第19話 実習の時間(3)
射撃場は編入試験の時にも広場から見えていた建物だった。
あの時はこの角を曲がった先で無数の猿――アルテアさんのクレイドール達を見つけたんだよな。
「よーし。じゃあ始めるぞー」
「先生! あの的はなんですか?」
開始早々、二時限目にも見た七三分けの優等生男子が、射撃場の的と思われるものを指差してダーリィ先生に訊ねた。
少し離れたところにある点々と並ぶそれらは確かに、所謂『訓練用の的』では無かった。
それぞれ別々の形で、魔物の姿が描かれた紙だったり、魔物の姿を象った粘土細工だったり、中には人間を模した物まであるではないか。
「あーあれな。
美術部が練習で作って、ゴミになるものを貰ってきたんだ。
面白いだろー?」
ケラケラと笑う先生はさらに続ける。
「コンクールが近いらしくてな。
その練習でいっぱい作ったらしい。
まだまだあるから遠慮なく潰していいぞー」
なるほど。異様な光景に一瞬ぎょっとしたがそういう事だったのか。
「じゃ、まずはシエル、やってみろー」
「え、あたし!?」
いきなり指名されたシエルは驚きながらも前に出る。
「……むむむ……。よいしょ!」
手に魔力が集まり、それは風の刃となる。そして腕を薙ぎ払うように振るい、その刃を放った。
――スパンッ!
鋭い音と共に『グレートグリズリー』――早い話が熊の魔物だが、それを模した彫刻の首が落ちる。
「やたっ!」
喜びの声を漏らして嬉しそうに跳ねるシエル。
……可愛らしい反応とは対照的に、容赦ねぇな。
「シエルは発動までに時間がかかるから、一撃にかけるタイプだなー。
威力も前より上がってるし、いいぞー。
じゃあ次、レビィなー」
「……はい……」
憂鬱そうな返事と共に前に出るレビィ。
バチバチッと弾ける音を立てながら手に紫電を纏わせた。
「……えいっ。
……えいっ」
腕を何度も振り、的に向かって紫電を走らせる。
「……よーし、もういいぞー」
先生の声を受け、発動をやめるレビィ。
はぁはぁと肩で息をしている。
しかし、その努力も虚しく。
殆どの雷は、筋肉質で大事な所だけを隠した『半裸男の石膏像』を外れて床を焦すだけだったようだ。
……って言うか、いくつも並ぶ的の中で何であれを狙った?
「あー、ちょっとだけ当たってるな」
目を凝らして確認する先生。
確かによく見ると、半裸男の石膏像の一部が欠損している。
右手の人差し指。
左手の小指。
右足の親指。
左足の指全部。
……あれ? 拷問かな?
「前は全部外してたから、少しは成長したなー。
当たった時の感覚を忘れるなよー。
じゃあ、次ー」
「……はぁはぁ。
……どれが当たった時の感覚か。
……わから……ない」
それどころじゃ無いといった様子で息を切らしたレビィが戻ってくる。
それと入れ替わりで次々と生徒達が射撃訓練を行っていく。
どうやらこの射撃場にも何らかの魔法がかかっているようだ。
的を外れて損傷した箇所はしばらく経つと自動で修復されていく。
一方で、的は自動で修復される事はないのだが、この建物のからくりで、ボタンひとつで入れ替わる仕組みになっているようだ。
裏で誰かが逐一セットしているのだろうか……?
大変そうだな。
――そうしてしばらくして。
「よし、まだやってないのは……。
マルヌスとディックだなー」
「先生。俺は一つの的では物足りません!
複数の的を狙っても?」
そう言って先に前に出たのは、先程俺に絡んできた男――ディックだ。
「構わないぞー」
先生の返事にニヤリと笑うディック。
手を前に突き出し、ふんっと言う掛け声に合わせて火の玉作り出す。
「ハッ! フンッ! ハァッ!」
火の玉を作っては放ち、作っては放ち。
それを繰り返す。
いくつかは的を逸れるが、多くは的に当たり、それを焼き尽くす。
「……フッ。これくらいでいいだろう」
横に並んだ10個ほどの的を焼き尽くしたところで、センター分けの前髪をさらりと掻き上げながらそう呟くディック。
命中率は……80%といったところだろうか。
「おお……ッ!」
生徒達がざわめき立つ。
確かに、魔法形成のスピード、命中精度、威力などを総合的に見て、今まで見てきた生徒達の中ではトップクラスだろう。
「さ、次はお前だ編入生」
勝ち誇ったようにニヤニヤと嫌らしく笑うディックは、わかりやすく俺を挑発してくる。
「大丈夫……?」
先程のこともあってか、心配そうに訪ねてくるシエル。
そんな彼女を安心させるように笑顔で答える。
「おう! 俺、射撃は得意なんだ」




