第18話 実習の時間(2)
俺が失敗した後も、代わる代わる生徒が前に出てきて水流の球体作りに挑戦してゆく。
一人ずつ前に出る理由は恐らく、予期せぬ事故が起こった時でも、一人の先生で対応できるようにという事なのだろう。
中には失敗する者もいたが。
ほとんどの生徒は程度こそ違うものの、成功と言える大きさに膨らませる事が出来ていた。
シエルとレビィも、水は得意な属性では無さそうだが難なくクリアしていた。
流石は『優秀な学生達の通う学園』……だな。
俺は自嘲的に笑う。
「――どーした? 暗いぞ少年!」
二時限目が終わった後の休み時間。
朗らかな声と共に、バスッと背中を叩かれた。
顔を上げると、シエルの笑顔とレビィの不安そうな顔があった。
「……気にしちゃ、だめ」
「そうだよー!
人間は失敗して成長するんだよ?」
……そうか。心配かけちゃったんだな。
申し訳なさを感じると共に、二人の気遣いが心に沁みる。
俺を励ます二人の様子からすると、どうやら俺は他人が見てわかるほどに落ち込んでいたようだ。
人前で、ましてや同世代の前で恥をかくという初めての経験は、俺自身が思っているよりも大きな精神的ダメージがあったらしい。
「まあ確かに、さっきの見た後だとちょっと意外だったけどね」
「……マルヌス、緊張した?」
シエルの言う『さっきの』とは、前の休み時間に複属性魔法を同時に発動させた事を指すのだろう。
やらなきゃよかったな。まあ、あんなに驚かれる事とは思わなかったのだが。
「いや、実は。……苦手なんだ。
中級以上の魔法は」
――中級魔法。
元来、魔法のランクに明確な線引きはないのだが、初歩的な魔法と比べて、それよりも大きさ、威力が増したものをそう呼ぶ。
もちろん、さらに上の段階として、上級魔法と呼ばれるものがあり、さらにその上として極大魔法などがあるのだが……。
とにかく、さっき俺が失敗したやつは、まず初級の小さな水流の球体を作り出し、それを大きく膨らませる、中級魔法に属すると言っていいものであった。
「お前、あの癖治ったのか?」
サーロンに言われた言葉を思い出す。
……ああ。治ってないよ。
12年前からずっと、俺は中級以上の魔法が苦手――というか、言ってしまえば使えない。
大きな魔法を形成しようとすると、たちまち制御を失って崩れる。
下手すりゃ暴発する。
だから俺は、初級魔法を素早く放ち、敵の急所を貫くスタイルに特化した戦闘方法を選んだ。
いや、選んだんじゃない。その道に逃げたんだ。
……苦い思いをモヤモヤと胸に抱えながら、無理矢理作った笑みを浮かべる。
しかし、そんな俺に対して、シエルとレビィの反応は予想外に軽いものだった。
「あはは! そうなんだねー!
あたしはね、魔法の形成スピードが遅いのが悩みなんだよね……たはは」
「……私は、射撃が苦手……だよ?」
「そ、そうなんだ」
想定していなかった回答に思わずぎこちない反応となってしまった俺。
それに対して「どうしたの?」と言わんばかりに不思議そうな表情を浮かべる二人。
……そうか。
『苦手な事』――そんなの、みんなだって一つは持っているんだ。
ふと、12年前の魔王討伐部隊のメンバーが頭をよぎる。
彼等はとにかく優秀な、まさにエリート集団だった。
一方で、そんな彼等でも得手不得手はあったはずだ。
……まあ、それを補って余りある長所が凄すぎたのだが。
とにかく、俺も彼等の不得手な部分について、特段何を思うでも無かったはずだ。
俺に不得手があっても……同じだよな。
『マザーみたいにすごい魔法をいっぱい使えるようになるんだ!』
――昔、魔王討伐部隊のみんなに笑顔で語っていた俺の夢は、知らず知らずのうちに俺に重たくのしかかっていたのかもしれない。
「……ありがとう」
「ん? どういたしまして、でいいのかな?」
「……元気出た?」
ああ、お陰で少し軽くなったよ。
「おーい次は射撃場だぞー。遅れるなよー」
先生の声を受けて「げっ!」と声を漏らすレビィ。
そういえばさっき、レビィは射撃が苦手だと漏らしていたっけ。
そんな彼女な顔を見て、笑い合う俺とシエル。
さて、気持ちを切り替えて、射撃場に向かうとしますか。




