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五話 教会のお偉いさんが悪だくみをするのはテンプレ。それはそれとして、部屋に女の子が出た

更新ですー

ちょっと長めだな

 一人目、よぼよぼのおじいさん。



「……………………かご」


「おお……! ありがたや……ありがたや……!」


「…………(何を言おうか考えている)」


「おっと、この感動をもっと多くの人に行き渡らせなければのう! というわけで、失礼いたします天使様! 加護、ありがとうございましたぁ!!!」


「…………(いきなり元気になったおじいさんにびっくりして何も言えなくなっている)」



《スキル『信仰』が発動しました。種族経験値が加算されます》



 ……ま、まだ始まったばかりだし? これからこれから……。


 二人目、武器屋の娘さん。



「……………………かご」


「わぁ……! 天使様、ありがとうございます!! 天使様の加護を受けてから、なんだかお店もすっごく繁盛してるみたいで……!! えへへ、すっごく助かっています!」


「…………(それは良かったねと言おうとするが、陽キャの圧によって何も言えなくなっている)」


「あっいっけない! もうお店が開く時間だ! えっと、天使様。わたしはこれで失礼しますね!!」


「…………(陽キャに勝てない自分の不甲斐なさでへこんでいる)」



《スキル『信仰』が発動しました。種族経験値が加算されます》



 い、今の子はちょっとクソ雑魚コミュニケーショナーには難易度が高かったから……。


 三人目、街の子供(幼女)。



「……………………かご」


「わぁ!! きらきらっ、きれいっ!! すごーい! てんしさま、すごい!」


「…………(子供に対する言葉遣いに悩んでいる)」


「てんしさまー? そのおはね、とべるのー? あたまのわっか、とれるのー? ねーねー」


「…………(子供特有の距離の取り方に完全に翻弄されている)」


「こらっ、天使様を困らせないの! もう帰りますよ! すみません、天使様、私の子が……」


「…………(突然話しかけられてびっくりしている)」


「はーい。てんしさまー、ばいばーい」


「それでは失礼いたします、天使様」



《スキル『信仰』が発動しました。種族経験値が加算されます》


《種族経験値が一定まで蓄積されました。種族レベルが上昇します》



 こ、子供と親の波状攻撃はズルいだろぉ……二対一なんて卑怯だぞぉ……!


 くそう、全然うまくいかない……。何故だ……何が原因なんだ……と、とりあえず、次の方ぁ!


 それからも信者さんはいっぱい訪れるが、話しかけようとしては失敗し、話しかけようとしては失敗し……結局、今日も誰とも話せなかった。


 夕暮が差し込みだした教会内。


 俺は初日に祀られた発光する台座に腰かけ、茜色の光を受けて複雑に輝くステンドグラスをぼーっと見つめながら、肩を落とした。


 一体絶対、何が悪いんだろう……。


 そう胸中で呟き、そうじゃないというように頭を振るう。


 いや、本当は分かっている。話しかけるチャンスなんて、いくらでもあった。


 問題なのは、俺。無数にあるチャンスを一つ残らず取りこぼしている俺の弱さこそが、コミュ障克服を妨げているのだと。


 ざわり、と心がささくれ立つ。悔しさと不甲斐なさ、そして自分への怒りがぐるぐると俺の心の中で渦を巻いている。


 このままじゃ、ダメだ。方法を模索するとか、何か工夫をするとかじゃない。俺の心根の問題である。


 情けなさに顔を伏せた。溢れ出る感情を抑えるように唇を噛んだ。



「……天使様、どうかいたしましたか?」


「…………」



 信者さんの相手をしている時もずっと隣にいてくれたアリーゼさんが気遣わし気に聞いてくるのに、何でもないと首を振るう。



「そうですか……なら、いいのですが。何かお困りなら、何なりとお申し付けくださいね。ワタシは天使様の味方ですので」



 にこり、と微笑むアリーゼさん。


 うぅ、いい人過ぎて後光が見える。マブシイ……マブシイ……。


 耐えきれず、ふいっとアリーゼさんから顔を逸らした。


 ……いや、後悔も反省も必要だけど、今はそんなことよりやらなくちゃならないことがあるだろう。


 俺なんかに優しくしてくれる人がいて、その人がこうして気遣ってくれているんだ。


 それはもう、真摯な態度でお礼を言わなければいかんだろ? それすら出来なかったら、お前はコミュ障以前に人間の屑だぞ? 分かっているよな、アインス・トゥルーカーム。


 自分にそう言い聞かせ、すーはーと深呼吸。


 ……よし。頑張れ頑張れ行ける行けるやれるって気持ちの問題だから自分に負けないでほらっ! もっと熱くなれよぉオオオオオオオオオオオオオ!!!!


 「お米食べろぉ!」と叫ぶ某あの人を頭の中に召喚しつつ、俺はアリーゼさんに向き直った。



「天使様? どうかなさいましたか?」



 こてん、と小首を傾げたアリーゼさんに、俺は渾身の力を込め、全身全霊を振り絞って……!!



「………………………………あ……ありが、とう……」



 ……い、言えた? ――――ぉおおおおおおおおお!!? 言えたよな!? 今、ちゃんと言葉になってたよね!!?


 よし、よしっ! いいぞ俺、やればできる子だな俺、お前は強い子だぞ俺。もっと自己肯定感高めていけー?


 突然お礼を言われたことに驚いたのか、それともほとんどしゃべらない俺がいきなり声を出したことに驚いたのか(できれば前者であってほしい)、アリーゼさんは少し面食らったように目を見開く。


 そして、すぐに表情を優し気なものに変えると、両手を胸の前で組んだ。


 

「まぁ……お礼を言うのはこちらの方ですよ、天使様。ワタシどもは天使様の御力によって、素晴らしい日々を過ごせております。加護だけでなく、治療や強化までも。この街の住人ともども、天使様には感謝しかございません」



 そっと頭を下げてくるアリーゼさん。謙虚……圧倒的謙虚……。これは聖女ですね、間違いない。


 感極まって震えている俺に、頭を上げたアリーゼさんは手を差し出した。



「それでは、お部屋に戻りましょうか。明日もまた、信者の皆様の願いを聞いていただけると幸いです」



 俺は、そりゃもう、おまかせくだせぇ!! と、強めの肯定を示すように、こくこくと頭を縦に振るった。


 リスポン地点に設定されている教会の自室に戻り、アリーゼさんと別れた俺は、ベッドに寝っ転がりながらペンデュラムお絵描きをし、空いた手で本をめくっていた。


 部屋に置いてあった『治癒魔法の正しい使い方』というタイトルの本で、俺の覚えている【ヒール】や【キュア】といった回復魔法の詳しい効果や、効率的な使い方が載っている。


 さらに、この読書という行為自体が『治癒魔法の訓練』という扱いになっているので、こうしているだけでスキル経験値が入ってくるのだ。



《スキル経験値が一定まで蓄積されました。スキル《魔法:回復》がレベルアップします》



 おっ、レベルアップしたか。MPの方もそろそろ切れそうだし、ペンデュラムも仕舞って……。


 うーん、まだ朝まで時間あるし……何して過ごそうか? 一端、ログアウトするのもありか……。


 天窓越しに夜空に浮かぶ月を見つめながら、ぼーっと考える。


 ……そういえば、アリーゼさんって夜もこの教会にいるのかね? 


 ここに案内されてから、自室であるこの部屋と信者さんに加護を与える広間みたいな部屋以外に行ったことがないので、夜の教会に誰がいるのかを把握していなかった。


 思い立ったが吉日。ちょっと探検に出掛けてみようか。


 もし、アリーゼさんがいたら、改めてこれまでのことに対するお礼を言おう。貴方のおかげで、俺は何とかやっていけていますって。


 ベッドから降りて、服の皴を伸ばす仕草。ゲームだからそのあたりは自動で最適な状態にしてくれるんだけど、そこは気分の問題だ。


 部屋から出て、廊下をそろそろと進んで行く。


 ランプの一つもなく、真っ暗闇。明かりがなくて大丈夫か? と思ったけど、俺に備え付けられた電灯(天使の輪)のおかげで足元には困らなかった。


 ふらふらとあてもなく彷徨いながら、あっちへこっちへと視線を泳がせる。へー、この辺ってこんな感じになってたんだー。



「…………あれ?」



 ふと、光の漏れている扉を見つけた。俺の部屋からかなり離れた場所にある部屋だ。


 中に人がいるのかな? と思い、足音を潜めながら扉に近付く。すると、中から誰かの声が聞こえてきた。小声だったので、なんて言っているのかは分からない。


 この声は……アリーゼさん? となると、ここはアリーゼさんの部屋なのか。……女性の部屋の扉の前で聞き耳立ててるって、普通にまずいのでは? 下手しなくても犯罪だよね?


 たらり、と背中に冷たい汗が流れる。 


 よし、ここは退散しよう。俺は今夜、ここにいなかった。いいね?


 こそこそと扉から離れようとした、その時。



「あの天使には、感謝しなくてはいけませんねぇ」



 そんな言葉が、俺の耳朶を打った。


 先ほどよりも大きく、何処か興奮したようなアリーゼさんの声。


 そこには、明確に嘲りの感情が込められている。



「天使が来てくれたおかげで、この教会に寄せられる寄付金は倍以上に。国の貴族からは懇意にしたいという申し出が引っ切り無しに来て……ふふっ、誰も彼も、本当に単純なんだから」



 何を、言っている?


 耳に入ってくる言葉が、理解できない。


 脳がそれを拒んでいる。



「ああ、でも。一番単純なのは、あの天使ですねぇ。ちょっと優しくしただけでこちらの言うことをなんでも聞いて……ふふっ、本当にいい子ですね。どこまでもワタシに都合が良い……ふふっ、あははっ、ははははははははっ!!」



 もう、やめてくれ。


 聞きたくない。


 そう思っているのに、何故か俺は扉に近付き、僅かに空いた隙間から部屋を覗き込んでいた。


 そこは、執務室のような部屋。机に座り、書類を手に微笑むアリーゼさんがそこにいた。


 浮かべている笑みに、俺の知る面影はなく。


 欲と愉悦に満ちた微笑が、そこにはあった。



「あの子には、もっともっと頑張ってもらわないとねぇ? 他でもない、ワタシのために」



 やめ、て。


 ――――……気がつけば、俺は部屋に戻って、ベッドに寝転がっていた。


 枕に顔を押し付けながら、だらーんと脱力する。


 ……いやぁ、これは流石に……キツいなぁ……。


 優しかった。親切だった。上手くいかないときは助けてくれて、沈んだ心を浮かび上がらせるような言葉をかけてくれた。


 その全ては、ただの虚構に過ぎなかった。


 あっ、ちょっと待って。やばいやばい。マジでショック過ぎて涙出てきそう。あー……うん、よし。納まった。



「…………そっか。納得」



 ぽつり、と漏れた声。枕に顔を押し付けながら零したせいでくぐもったソレは、自分でも驚くほどに感情が籠っていなかった。


 いくらゲームのNPCにされたこととはいえ、彼らがリアルの人間と何ら変わりないのだ。


 『現実の人間とそん色がありません』? ああ、確かにそうだ。あの、扉の向こうにいたアリーゼさんは、何処までも人間だった。


 コミュ障で、ロクに話せない俺に無償で優しくしてくれる存在なんて、そっちの方がよっぽどファンタジーだ。そんなことは分かっている。


 けど……メンタルダメージは、素直にデカい。


 ごろん、と寝返りを打つ。


 天窓の向こう側に浮かぶのは、三日月。それがアリーゼさんの笑みに重なって見えて、俺はそっと瞳を閉じ、腕で目元を覆った。


 ……さて、どうしようか。


 多分俺はもう、普通に教会でのクエストをすることが出来ない。信者さんたちには悪いが、本性をしったアリーゼさんと一緒にいて、平静を保てる自信がないのだ。


 コミュ障の対人能力の低さを舐めないでいただきたい。千パーセント挙動不審になるから。絶対。


 と、すれば、ここから離れるしかないのだが……俺、教会から出れるのかね?


 隠れて逃亡とか、あのアリーゼさんが許すと思うか? 俺の前でも信者さんの前でもぼろを一切出さない彼女が、そのあたりの対策をしていないとは考えづらい。


 ……いや、この状況から抜け出す手段はあるんだよ。酷く単純で、簡単な手段が。


 MMOを、やめてしまえばいい。この世界から、永久に退場してしまえばいいのだ。


 そうすれば、全てが片付く。


 ぎゅっ、とシーツを強く握りしめる。唇を噛みしめた。


 天使様だなんて言われて崇められる現状も、俺のことを利用していた似非聖女も。


 状況に流されて何もできず、挙句の果てにはそれを『都合がいい』だの言って受け入れたふりをして、結局何も成長していない惨めな俺も。


 全部全部、ゼロになるんだ。


 ……なんか、それもありな気がしてきたな。


 元々、コミュ障を克服するなんて理由で始めたんだ。それが達成できないなら、やめて別の手段を取った方が建設的だろう。


 てか、なんで俺、VRMMOでコミュ障克服しようと思ったんだ?


 思いついた時に『妙案キタコレ』とか思っちゃった俺、反省して?

 

 はぁ、そうなると、この一週間はただただ時間をドブに棄てただけだったなぁ。勿体ないことをしたぜ。智璃に構ってやれば良かったなぁ。ごめんな、智璃。こんな情けないお兄ちゃんで。


 そうと決まれば、さっさとログアウトしよう。


 目元を覆っていた腕を下ろし、寝転がったまま、メニューを開こうとして――――目が、あった。

 

 さっきまで映っていた天窓からひょっこり顔を出した、女の子と。


 爛々と輝く紫紺の瞳が、笑みの形に細められる。


 

「…………………………………は?」


「おっ、はっけーん! 突撃! 噂の天使様ー! てなー?」



 なんだこいつ、さては変人だな?


 そんな特大ブーメランなことを頭の片隅に思い浮かべつつ、俺は「にひひっ、さっすがキャロルちゃんっ、持ってる女は違うナー」とか言ってる変な女の子を、呆然と見つめた。

読んでくれてありがとうございます!

明日も雁部て更新しますよー!

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[一言] まあ、疑いの心さえ持たない愚か者であったのはコミュ障だから知るすべがなかったとして 性別が無性なのに職業が巫「女」とは... コミュ障レベル、カンストしてね?
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