第13話 編入試験(4)
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のんびりと歩いて城に戻った俺を、表で鍛錬中だったサーロンが迎えてくれた。
「おおマルヌ、おかえり!」
「おお、じゃねーよ!
今日が編入試験だったなんて聞いてないぞ!」
訓練用の木剣を振りながら片手間でそう言うサーロン。
そんな彼にイラッとした俺は、そのままの勢いで噛み付く。
「あれ、言ってなかったっけか? すまんすまん!
まあいいじゃないか! 受かったんだから」
「まあ、好感触って感じだったが……って、え?
結果はこれからだろ?」
「ああ、さっき馬車郵便で届いたぞ。合格通知」
「早ッ!」
チンタラと歩いていた俺を追い抜き、合格通知の方が先に到着していたらしい。
ついでに、制服やら教材やらも箱詰めされて一緒に届いたと言う。
それにしても、やけに準備が早いな。
「ま、お前なら合格して当然だろう!
編入手続きの時から思ってたぞ!」
木剣を肩に担ぎ、ガハハと大きく笑うサーロン。
こいつの力強くも朗らかな笑い声は、毎度のことながら見ていて気持ちがいい。
大雑把な所にイラッとする事は多々あれど、そんな感情もたちまち吹き飛ばされてしまうから不思議である。
……ちょっと待て。
「サーロン、お前が編入手続きをしたのか?」
「ああ、ロードワークのついでにな!」
……なるほど。
つまり俺は剣聖・サーロンのお墨付きだったわけか。
不自然に準備が早いのはそういう理由からかもしれない。
『剣聖のお墨付き』が編入試験で落ちる程度の使い手であるはずがない、と。
俺は知らず知らずの内に、とんでもないプレッシャーをかけられていたのかもしれない。知らなくてよかった。
それにしても、突然手続きに剣聖が来たんだから、学園の窓口もさぞ驚いた事だろうな。
「さて、もう今日は暇だろう? お前もどうだ?」
サーロンはそう言って、自身が振っていた木剣を俺に差し出す。
俺は木剣を受け取る事なく、おもむろに首を横に振った。
「いや、俺は剣術はからきしだからな。知ってるだろう?」
「そうだったか? 悪い悪い」
サーロンは悪びれた様子もなくそう言うと、再び稽古を再開し出した。
――そういえば、昔はサーロンに剣術の指南を仰いでいたかもしれない。
でも、一向に上達しないし、魔法の方が楽しかったのもあって、いつの間にか剣は握らなくなっていた。
今となってはもう、その木剣を一度握っただけで手の平に豆が出来そうだ。
ごめんなサーロン。謝るのはこっちの方だった。
教わった事、もう何も覚えてないや。
***
サーロンとの会話を終えて部屋に戻ると、扉の前に木箱が置いてあった。
これが届いた制服と教材か。
部屋に運び入れて箱を開けると、丁寧に畳まれた制服。
その上に、一枚の紙が入っている。
取り出してぺらりとめくると、メッセージが書いてあった。
『おめでとう。君は素晴らしかった。この結果は当然のことと思う。
明日、授業が終わったら少し時間をもらえるだろうか?』
この美しい達筆は、アルテアさんのものであるとすぐにわかった。
いやまあ、実際に彼女の字なんか見たことすらないのだが。
何故だか自然と、彼女の堂々たる声色で脳内再生されたのだ。
それ以前に、手紙の最後に名前くらい書いておいてくれたらいいのに……というのは、この際置いておいて。
というか、俺の初登校日って明日からなのか!?
編入試験の翌日からとは、本当に全てが早過ぎる……。
――なんだか今日は思った以上に疲れたな……。
もう今日の残りは部屋でのんびりして過ごそう。
明日からまた忙しいだろうし。




