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第178話 疑念と懸念(1)

***



 ――結局、サーロンの素っ気ない一言で十位会談は終わった。



『……今日はここまでだ』


 サーロンがそれ以上語る事はなかった。


 だからこそ余計に、俺の中でのサーロンに対する疑念は高まる一方だった。

 が、しかしながら、きっと今の彼は何も答えてくれまい。



 ディートリヒという人物について。

 俺に。

 というか、俺とリブに。

 隠している情報がある。


 そしてあの様子を見るに、それを隠しているのはサーロンだけではない。

 クロチェティ、メモリー、そしてブルーノ。

 彼らも知っているはずなのに、誰もその正体について語ろうとはしない。


 ――ディートリヒ。

 名前からして……男だろうか。

 一体何者なんだ。



 自室に戻った俺は、乱暴にベッドに身を投げ出した。

 ボフンと沈み込んでから、程よい反発で弾む。

 そんなマットの感触に若干の心地よさを感じたのも束の間。

 沸々と湧き上がるもどかしい気持ちに、俺の内心は曇ってゆく。


 何を隠している? という事よりも。

 なぜ隠す? という事に引っかかっていた。



 ……サーロンなりに考えた結果なんだろうか。


 とはいえ、それで納得できるかと聞かれれば、答えは『ノー』である。

 そもそも、そういった情報をきちんと皆に共有するための場であったはずじゃないのか?



 俺とリブは、何のためにあの場に出席しているんだ?




 ――やがて日は落ちて。

 雲もない夜の空。

 月が辺りを照らすようになった頃。


 ガチャリ。


 自室のドアノブを(ひね)り、俺は(おもむろ)に部屋を出た。



***



「どこ行くんだ?」


 俺は、俺の目の前で背を向けている人影にそう訊ねる。

 するとその人影は、不意に聞こえた俺の声に驚きを見せるように、一瞬びくりと体を揺らした。



 ――ここはロータス城の門の前。

 表に位置する仰々しい()()ではない。

 ()()というやつだ。



 人影はゆっくりとこちらへ振り向く。

 と言っても、裏門の脇に備え付けられた篝火(かがりび)の明かりに照らされるその人影の正体は、後ろ姿の時点で既にわかっている。


 緩やかな曲線を描きつつも、すらっとした華奢な体格に、眩いブロンドの長髪を揺らす彼女は――リブだ。



 というか、彼女の姿を改めて見ると。

 ……なんというか。

 こんな暗闇の中でも目を引く特徴がてんこ盛りすぎて。


 とてもじゃないが、今彼女がしている――所謂、()()()()に向いているとは思えない。


 なんて考えて笑いそうになる俺に対して、リブはしかめ面で口を開いた。



「野暮な事を聞かないで。

 決まってるでしょう。

 ――探すのよ。例の生徒襲撃事件の犯人を」


 リブは鋭い眼差しで、力強くそう言った。


「どうやって?」


「簡単よ。

 犯人はポポロミート学園の生徒を狙っている。

 ならば、学園の制服を着て、人気(ひとけ)の無い夜の街中にいれば……犯人の方からやって来てくれるはず」


 それは自らを囮にする行為。

 さながら、アレックスやナナ達がやっている事と同じだ。

 ――正体のわからない敵に対して、こちらも身を隠していては意味がない、という攻めの姿勢。



 リブは腰に差した剣に手を掛けながら続ける。


「まさか、止めに来た……なんて事はないわよね?

 私と同じように、()()()()()()()()この場にやって来たのだから」


 俺の姿に、別段驚く素振りも見せずにそう問いかけてくるリブ。

 俺は少しだけ顔を綻ばせて頷いた。


「ああ」


 俺もまた、リブと同じ事を考えていた。



 ――人が死に。

 ――街は襲われ。

 ――仲間は行方知れず。

 ――学友は狙われ。

 ――挙句、信頼していた、()()()()とも言える人達からは隠し事をされている。


 俺達の周りで起こる様々な出来事。

 それらには全て、『召喚石』という未だ謎の多い魔石が関係している。



 殺されたクワードの元から消えた召喚石。

 その後に起きた数々の事件で、急にその存在感を強め始めた召喚石。

 思えば、事件の裏にはいつも召喚石が関わっていた。

 となれば、マザー達の死にも、召喚石が関与していた可能性が十分に考えられる。



 そして今、解決の糸口となり得るほんの一筋の情報を、俺達は手にしている。

 犯人と思われる――ディートリヒという者の存在だ。


 幸い、そいつはポポロミート学園の生徒を狙っているという。

 ならば、学園の生徒である俺やリブが囮として動かないなど、逆に考えられないじゃないか。



「お父様はこの件から私達を遠ざけようとし始めた。

 でもそれなら……鍛えた力は何のためにあるというの」


 剣の柄を固く握りしめるリブ。

 彼女もきっと、俺と同じだ。


 やり切れない悔しさの捌け口を探すかのように、夜の街へ繰り出そうとしている――果たしてこれが良いことなのか。

 今の俺達にはわからない。

 でも。



 ――もう嫌なんだ。

 無力な自分を突きつけられるのは。


「行こう」


 俺達は裏門から城の敷地の外へ出た。

 そしてロータスの街中へと駆け出した。

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