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第181話 夜に駆ける(2)

***



 私は中央広場でマルヌと別れ、東門前へと駆けてゆく。



『こんな所でつまづくわけにはいかないからな』


 別れ際、マルヌが放ったその言葉。

 それを聞いた時、私の脳裏にはある人物の顔がよぎった。

 ――それは、お父様の顔。



 きっとお父様は、今の私の行動を咎めるだろう。

 でも、私だってもう子供じゃない。


 ギルドランキングは9位。

 お父様と同じ円卓を囲む、一人の戦士だ。



 ここまでの道のりは、決して楽なものではなかった。

 当然よね。

 並いる強者を押し退けて、この(くらい)まで来たのだから。

 楽であるはず、ないじゃない。 


 けれど。

 せっかくここまで登り詰めてきたというのに、お父様の目は一向に私を見ない。


 ――もちろん言葉通りの意味ではなく。

 私を一人の戦士として見てくれた事がない、ということ。



 ……どこまで行けばいいの?

 わからない。

 ただ一つわかるのは、まだ『道半(みちなか)ば』だという事。


 だからこそ。

 私もまた、こんな所でつまづくわけにはいかない。



 ――夜の街をただ、ひた走る。

 私の足は駆けるのをやめない。

 マルヌの言葉が、お父様の顔が――私の背を押し、自然と足を速めるのだ。



 夜の街は、昼間とは打って変わって静けさに包まれている。


 私はこの夜の空気が好きだ。

 毎晩、ロータス城内の自室で眠る前、私は窓を開け、この空気を部屋に取り入れる。


 凛と澄んだ空気。

 それが、私を『明日』へと運んでくれるような気がして。


 その心地よさに全身を任せ、穏やかな気持ちになると……。

 やがて深い水の中に沈み込むように意識が遠のいてゆき。

 そのまま、ゆっくりと眠りにつく。


 

 ――そんな普段とは対称的に、今日は何だか、この空気に心がざわつくのを感じる。

 夜の闇からくる静けさも、心なしか不気味に思えた。



 中央広場から遠ざかるにつれて、人の姿も少なくなってゆく。

 道の両側に立ち並んでいた家々も次第に数を減らし、窓から漏れていた明かりの数も減ってきた。




 ……来るとしたら、そろそろかしら。



 私は足を止めた。

 そして、私が走って来た方に振り向くと、闇の中に呼びかけた。


「ここまで来れば、もういいでしょう?

 姿を見せたらどう?」



 少しの静寂。

 やがて私の視線の先の暗闇から、男の声が上がる。



「……家路を急ぐ少女――ってわけじゃあ、なさそうだな」



 姿を現した声の主は、オールバックで髪を後ろで縛った、若めな男。


 ……若い。

 いや、若すぎる……?


 お父様達、魔王討伐部隊の面々が一様に知る『ディートリヒ』という名の男。

 それにしては、若すぎる気がしないでもない。

 ……別人、か?



「そりゃそうか。

 こんな時間に街のはずれにまで走って来る女学生なんて、いるはずないもんな。

 おまけに俺の存在にまで気づいている。

 只者じゃあない」


 男は目を凝らすようにして、私の姿を見つめている。



「……いや、でもやっぱ、ちゃんと女学生だよな?

 おばはんの成りすましとか、女装の(たぐい)なら瞬殺してやろうと思ってたのに。

 つーか」


 先程から浮かべていた怪訝な顔から一転し、男は口角を著しく上げた。


「かなりの上玉じゃん?

 こりゃあ――俄然、楽しみになって来た……!」



 おでこの(きわ)から垂れる数本の前髪をかき上げながらそう言う男は、明確に私を襲うつもりなのが伝わってきた。


 それはそれで良い……のだけれど。


 まるで舐め回すように、上から下へと私の姿を捉える男の視線に、思わず身震いしてしまった。

 そんな私の様子がお気に召したのか、男はなんと――舌なめずりまでしているではないか。



 私は腰の剣に手をかけ、身を屈めるようにして構えた。



 この男……。

 見た目こそ若々しく、顔立ちも整っているけれど。



 虫唾が走る。


 そう考えてから、ふとマリーの顔が浮かんだ。

 私の脳内に再生された彼女は、にっこりと満面の笑みを浮かべながら言う。


『違うよリブちゃん。そういう時は――』


 ……ああ、そうね。



「きもい」


『よく出来ましたー!』


 私の中のマリー。

 再現度、完璧ね。

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