離れしすぎていて冷や冷やしたぞー。
というか、大人――ましてや手練れの魔法使いでも、あの速度、精度で撃つなんて、まず出来ない」
――『あの時』。
おそらく、射撃場でのことだろう。
「す、すみません。思わず……」
「流石は『魔弾の射手』だな」
「からかわないでくださいよ」
苦笑いの俺を見るなり、フッと優しく笑った先生は、歩みは止めないままゆっくりと語り出す。
「……あいつの事は許してやってくれ。
誤解を生みやすいが、決して悪い奴じゃない」
「……ディックのことですか?」
俺の問いかけに、先生は頷いた。
「あいつはいいとこの貴族の出でな。
ちょっと負けず嫌いで、ちょっと皮肉屋で。
ちょっと他人を下に見がちなだけなんだ」
……ちょっと『嫌な面』多すぎじゃないですか?
「……善処します」
渋々承諾する俺の返事を聞いて、先生はニカッと子供みたいに笑った。
「よろしくなー」
そう言って先生は、目の前の扉に手を掛ける。
どうやらいつの間にか、先生の事務室の前に着いていたようだ。
さて、俺も帰るか。
ギィと扉を押し開け中に入っていく先生を横目に見ながら、俺も歩き出す。
そんな去り際の俺の背に、何か大事な事を思い出したかのように、先生は「あ!」と大袈裟な声を上げた。
「まさかお前に苦手な事があるなんて知らされてなかったから驚いたがな。
魔力コントロールの実技でやった『中級魔法の形成』。
――あれ、クリアしないと進級出来ないからなー?」
……まじすか?
気の利いた返事をする余裕などなかった。
俺は噴き出る冷や汗を感じながら「さようなら」と小さく挨拶することしかできなかった。
***
――正面の門、どこだっけ?
俺はまだ慣れない学園内を彷徨っていたのだが。
ダーリィ先生の事務室から正門に向かおうとしていた道中で、俺は途方に暮れていた。
……迷ってしまったのだ。
ええと……。
おっ! この先、外に通じてるぞ!
間違っていたら引き返せばいい。
とにかく外に出てみれば何かヒントがあるだろう。
そう思い進んでみると、見覚えのある建物が目に映った。
ここは……射撃場だ!
見たことのある景色に辿り着き、ホッと胸を撫で下ろす。
が、安心したのも束の間、なにやら話し声が聞こえて来た。
「――好きです! 付き合ってください!」
……。
おおっとーっ!
これはぁぁーーっ!?
我ながら無粋だとは思いつつも、好奇心に負けてしまい、こっそりと声のする方を覗き見る。
射撃場の裏。
人気の無いところで、一人の男子が深々と頭を下げている。
その相手の女子は――。
「ごめんね。
私、『好き』とかよく分からなくってさ。たはは……」
困ったように笑うシエルだった。




