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第141話 それぞれの戦い(6)

***



 タケの周りのハンター達は皆、近接攻撃に特化した武器を扱う。



 彼らはタケと同じ世代の老齢のハンター。

 普通であれば、年齢を重ねると共に衰えていく体力に合わせて、扱う武器を変えてゆくべきである。


 それこそ、武器の威力を高める『腕力』。

 敵の反撃を回避する俊敏な『機動力』。

 そして、常に死と隣り合わせな間合いで動き続けなければならない『持久力』。

 ――それら全てを求められる『近接武器』など、高齢のハンターが再考すべき最たるものである。



 しかしながら彼らは、若い頃から長年慣れ親しんだ自身の戦闘スタイルを手放さずにいた。



 大きな盾を手にしていた老齢の男ハンターは、グリーンドラゴンに向かって駆けていく。


 グリーンドラゴンはそれを退けるべく、強靭な前脚を振るう。

 男は足を止め、前に構えた大盾でそれを受け止めるが――。


「……ぐぅっ!」


 そのあまりの衝撃に、男は顔を歪めた。



 

 ――彼らを知らぬ者からすれば、この光景は正に異常である。


 それもそのはず、年老いた彼らが、その年齢にそぐわない武器を手にグリーンドラゴンと対峙するなど、無謀であると言わざるを得ないからである。


 何を馬鹿な、と乾いた笑みを漏らす者さえいるだろう。



 しかし、もし彼らを知る者がこの光景を目の当たりにした場合。

 その時もまた、人々は()()()()()()()だろう。


 ただしその笑みの意味は、前者のそれとは『真逆』となる。




 ――大盾の男がグリーンドラゴンの注意を引いた一瞬の隙をつき、もう一人の男ハンターが逆サイドからグリーンドラゴンに接近した。


 そしてグリーンドラゴンの背に飛び掛かるように、高く跳躍した。

 彼は大きなハンマーを持っていたが、その重量を感じさせないほどに力強い跳躍だった。



「うおおっ!」


 掛け声と共に、振りかぶったハンマーを振り下ろす。

 それはグリーンドラゴンの身体を弓なりに反らすには十分な威力であった。


 思わず、息が止まるグリーンドラゴン。


 『海老反り』とまで言ってよいかはわからないまでも、確かに背を反らしたグリーンドラゴンは、苦悶の表情を浮かべる。



 それに追い打ちをかけるかのように、反対側の腹部には、老齢の女ハンターが。

 こちらもまた、ハンマーを携えていた。


「……ふんっ!」


 女は低く構えていたハンマーを、下から上に振り抜く。


 腹の底から出てきた低い声と共に放たれた『気合いの一発』は、グリーンドラゴンの無防備な腹部に直撃する。



「ガアッ……!」


 グリーンドラゴンは苦痛の声を漏らす。



 片や、背を殴られた事による『上から下』へのダメージ。

 それを受けて折れ曲がった体にすかさず、今度は腹部殴打による『下から上』へのダメージ。

 

 その連続した相反する双方からの衝撃は、大きなダメージを与えたのは勿論の事、グリーンドラゴンに混乱をもたらした。



 その混乱に乗じてグリーンドラゴンの眼前にまで飛び上がるは――タケである。



 タケは咥えていたキセルを口から外す。

 そして、口を(すぼ)めると、キセルの煙を細く吹き出す。


 その煙は、まるで蛇が獲物に巻きつくかのようにグリーンドラゴンの首元に絡みつく。

 煙の先端はグリーンドラゴンの鼻先に伸びる。


「……吸え」


 ぼそりと呟くタケの言葉に従うように、グリーンは息を大きく吸った。



 (もっと)もこれは、タケの言う事を聞いたわけではない。

 直前に受けたハンマーの二連撃に息が止まったばかりか、苦痛の唸り声を上げて息を吐き尽くしたグリーンドラゴンが、すぐさま息を吸う事はわかりきっていた。



 ともあれ、大きく息を吸ったグリーンドラゴンは、鼻先にまで伸びていたタケの煙をも一緒に吸い込んでしまう。



「――そして……眠っちまいな」


 途端に、グリーンドラゴンの瞳はぐるんと上を向いた。

 白目になりながらも、次第に瞼が閉じていく。

 それと同時に首が垂れ下がる。

 身体を支えている四肢の力も抜けてゆき――。


 ――ドシーンッ!


 大きな地鳴りと共に、その巨体を地に着けた。



 タケの吐き出した煙は、魔力を乗せた催眠効果のある『毒ガス』である。

 それ自体に命を奪うほどの害は無いものの、吸い込んだ者をたちまち深い眠りに(いざな)う。




 ――彼らを知る人々もまた、()()()()()()()のだ。

 それは、彼らの挑戦を『無謀だ』と嘲笑うのとは、正に『真逆』の笑み。


 彼らと対峙する魔物に対する『憐れみ』の笑みなのだ。





「ひゃー! 相変わらずタケさんのそれは怖いねぇー!」


 ハンマー使いの男は笑う。


 一方で、もう一人のハンマー使いの女は、その軽口に呆れるように、やれやれと首を振る。

 そして大盾を持つ男に向き直る。


「とどめ、お願いね」


 くいっと首でグリーンドラゴンを指し、ぶっきらぼうに言い放つ。


「あいよ」


 大盾の男もまた、素気なく一言だけ返すと、眠るグリーンドラゴンに向かっていく。

 そして、その首元に立つと、手にしていた大盾を振り上げた。



 ――彼の持つ大盾は、五つの(かど)を持つ。

 内、四角はある程度丸みを帯びた形状をしているが、下方に伸びる一角だけは、鋭く尖っている。


 唯一、『切る』という行為を成す為に設計されたその一角。

 男はそれを、眠るグリーンドラゴンの首に突き立てた。



 ――ザシュッ!


 戦いの終わりを告げる音が響いた。

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