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24.5混沌の執務室

ジオハルトは昨日から機嫌がいい。何年も前からの悲願がもうすぐ叶いそうだからだ。

ジオハルトの悲願・・・それはイヴ・リンスレット公爵令嬢との結婚である。


昨日、帰還式典でイヴとの結婚を多くの貴族たちの前で宣言した。本当はまだリンスレット公爵との了承は得られていなかったし、あの場で言うつもりはなかった。だが、思ってもみない事態により心を決めたのだった。結果としては相当な騒ぎとなり帰還式典は強制終了、ジオハルトは父親である陛下に呼ばれさんざん説教をされた。さらにリンスレット公爵やアヴァンス伯爵をはじめ、多くの者から抗議を受けた。できればイヴと話をしたかったがとてもそんな状況ではなく、帰宅する彼女の見送りにも行けなかった。とりあえずもともと彼女に渡そうと懐に忍ばせていた封筒を近衛騎士に託し、ジオハルトは周囲の対応に追われた。


ちなみにイヴに渡した封筒の中身は鍵である。

王家の一室の鍵だ。それは今まで彼女にプレゼントしてきたつもりだったジュエリーなどが保管されている部屋である。なんの嫌がらせかイヴの兄であるエドワードがすり替えていたため彼女の手に渡ることがなかった品々だ。すべてを改めて彼女のもとへ届けてもいいのだが、逆に彼女を城へ招く口実になると考えて鍵にしたのだ。本当は直接渡してエドワードの悪行をばらしてやりたかったのだが。ふと、イヴは受け取ってくれただろうかと心配になる。


「レオン、ギルを呼んでくれる?」

「彼なら本日は非番ですよ。なにか急ぎの御用ですか?」

「非番・・・そうか、ならいいよ。昨日イヴが封筒を受け取ってくれたかどうか聞きたかっただけだから。」

「ああ、それでしたら報告を受けましたよ。滞りなくお渡しできたと。」

「・・・それならよかった。」


一か月ほど前に正式に近衛騎士となったギルバート・リーバスは若いがとても優秀だ。実力は騎士団の中でも飛びぬけているようだし、なにより好青年である。真面目だが、固すぎず、話してみるとなかなか面白い。年も近いのでジオハルトはすぐに彼を気に入った。だからこそ、昨日イヴへの遣いもギルバートを指名したのだ。


「今度改めてイヴにもギルを紹介しないとね。」

「そうですね。今後はリンスレット公爵令嬢と顔を合わせる機会も多いでしょうし。」


側近のレオン・ノックスも嬉しそうに微笑む。レオンは長年ジオハルトに仕えているので、ジオハルトがイヴとの結婚を望んでいたことを知っている。ようやくそれが叶いそうだということを当人と同じように喜んでいる。


「あ、そういえば・・・殿下。実は手紙が届いたのですが・・・いかがされますか?」

「手紙?」

「はい。・・・どうやらクレア男爵令嬢からのようなのですが・・・。」

「クレア男爵令嬢?」


昨日の記憶が蘇る。あの全身ピンクの令嬢の名前だ。ジオハルトの表情が険しくなる。


「・・・昨日の今日でよく手紙を送ってこれるね。しかもクレア男爵からの詫び状ならともかく令嬢が寄越すなんて・・・。」

「本当にどういう教育をされているのか・・・。昨日の態度も無礼極まりなかったですし・・・。やはりなにか処罰をするべきだったのでは?」

「・・・。」


ジオハルトは少し迷ったがレオンから手紙を受け取る。内容が謝罪であればそれでいい、昨日のことは水に流そう。だが、もし不遜な内容であればレオンの言う通りなにかしら処罰を考えるかと思った。


そして中を開いてみて・・・ジオハルトは絶句した。


「殿下?」

「レオン・・・僕の人生でこんなことが起きるとは思わなかったよ。」

「どういうことです?」


ジオハルトは手紙をレオンに返す。お前も読め、という意味だと捉え、レオンも目を通した。


「ジオ様へ・・・昨日はあまりおしゃべりできなかったから手紙を書きました・・・。やっぱりパーティーって初めてだったからすごく緊張しちゃった・・・。でもダンスが踊れなくて残念。とっても練習したのに・・・。今度は絶対に踊ろうね・・・。次はいつ会えるかな・・・。早く会いたいな・・・。」


そこまで読んでレオンは目を背けた。これ以上読みたくない。

おそろしく丸い文字は幼子が書いたようで、敬語も使われていない。謝罪は一言もなく、まるで恋人に当てたような内容だ。

無礼だとか不遜だとかそういうものを通り越してもはや気持ちが悪い。なんなのだ、あの女は。


「・・・捨てましょう、殿下。いえ、燃やしましょう。」

「だめだよ、レオン。どこかで使い道があるかもしれないから・・・とりあえず証拠として保管しておいて。」

「・・・殿下がそうおっしゃるなら・・・。」


まるで汚いものを持つように指先でつまんでレオンがしぶしぶ了承する。だがその顔は怒りに燃えている。


「とにかく、クレア男爵令嬢にはやはり厳重に処罰すべきです!昨日のことといい今回といい・・・反省どころかさらに殿下を不快にさせるだなんて・・・許せません!」

「・・・そもそもなぜ昨日の帰還式典に出席していたんだろうね。クレア男爵家は軍に縁はなかったと思うんだけど。」

「そういえば・・・そうですね。なにか伝手でもあったのでしょうか?」


ジオハルトは考え込む。何か良くないことが起きているのではないかと勘繰ってしまう。


「・・・レオン、すぐにアヴァンス伯爵に確認してくれる?招待客リストは彼が決定権を持っている。なぜあの親子を招待したのか知りたい。」

「かしこまりました。」


レオンが足早に退室する。それを見送り、ジオハルトはため息をついた。

イヴとの結婚は難色を示す者も多い。それをどう説き伏せるか。今はそれを一番に考えたいのだが、妙に胸騒ぎがする。軽く頭を振り気持ちを切り替えようとしたとき、バンッという大きな音をたててドアが開いた。


「ジオハルト!!」


飛び込んできた人物を見てジオハルトは目を丸くした。


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