第14話 初登校(1)
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チュンチュンと小鳥の鳴き声が響く……って昨日も同じことを思った気がする。
まあ、記念すべき初登校にはぴったりの日和、といったところである。
昨日と同じ様に、城を出たところに止まっている馬車に乗り込むと、これまた昨日と同じ様に、先にリブが座っていた。
「……編入試験は無事、パスしたそうね」
腕を組みながら、少しだけ不機嫌そうに訊ねてくるリブ。
「なんだよその言い草。祝ってくれねーの?」
「……落ちたら面白かったのに」
「素直に祝えよ!」
別に俺だって、好きで行くわけじゃないってのに。
馬車が学園に着くまでの間、俺たちは一言も話さなかった。
別に特別険悪な空気だったとかではなく、お互いに話すことがなかったのだと思う。
今日は、昨日の広場で止まることもない。
校舎の前に到着し、俺、リブの順で馬車を降りる。
金髪のロングヘアをサラリと揺らしながら降りるリブは、悔しいが、やはり絵になる。
そんな俺たちの元に、二人の女子生徒が歩み寄ってきた。
「リブちゃん! おはよう!」
内一人の、可愛らしく明るい声が響く。
光の加減で黒にも見えるような、紫色のショートボブヘアが特徴的な女子生徒。
口振りからして、リブの同級生だろうか。
そうなると、俺からしてみれば『先輩』ということになるのかな。
「おはよう」
それに対して、先程までの仏頂面が嘘の様に、穏やかな笑顔で返すリブ。
「ちょっとリブ、この子、誰?」
続けてもう一人の女子生徒が、俺を横目に見ながらリブに訊ねる。
こちらはグレーの長髪をポニーテールにまとめている、少しハスキーな声色の女子生徒。
彼女もおそらくリブの同級生だろう。
「あー。なんていうか……居候?
そんな感じの子よ」
相変わらずの穏やかな笑顔は崩さないものの、物凄く適当に返すリブ。
「ふーん」
「えー、なにそれ? 一緒に住んでるってこと?」
リブの返事に、グレーポニテ先輩、紫ショートボブ先輩は、三者三様ならぬ、二者二様の反応を示した。
その反応の違いだけで性格が伺えるな。
グレーポニテ先輩は、割とどうでも良さげ。
一方で、ニコニコと楽しげに笑う紫ショートボブ先輩は、俺に興味津々……。
いや、違うな。
きっと彼女は、リブの反応を面白がっているだけ。
彼女の笑顔には、そういう嫌らしさが含まれている。そんな気がする。
なんてことを考えていると、そんな俺の隙をつくかのように、紫ショートボブ先輩が俺の頬をぷにっと人差し指で突いてきた。
突然の出来事に「わっ」と飛び退いてしまう俺。
そんな俺の様子にクスクスと笑う紫ショートボブ先輩。
「かわいー!」
「どこが可愛いのよ……行きましょ?」
そんなやり取りに呆れた様子のリブ。
溜息をつきながら、ツカツカと歩き、その場を去っていく。
すると、そんなリブに付いていく行くように二人の先輩達も歩き出した。
「じゃーね、居候君!」
ニコッと微笑み、ヒラヒラと手を振りながら去って行く紫ショートボブ先輩。
そんな彼女達の後ろ姿を、ただただ立ち尽くして見送る俺。
――うわぁ、三人とも脚長いなぁ。
目を見張るほどの美少女達。類は友を呼ぶとはこういう事を言うのかもしれない。
それにしても、『女子の先輩』かぁ。
からかわれただけのように思うが……悪い気はしない、かな。
……なんて、いつまでもこの満更でもない気持ちに浮かれている場合ではない。
俺は昨日、制服などと一緒に届いた学園案内書を元に、担任となる先生の事務室に向かうことにした。
***
担任の先生は、言動こそ適当で軽い印象を受けるが、優しい雰囲気の男性教諭だった。
そんな彼の後について教室に向かう。
最初に簡単な自己紹介をしてくれ、と先生から言われている。
まずは名前からか。
……あ! 名前と言えば、今朝サーロンが何か言っていたな。
「―― 仮にもお前は狙われている身。
お前を襲ったスライムの反応を見るに、どうやら顔は割れていないようだ。
編入手続きを偽名で出しておいてよかった!
名乗る時はこっちで名乗れよ?」
そうだった。
その時、制服のポケットに乱雑にメモをねじ込まれたんだった。
クシャッと潰れているメモを取り出してシワを伸ばすと、俺の名乗るべき偽名が書いてある。
さて、この俺『マルヌ・スターヴィン』が名乗るべき新たな名前は――。
『マルヌス・ターヴィン』
……。
嘘だろ!?
切るとこが違うだけじゃねーか!
……これ、偽名で出したんじゃなくて、編入書類の記入ミスを体よく誤魔化されてるだけじゃね?
若干青ざめている俺の顔を見るなり「大丈夫かー?」と声をかけ、足を止める先生。
見れば、既に目の前には、大きな扉。
どうやら教室に着いたらしい。
そして、俺が反応する間も無く、先生は扉に手をかけ押し開く。
どうやら、『大丈夫か』などと聞くだけ聞いておいて、俺の返事を待つ事はしないようだ。
ガチャリと大きな音と共に開かれた扉。
目の前には一本の通路。
その通路の先には、大袈裟なくらい立派な教卓がある。
そして、教卓を中心に円弧状に生徒たちの座席が広がっている。
先生と俺は、部屋のど真ん中を貫くような、長い通路を真っ直ぐに進み、その先の教卓を目指す。
実際には大したことないのだろうが、今はこの通路がとてつもなく長く感じる。
通路の両脇からの生徒達の目線が痛い。




