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24悪役令嬢、その感情の名前は?

公園の出入り口に馬車が見えた。エリザとルークはどうやら私が戻るのを馬車の前で待っていたらしい。


「お嬢―!」


二人が私を見つけて血相を変えて駆け寄ってくる。私が見知らぬ青年と出てきたからだろう。二人がこちらにたどり着く前に私の手は離された。


「貴様、何者だ!お嬢から離れろ!」

「リンスレット公爵令嬢の従者ですね。心配なさらずとも彼女に危害を加えるつもりはありません。彼女をあなた方の元までお送りする役目を承っただけですよ。」

「なに?」

「ルーク、大丈夫よ。この方は殿下の近衛騎士で、たまたま非番でここにいらしたそうなの。公園内で私を護衛してくださったのよ。」

「殿下の・・・近衛騎士・・・!」


ルークが目を丸くする。はっとしたエリザがあわててルークにも頭を下げさせた。騎士は魔力がなければなることができないので、必然的に全員が貴族の出である。さらに近衛騎士ともなればただの貴族の使用人よりもはるかに身分が上だ。


「失礼しました!」

「いえ、お気になさらないでください。今日は非番ですし。それに、リンスレット公爵令嬢の護衛をさせていただけてとても光栄でした。」

「こちらこそ・・・ありがとうございました。また後日お礼をさせていただきますが・・・とりあえずよろしければご自宅までお送りさせてください。」


さすがにこのまま立ち去るわけにもいかないのでそう提案したが彼は首を横に振った。


「本当にお気遣いは結構です。それに・・・おれは城内の騎士宿舎に住んでいますので馬車でお送りいただくわけにはまいりません。」

「そう・・・ですか。」


たしかに一応殿下の婚約者である私が別の男性を城へ送り届けるのは体裁が悪い。もし殿下の耳に入れば不快に思われるだろう。


「ではせめて・・・今度騎士宿舎へなにか差し入れをさせていただきますわ。あなただけでなく、皆さま宛で。日頃の働きへの感謝のしるしに。」

「・・・それは皆も喜ぶと思います。」

「良かった。・・・それでは、ギルバート様。このあたりで失礼いたします。」

「はい、どうかお気をつけて。」


私は彼に挨拶をして馬車に乗り込んだ。エリザとルークも彼に頭を下げてから乗り込んでくる。彼に見送られながら馬車が走り出し、その姿が完全に見えなくなっても私はなんとなく外を眺めながらつぶやいた。


「・・・なんだか不思議な時間を過ごしたわ。ギルバート様っておかしな方。」


先程までのやりとりを思い出す。手の感触がまだ残っていて恥ずかしくなり少し顔が火照る。なんだかふわふわしていて変な気分だ。するとエリザが神妙な表情で口を開いた。


「・・・お嬢様・・・あの・・・ちょっとご確認したいんですが・・・。」

「え?なに?」

「その・・・先程の騎士様のことです。」


エリザが言いにくそうにしていることが私にはまったくわからない。ルークもエリザと同じような表情である。


「・・・なあに?二人とも・・・。」

「なんだかずいぶんと親しそうにしていらっしゃいましたけど・・・殿下の近衛騎士様ということは前からお知り合いだったのですか?」

「いいえ。昨日少しお会いしただけよ。直接言葉を交わしたのは今日が初めて。」

「え!昨日今日のお知り合いでもうお名前をお呼びしていたのですか?」

「名前くらい呼ぶでしょう?」


驚愕する二人。私はなぜそんなに驚かれるのかが分からず首をかしげる。名前を呼ぶ許可はきちんと本人から得ているし問題はないはずだ。


「・・・お嬢・・・これは旦那様に要報告案件っすよ。」

「え、どうしてよ。そもそも報告って何を?公園を散歩したことも?そうしたらあなたたちだって叱られてしまうわよ?」

「あの騎士殿を名前で呼んだことをっすよ!」

「はい?」

「お嬢様・・・いままでお気づきでなかったかもしれませんけど、お嬢様ってば家の者以外を名前で呼ぶことってほぼないんですよ?いつも○○伯爵子息とか○○子爵令嬢とか!殿下のことだってお名前でお呼びしたことありませんよね?」


言われてみればそうかもしれない。私自身もリンスレット公爵令嬢と呼ばれるので相手のこともそういった呼び方をしている。いままでそれで困ったことは特にない。ただギルバート様は貴族として出会ったわけではなく、騎士であるのでリーバス子爵子息という呼び方は失礼だろうと思っただけだ。だがエリザはさらに質問を重ねてくる。


「・・・お嬢様・・・あの騎士様とお話して楽しかったですか?」

「え?ええ・・・まあ・・・そうね。」

「素敵な方だなとか思ったりしましたか?」

「それはそうね。とても優しい方だったし。」

「どきっとした瞬間はありましたか?」

「どきっというか・・・ええ・・・まあ似たような感覚だったかしら。」


私が答えるとエリザがずいっと身を乗り出してきた。なんだか鼻息が荒い。怖い。


「お嬢様!それってずばり恋ですよ!恋!お嬢様は騎士様に恋をしたんですよ!」

「はい!?何を言っているのよ!!」

「だって先程、騎士様のことを思い出されてお嬢様真っ赤になってとっても可愛らしいお顔をされてましたよ?それにお名前で呼ぶなんて特別に思っていらっしゃるからでしょう?」

「いやいやいや・・・それは!」

「お嬢!オレは応援するっすよ!あの騎士殿いいやつそうですし!殿下と結婚するよりお嬢が幸せになれそうな気がするし!」

「きゃー!お嬢様と騎士様の身分違いの禁断の恋!素敵!」


勝手に盛り上がる二人に私はおろおろする。

私が恋?

ギルバート様に?

意味がわからない。とにかく今はこの暴走する二人をなんとかしなければ。


「ちょっと二人とも落ち着きなさーい!!」


私の声が馬車の中で響きわたった。


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