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第150話 休み明けの学園(1)

***



「あー! マルヌス来たぁっ!」


 久しぶりにやってきた教室。

 一歩足を踏み入れた途端、痛快な声が俺の鼓膜を揺らす。


 俺を指差して大声を上げたのは――シエルだ。



「……おはよ」


 彼女の声に自然と笑みが溢れてくる。

 それが照れ臭くて、俺は素気ない挨拶を口にした。



 すると、シエルの声に釣られて、周りの同級生達の視線が一気に俺に集中した。

 かと思えば、彼らは未だ教室の入り口前に立つ俺の元に駆け寄ってきた。


「久しぶり!」

「心配したぜ?」

「大丈夫かよ?」


 矢継ぎ早に降りかかる問いかけに、困った表情を浮かべてしまう。

 が、内心嬉しかったのは秘密だ。



 それにしても、心配をかけていたのか。

 確かに、いきなり一週間の休みを取ったのだ。

 心配はかけたのかもしれない。


 しかし、改めて考えてみれば、俺は『どんな理由で休んだ事になっていたのか』。

 ……それは知らない。



 ええい、知らないものは聞くしかない!


「大丈夫……って、何が?」


 すると、周りの顔色はあまり芳しく無いものに変わってゆく。


「えっ!? 何がって……なあ?」

「……ああ」


 なんだろう?

 よっぽど言いづらい理由だったのだろうか?

 言い淀む彼らの顔を見ると、途端に不安に駆られてしまう。


 そんな中で、意を決してそれを語ってくれる者が一人。


「……お前が放課後の補習で、無理矢理に出力した中級魔法の暴発で大怪我を負ったって……」



 ……ああ、なるほど。

 そういう事になってたのね。



 俺は直近の学園での出来事を思い出す。

 ――あれは確か先週の頭だっけ。


 確かにあの日は、放課後、ダーリィ先生に付き合ってもらって、中級魔法の特訓をしていた。

 知ったばかりの知識である『詠唱』を試してみたんだっけ。

 それでも失敗して落胆していたら、突然、生徒会書記のレタリーさんがやって来て。


『――多分あなた、魔法の才能がないんですよ!』



 そう言われてからの事は、あまり覚えていない。

 たぶん、俺はその場から逃げるように走り出した。

 そしてそのまま家路についたんだっけか。



「あー……。ああ。大丈夫、大丈夫!

 実際、そんな大した事なくてさ。先生も大袈裟だなぁ!」


「そうだったんだ!」

「よかった!」

「ダーリィ先生のくせに、人騒がせだな!」



 そう言って笑う彼らを見て、俺もホッと一安心だ。

 実際は大事故どころか、中級魔法の『ち』の字も無いほどに、不発に終わったんだが。



 ……全く。適当な理由つけるにしても、もっと平和的な理由にしてくれれば良かったのに。

 まあ、仕方が無いか。


 その理由を考えるのも怠かった。ダーリィ先生なら、きっとそう言うだろう。


 悪いのは、急にべキャットに呼び出したアレックスと、それに応じたサーロンとブルーノだ。



 ――そう考えた途端に、不意に浮かんだアレックスの顔を思い出してしまった。

 が、俺はふるふると首を振り、その影を振り払った。



 アレックスの安否は気になる。ぶっちゃけ不安だ。

 ……それでも。


 きっとあいつなら、俺なんかに心配されるなんて、屈辱以外の何物でもないだろう。


『俺様より弱いくせに、一丁前に俺様の心配なんかしてんじゃねぇよ、小僧!』


 きっと、そうどやされるに決まってる。



 だからこそ俺は今、アレックスの事を考えるべきでは無い。

 それでいいんだよな?


 俺は自らにそう言い聞かせ、改めて目の前の彼らに向き合う。



 朗らかに笑う彼らを見てると、自然と俺の心も温かくなる気がする。

 それを意識すると(なお)のこと、俺のことを心配してくれた彼らの優しさが染みる。


 ――この笑顔を絶やさないために。

 そして、俺が俺自身を認めるためにも。

 俺は今日も学園で学び、強くならなくちゃいけないんだ。




 それにしても、『ダーリィ先生のくせに』はちょっと面白かった。


 確かに、口を開けば、(いち)に『だりぃ』、()に『だりぃ』。

 (さん)()がなくて、()に『タバコ吸いてぇ』が口癖のダーリィ先生だからな。


 先生の姿を思い浮かべ、俺も笑う。



 そんな最中、不意に俺の肩に、トンと何者かの手が置かれた。

 ……小さな手だ。

 不審に思いながらも、俺は恐る恐る振り返る。




「……通れないんだけど……?」


 俺の視線の先には、俺よりも一回り小さな人影があった。


 のんびりとした独特な口調の彼女は――グリーンドラゴンを単独討伐したとして、最近話題の電撃少女――レビィだ。



 わっ! 俺は慌てて飛び退く。


 教室の入り口付近に立ちっぱなしだった俺は、後からやって来たレビィからすれば、さぞかし邪魔だったであろう。


「ご、ごめん!」


 彼女の人形のような整った――言い方を変えれば、無表情に近い顔に気圧され、俺は焦り混じりに謝る。


 しかし、そんな俺の顔が余程おかしかったのか。

 レビィはその無表情を崩し、「ふふっ」と小さく笑った。


「……元気そうでよかった」


「……うん」


 今まで通り、俺を優しく迎えてくれたレビィに、俺はそう言って頷くことしかできなかった。


 ありがとうみんな。ただいま。



 こうして俺の学園生活が再び始まったのだった。

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