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第137話 それぞれの戦い(2)

 グランキャンサーの背を蹴って高く飛び上がったマリーは、みるみる怪鳥トーバジキとの距離を縮めていく。


 しかし、つい(いま)(がた)まで、まるで対岸の火事を眺めているかの如き立ち位置だったトーバジキからしてみれば、急接近してくるマリーの存在は恐怖でしかなかった。


「ギャ!?」


 驚きの声を上げたかと思えば、大きく翼を一振り。

 その一振りだけで、今よりもさらに高い位置へ一気に浮かび上がる。


 ――この行動こそ、トーバジキが咄嗟に取るべき行動としては正解であった。



 当然のことながら、マリー自身に空を飛ぶ能力は無い。

 人間離れした跳躍力で、空を舞うトーバジキに迫っている時点で既に異常ではあるが、それにも限界はある。


 マリーの上昇する勢いも衰えてきた。

 じきに、マリーの体は落下し始めるであろう。


 トーバジキが上昇したことによって、マリーの刀がトーバジキに届く可能性は(つい)えた。



 ――かに思えた矢先。


「……さんきゅー」


 マリーはくすりと笑いながらそう呟く。

 そして空中で何かを蹴った。


 グランキャンサーの背を蹴って飛び上がった時と同じように、空中で何かを蹴って再び飛び上がったマリー。

 そのひと蹴りで、一気にトーバジキに肉薄する。



 一見するとあり得ない光景。

 それを一番近くで目撃したトーバジキですら、そのからくりは理解できなかった。



 しかし、そのからくりは余りにも単純なものであった。


 よく目を凝らさなければ見えないほどの、『透明な板』が空中にぽつんと浮かんでいた。

 それを『足場』にして、マリーはさらに高く飛び上がったのだ。


 その『透明な板』もまた、マルヌスの防御障壁である。

 地面と並行になるようにして空中に設置した防御障壁の利便性は、これまでのマルヌスの戦いにおいて十二分に証明されている。


 先日のポポロミート杯、マルヌスとレタリーの戦いでも防御障壁を器用に使いこなしていたマルヌス。

 その戦いを、実況という立場で間近に見ていたマリーは、空中に設置された防御障壁の()()をすぐに理解したのであった。



 ――チャキ。


 マリーが刀を握り直す。

 直後、幾つもの閃光が、文字通り『光速』で走り抜ける。


 その閃光こそ、マリーの刀が、無数の軌道で振り抜かれたことを示していた。

 目にも止まらぬ斬撃。

 常人であれば、その残像すらも気付けない。


 トーバジキもまた、マリーの斬撃に気付くことが出来なかった。

 自身が()()()()()()()()()()ことに気付くことも出来ないまま、トーバジキは絶命した。




 ――ものの一瞬でトーバジキを討伐したマリーは、地面に落下しながらも、眼下のオレガノに視線を向ける。


 グランキャンサーの体の下をくぐり抜け、後ろに回り込んだオレガノは、手にした銀色の剣で切り掛かる構えをとっていた。


 そんな彼女の様子を見るなり、マリーの脳裏には先ほどの光景が鮮明に蘇る。

 ――それは、自身の刀がグランキャンサーの硬いボディーに弾かれた時の光景。


「オレガノ!」


 マリーの呼びかけに、オレガノは小さく頷いた。


「わかってる。……本気で行くよ?」



 オレガノは剣を上から下に振り下ろした。


 熟練した、無駄のない――それでいて、まるで教科書通りといったような、正確で、悪く言えば()()()()()()軌道。

 自由気ままなマリーの斬撃とは正反対に位置するような、重厚な一振り。



 その一振りは、硬いグランキャンサーの装甲を、溶けかけのバターを切るかの如くあっさりと切断した。


 しかし、それだけには留まらない。

 その切り口は、どんどんと奥に波及していく。


 オレガノの剣が直接触れていない箇所にまで、甲羅にヒビが入っていく。

 併せて、ピキピキという嫌な音と共に、グランキャンサーの身が裂けていく。


 まるで、小さなヒビが波及していくことで割れてしまう薄氷のように――。



 そうしてついにグランキャンサーの巨体は、オレガノの剣で切り裂かれた場所を中心にして真っ二つに分断された。


 結果的に、オレガノはたったの一太刀で、グランキャンサーを切り裂いたのであった。

 



「さっすがー」


 その光景を上空から見ていたマリー。

 彼女はもう間もなく地に着くというところまで来ていた。



 ――しかし、その身が、近くに生えている木の緑と重なる瞬間。

 マリーの後方から素早く飛び出てくる影がひとつ。

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