第20話 実習の時間(4)
射撃場のからくりが動き、ディックが狙った的が交換されたことを確認した俺は、発射位置に着き、的を見やる。
「先生ー。始めていいですかー?」
「おう、いつでもいい――」
先生の言葉を聞くと同時に手を振るい、魔力を放つ。
それらは小さな捻れのように渦巻きながら直進し、次第に氷弾へと形を変える。
バスッ! バスッ! バスッ!
そして、先生の言葉の最後を聞くよりも先に、的である横並びの画用紙を三枚連続で貫いた。
「――ぞ」
着弾より遅れてやってくる先生の声。
そして、しんと静まり返る射撃場内。
的はまだある。
まだまだ……物足りねぇな!
腕を横に振り抜けば、隣り合う的を。
縦に振り抜けば、上下に並ぶ的を。
俺の振るう腕の動きに合わせて、その線上にある的に、次々と直径1cm程の穴が空いていく。
やはり氷属性の弾丸が、一番『速くて』使いやすい。
バスッ! ドスッ! パリンッ! キンッ!
様々な小気味良い音が響き渡る。
的となる作品の素材によって、響く音はそれぞれ違うが、そのどれもが、俺の氷弾が命中していることを教えてくれる。
だが、例えそんな音が無くとも、それらが確実に命中する事は、己の身体が一番よくわかっている。
――そういう訓練を積んできたんだ。
さて……あれが最後の的だ!
俺は未だ無傷の『クレイジーバットの彫刻』を撃ち抜くべく、最後の氷弾を放った。
「……な、なんだこいつ!?」
しかしその直前に、小さな声でそう呟いたディック。
彼が青冷めた顔でズズッと後退りをした直後、射撃場の壁にあった『レバー』に軽く触れてしまう。
ガタンという音と共に、最後のクレイジーバットの彫刻が横にスライドする様に動く。
それにより俺の最後の氷弾は、狙い通りの軌道を進んだものの、的を外れて空を切り、壁に着弾して深くめり込んだ。
「おーいディック。
そのレバーは的を可動式に切り替えるやつなー。
勝手に触るなー」
なるほど。そんなからくりもあるのか、と思わず感心してしまう。
そんな俺に向き直り、先生は少しだけ真剣な面持ちでゆっくりと口を開いた。
「最後のは的が動かなければ命中していた。
つーわけで、マルヌスの命中率は……100%だ」
「うおおぉぉ!」
「すげー!」
「なんだあの命中率は!?」
「いや、それよりもあの発動速度だろ!」
後ろで生徒達の歓声が上がる。
……これで少しは挽回できたかな?
ホッと胸を撫で下ろしていると、シエルとレビィが俺の元に駆け寄ってきた。
「すごいすごい! なに今の!」
シエルは俺の肩に手を掛けながら嬉しそうに跳ねる。
「……やるじゃん」
レビィは人形のような顔が少しだけほぐれて、俺に優しく微笑んだ。
そんな俺たちの様子を見て、ディックは慌てて口を開く。
「ま、待て! 命中率が100%だとして、あんな小さな魔法じゃあ威力不足じゃないか!?」
それに対して、先生は的を見ながら顎に手を当て「ふむ」と一言。
そしてゆっくりと話し始める。
「……いや。マルヌスの放った魔法は、標的の急所を的確に捉えている。
見てみろ。全て、頭か心臓部を撃ち抜いている」
先生の言った通りだ。それが、威力のある魔法が撃てない俺の戦闘スタイルだから。
先生の分析に、「くっ!」と声を上げるディックだったが、すぐにいやらしく口角を上げた。
「……ふ、ふふっ。
先生、そんな事はないです。
あの真ん中の的、頭部でも胸部でもない所に着弾している!
この男が急所を狙ってたわけではない証拠です!」
……そう。真ん中の的――あれだけは頭部でも胸部でもなく、腹部の下の方を貫いた。
「いや、ディック。あれは『カタパルトビートル』と言って、頭部も胸部も硬い甲羅で覆われている魔物だ。
マルヌスの放つ初級魔法で致命傷を与える場合の最善解は、腹部の継ぎ目をピンポイントで撃ち抜く事。
あの当たり方ならば、即死とまではいかないものの、間違いなく致命傷だ」
先生の言葉に、悔しそうにギリッと歯を噛み締めるディック。
彼はそれ以降の授業で俺に絡んでくる事はなかった。




