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第169話 知りゆく者達(2)

***



 しばらくして、アルテアはレタリーの部屋を後にした。


 結局、この日もレタリーが目を覚ますことは無かった。

 アルテアは俯きながらレタリーの家の門を出る。


 ――そんなアルテアに声をかける男が一人。



「待ちわびたぞ、アルテア」


 その声に驚き素早く顔を上げるアルテアだったが、声の主の顔を見るなり、緊張を解く。


「……ガント。どうしてここに?」


 アルテアの言うように、男の名はガント。

 ポポロミート学園、風紀委員長のガント・ハグバールであった。



「お前に用があって来た」


 簡潔にそれだけを答えたガントに対して、アルテアは次の疑問をぶつける。


「じゃあ、なぜ私がここにいる、と?」


「俺の勘だ」


 ――勘。

 当たり前のように堂々とそう言い放つガントに、一瞬ぽかんと口を開けてしまうアルテアだったが、すぐに呆れ混じりの笑みを浮かべる。


「……フッ。昔から、君の勘はめっぽう当たるからな」



 ――アルテアとガントは幼馴染。

 今でこそ、『生徒会』と『風紀委員会』という似て非なる組織の(おさ)同士。

 相容れない部分は多々あり、正面からぶつかる様を学園の生徒達に隠すこともしない。

 一方で、その長い付き合いから、互いに互いを理解する者同士でもあった。



「その様子だと、レタリー・ペティは……」


 ガントの問いかけに、アルテアは再び表情を曇らせながら、首を横に振った。


「ああ。まだ意識は戻っていない」


「そうか」


「で、わざわざ私の元に来た理由はなんだ?

 まさか、ただ私の情けない顔を見に来た訳ではあるまい?」


「そう皮肉るな。

 俺をなんだと思っているんだ」


 眉を吊り上げ、やや不機嫌な声色でそう言うガントに、アルテアは「ふぅ」と小さな溜息をつく。



「……すまない。言い方が悪かった。

 ただ、今は私自身、あまり余裕がないんだ。

 情けないことに、な」


「悲観することはない。わかっているさ」


「……わかるだって?」


 すると今度は、アルテアの眉がぴくりと吊り上がる。



「君に何がわかると言うんだ?」


 低い声でそう言うアルテアの言葉には、静かな怒りが込められていた。

 ――軽々しく、知った風な口を聞くんじゃない、と。


 しかし、その言葉を真正面から受けるガントは怯む様子もなく口を開く。


「……わかるさ。

 昨夜、レタリー・ペティと同じように魔力が枯渇した状態で発見されたのは――うちの副委員長だからな」


「!?」


 アルテアは言葉を失った。

 が、程なくして、ゆっくりと話し出した。



「……そうか。君のところの副委員長も、魔法科だったな」


「ああ。実はレタリー・ペティの件があってから、風紀委員では夜な夜な、街の見回りを行っていた。

 もちろん、委員会内で有志を募ってな。

 そこで真っ先に手を挙げてくれたのが彼だった」


「そうか。私も彼の人柄はよく知っている。

 彼もまた、君に負けず劣らず真っ直ぐな信念を持つ男だったな」



 アルテアもまた、風紀委員会で副委員長を務める男子生徒の事を知っていた。

 ガントは小さく頷く。


「魔法使いは魔力が枯渇すると危険だ。

 それこそ、生死に関わるほどに。

 しかし、発見から処置が早ければ早いほど、助かる可能性が上がることも知っている。


 だからこそ俺たちは見回りをしていた。

 そういった症状に見舞われた人を発見した場合は、速やかに救命措置がとれるように、と。


 ――そんな中で、副委員長もまた同様の症状に見舞われた。

 いや、正しくは『襲われた』と言うべきか」



 含みを持たせるように言うガントの言葉に、アルテアの眼は鋭く光る。



「……襲われた?」


「ああ。言葉の通り『襲われた』だ。

 どうやら一連の事件は、とある人物による『襲撃事件』のようだ。

 そしてその標的はポポロミートの魔法科の生徒――」


「なっ!?」



 アルテアは再び言葉を失った。

 予想もしなかったガントの返答に目を丸くする。

 一方で、ガントからしてみれば、そのアルテアの表情は予想通りであった。


「学園はこの事実を俺達には明かしていない。

 おそらく、生徒達の混乱を避けたのだろう」


「……なぜ、そんな情報を知っているんだ?」


 アルテアがそう訊ねるのは(もっと)もだった。

 すると、先ほどまで澄ました顔だったガントが、この時だけは顔を(しか)めた。


「風紀委員の情報網、と言ったところだ。

 それ以上は、深く聞かないでくれ」


 歯切れの悪いガントの返答に、おそらくあまり褒められたやり方ではないのだろう、と察したアルテアは口をつぐんだ。

 そんなアルテアの様子に、ガントは会話を仕切り直すように「んん」と小さく咳払いをした。




「本題はここからだ。

 ……この事件の犯人の行方が追えるかもしれない、と言ったらどうする?」

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