十八話 仲間。それはかけがえないもの。大切なモノ。その甘美な響きに込められた思いとそれから程遠い俺
久々更新。
俺がなんとかメンタルブレイク状態から立ち直るころには、キャロルたちの言い争いにも決着がついていた。
完全に話が逸れてしまっていた、俺がパーティーに入るという話だが、キャロルはどうやら昨夜の脱出劇の前にそのことを考えていたらしい。
どうして俺を? と当たり前のことを聞いてみたら、キャロルは満面の笑みを浮かべながら俺の方を見る。
「一眼見た瞬間に、こう、ビビってきたんだヨ! 運命的なサムシングだネ!」
「…………それはよく分からないが……俺なんかで、良いのか?」
ビシリ、とポーズを決めながら高らかに告げたキャロルへ、俺は首を傾げ尋ねる。
「…………俺なんて、ただ足を引っ張るだけの役立たずだぞ?」
俺の価値なんぞ、ゴミと同義だろう。
VRゲームに関しては言うまでもなくド素人。というか、ゲーム自体そこまで得意じゃない。運動神経だって人並みかそれ以下だ。
そもそも、このMMOを始めた理由が、『コミュ障を治したい』というゲームを純粋に楽しもうとしている人からしたら『は?』と言いたくなるものだし。
つまり、価値は最底辺。ナメクジと同じレベルと思われる。
それに比べ、キャロルたちは?
このゲームの内情に詳しくないのでなんとも言えないが、昨夜あれだけの教会戦力を他勢に無勢でボッコボコにしていたのだから、低いと言うことはないだろう。
しかも、パーティーメンバー同士の仲も良好。
そして、全員が全員、目が覚めるような美少女ときた。俺なんぞとは、比べることすら烏滸がましい。
そこに俺みたいなクソ雑魚コミュ障野郎が入り込む? 異物混入ってレベルじゃねぇぞ。
はっきり言って、俺が彼女たちのパーティーに入ったところで、迷惑を掛ける未来しか見えないのだ。
無理をして、無茶をして、失敗してーー失望される。そんな光景が、ありありと浮かんでくる。
目の前のキャロルの顔を見ることができない。ーー想像の中の、冷たい瞳をした彼女と重なって見えてしまうから。
キャロルにそんな目で見られたら……うん、やばいな。ちょっと想像しただけで、泣きそうだ。
グッ、と拳を握りしめる。
さっと視線を落とし、俺は感情を排した声で告げる。
「…………キャロル、考え直した方がいい。……お前がそう言ってくれるのは、素直に嬉しいけど……」
「アイちゃん……?」
小さく俺の名前を呼ぶキャロル。
俺は顔を上げ、なんでもないように笑ってみせた。
これで、いいんだ。これが最善の選択なんだとーー自分に言い聞かせて。
「…………俺をパーティーに入れるのはやめた方がいい。きっと、ろくなことにはーー」
「アイちゃん! そんなことは……!」
慌てたように言うキャロルに、俺は小さく頭を振った。『それ以上、何も言うな』と告げるように。
そんなことはないと、優しい彼女ならば言ってくれる。そんなことはわかっていた。
けれど、それに甘えてずるずると取り返しのつかない所まで行ったら……きっと、そんな俺を俺は許せない。
なら、引き際はここだ。これ以上、彼女たちと近づく前に、俺の方から離れよう。
俺は、キャロルから離れるように一歩後退した。
『誘ってくれてありがとう。嬉しかった』。
そう、口にしようとして――――。
「――――逃げるのですか、アインス・トゥルーカーム」
そんな声に、思考が止まった。
声のした方を向けば、シアンさんが険しい顔で俺を見ていた。
不機嫌そうな視線に、びくりと肩を震わせ顔を俯かせた。
ああ、やっぱり。俺がいるとこうやって誰かしらが嫌な思いをする。
そもそも、関わったのが間違いだったんだ。俺なんかが――。
「……とりあえず」
頭の中でぐるぐると思考を回していると、シアンさんの声が近くで聞こえて。
がしっ、ぐいっ。
頬を挟むようにつかまれ、強引に顔を上げさせられた。
開けた視界。驚きに見開いた目に至近距離にあったシアンさんの顔が移る。
不機嫌そうに眉を顰め、瞳に怒りを宿し……それでも、俺の目をまっすぐに見つめる彼女に、少しだけ目を奪われた。
「…………な、なに……を」
「人と話している時は、目を合わせるのです! 人付き合いが苦手だからって、最低限それくらいはするのです!!」
「…………ふぇ?」
……なんか、至極全うな怒られ方をされてしまった。
可笑しいな? 俺の予想していた怒られ方と違う気がするんだが……?
「この短い間でも、貴方が極度の人見知りでコミュ障でビビりでヘタレなのは分かるのです」
「…………こふっ」
だ、大ダメージ……。全部その通りとはいえ、直接ぶつけられると……こう……辛い。
「シ、シアン? そ、そんなはっきり言っちゃったら、アイちゃんが死んじゃうっ!? やめて、アイちゃんのライフはもうゼロヨ!?」
「黙ってるのですキャロル。優しいのはキャロルの美点ですけど、何事も過ぎれば毒なのですよ? 今のアインス・トゥルーカームに過度な甘さは厳禁なのです」
「で、でも……」
「キャロル」
「あ、あうあう……」
庇おうとしてくれたキャロルは、シアンさんの剣幕に押されて何も言えなくなっている。
あのキャロルが押し負けた……だと? 図々しさと我を通すことに関しては、俺の見てきた中でトップクラスの能力を持つ、キャロルを……!?
そんな俺の戦慄など知ったことか、といった具合に、シアンさんは視線をこちらに戻す。鋭い瞳と怒りの表情はさながら般若……あ、いえ、何でもないです。だからそんな睨まないで? 俺の蚤の心臓はもう限界だよ?
「アインス・トゥルーカーム。よく聞くのです」
「…………は、はい」
「貴方の様子を見ていれば、その人見知りでコミュ障でビビりでヘタレで情けない性格が根深い物なのは分かるのです。好きでそんな性格をしているのではなく、自分でもそれを何とかしようとしていることも。……まぁ効果のほどはどうだか知りませんけど」
「…………ぐぅ」
「ぐぅの音は出る、じゃないのですよ。ふざけてないで話を聞くのです」
いや別にふざけていたわけじゃなくて、ただ単に何か言おうとして失敗しただけで……はい、大人しく話を聞きます。だからそんなに睨まないで?
顔立ちが整ってるせいで、怒り顔の迫力がががが……。
「わーお、シアっちこわーい。……にしてもさ、シアっちってなんだかアイっちのこと、気になりまくりってカンジ?」
「そうですね。妙に嫌悪感を滾らせているのも、何かしらの感情の裏返し……と言ったところでしょうか? いえしかし、二人は初対面のはずでは……?」
「どうでもいいけど、あの二人、自分たちの格好がなかなか愉快なことになっている現状に気づいているのかしら? 美少女が美少女を恫喝しているようにも、至近距離で見つめ合ってるようにも、なんならキスする数秒前にも見えるあの構図……いいわね、創作意欲を刺激されるわ」
「あうあう……アイちゃん、ふぁいとー。応援しか出来ない弱いボクを許してネ……」
ほかのメンバーがなんか好き勝手言ってるけど……シアンさん、もしかして聞こえてない?
そう思い視線をシアンさんに戻すと……あ、目の鋭さがさらに……すでに妖刀レベルなんですが。
「……話している時は、相手の目を見なさいと、さっき言ったのです」
「…………すみません」
「よろしい。……さて、アインス・トゥルーカーム。貴方は、シアンたちのパーティーに入りたいのですか? 入りたくないのですか?」
「…………だ、だから俺がパーティーに入ると……」
「貴方をパーティーに入れた際に起きる不利益の話なんてしていないのです。そんな未来のことじゃなくて、今この瞬間の貴方の感情を聞いているんです。入りたいか、入りたくないか。分かりやすく簡潔に、イエスかノーで答えるのですよ」
シアンさんが、真剣な表情でそう聞いてくる。誤魔化しも嘘も許さないと、きゅっ、と地味に力が込められた手が語っている。というか、若干痛い。
その痛みが、さっきまで沈んでいた俺の心を、平常通りに戻してくれた。
こちらを貫く視線が、それをこれ以上ずり落ちないように縫い留める。
逃げ道を塞がれた。言おうとしたことを遮られた。だから、俺に出来ることは一つしかなくて。
「…………い、イエス」
口から洩れたのは、肯定の言葉。
そりゃ、入りたいか入りたくないかで言われたら、入りたいに決まってる。
元々、人との関りを増やしてコミュ障を治すために始めたゲームだ。誰かと共に行動が出来るのなら、それはコミュ障改善の大きな一歩になるに違いない。
それに、キャロルはなんか分からんくらい接しやすいし、他のメンバーも……なんか、猫可愛がりされることが苦手と言うのを除けば、みなが皆いい人ばかり。
嫌われてるかな、って思ったシアンさんも、こうやって真正面から俺に気持ちをぶつけてくれるし。根はすごくいい子なんだなってのが丸わかりだった。
こんな人たちと知り合いに……もしかしたら、と、友達……とかになれるのなら、それはすごく嬉しいことだ。
俺の返事を聞いたシアンさんは、どこかホッとしたように息を吐くと、俺の頬を掴んでいた手を離し、代わりにびしっと伸ばした指を俺の額に突き付けた。
「なら今は、それだけでいいのです。迷惑だのなんだの、未来のことをぐちぐち考えるのはよすのです。そうなってしまったら、そうなってしまった時に考えればいいのですから」
「…………は、はい。分かりました……」
やだ、シオンさんすごくカッコいい……力強く微笑んで腰に手を当てる姿が堂に入り過ぎてる。
これ、俺よりもよっぽど男らしいのでは……? ……やめよう。考えるだけで悲しくなってくるから。
俺がシオンさんと自分の差に悲しい気持ちになっていると、シオンさんはどこか呆れたような笑みを浮かべ、視線をしょげかえっているキャロルに向けた。
「大体、迷惑を掛けられるのなんてキャロルで慣れっこなのです」
あ……(察し)。うん、なるほどね? それはまぁ……うん、凄くよく分かる。
まだ出会って一日だけの俺にも、キャロルが騒ぎを起こすのが好きなんだろうなってのは理解できる。
「うぇ!? こっちに飛び火した!? なんでぇ!? てか、シアン! それがリーダーに対する物言いかヨ! 酷いゾ!」
昨日のことを思い出して俺が遠い目をしていると、話に上がったキャロルはがばり、と顔を上げ、うがー! と抗議するように腕を振り回す。
だが……残念ながら、ここに彼女の味方は存在しないようだった。
「あ、それわかるー」
「確かに……騒動を愛し、騒動に愛されているのがキャロルですからね」
「トラブルメイカーここに極まれり、と言ったところかしら? まぁ、退屈しないから私は気にしてないけど」
うんうん、と納得の表情で頷くシュテルンさん、トモエさん、ファブリカさん。
さすがは同じパーティーといった感じのシンクロっぷりに、キャロルはビシッ、と固まって引き攣った顔を浮かべている。
……本当に、凄くいい雰囲気のパーティーだなぁ。
彼女たちのやり取りに、思わず笑みを浮かべた俺に、シアンさんが柔らかい表情で声を掛けてきた。
「どうです、アインス・トゥルーカーム。シアンたちのパーティーは。いろんな意味ですごいでしょう?」
「…………はい、確かにそうですね」
「分かってくれたのなら何よりなのです。あと、変に丁寧な話し方しなくていいのですよ。キャロルにするのと同じ感じでいいのです」
「…………え、でも」
意外、という感情を隠さずにシアンさんの方を見る。ふいっ、と目を逸らした彼女の顔に浮かんでいたのは、何処かばつの悪そうな表情だった。
「デモもテロもないのです。……最初、貴方につらく当たってしまったのは、その、悪かったのです。少し貴方に思うことがありましたが……シアンの思い違いだったみたいなのです」
「…………そう、なんですか?」
「はい……って、口調」
「…………はい……じゃなくて、うん」
「それでいいのです。ふふっ」
満足げに微笑んだシアンさん。
その笑顔は、すごく綺麗で魅力的で……眩しかった。
思わずふいっ、と目を逸らしたその先では、いまだにキャロルがわーきゃーしていた。
「……アレ? おかしいにゃー? 誰もボクサイドに立ってくれない? ボク、リーダーぞ?」
「「「「信用して(る)(ます)(いるわ)(るのです)、リーダー」」」」
「その信用はアレだナ! ぜぇったいにいい意味の信用じゃないな!! うわーん! アイちゃーん! みんなが虐めるヨーー!!」
「…………自業自得だろ」
びょーん、と有名な大泥棒みたいに飛び込んでくるキャロルを回避。
ずざーーと地面を滑っていくキャロルに、思わずくすりと笑みを零す。
そして、シュテルンさん、トモエさん、ファブリカさん……そして、シアンさんの方を向いて、ペコリと頭を下げた。
「…………その、えっと……これから、よろしくっ」
そんな俺の声に、返ってきたのは……。
「よろしくなのです、アインス・トゥルーカーム」
「あはっ、こっちこそよろしくね! アイっち! おねーさんがいっぱい優しくしてアゲル!」
「はい、よろしくお願いします、アインスさん。アインスさんみたいな可愛い方は大歓迎ですよ」
「貴方は良い素材になりそうだから、入ってくれて嬉しいわ。どんな格好が似合うかしらね?」
「…………ありがとう」
暖かく優しい四人の声に、俺は自然と笑顔を浮かべるのだった。
「……ぐすん、アイちゃんもいじめた……ぐすんぐすん」
「…………悪かったって、キャロル。ごめん」
読んでくれてありがとうございます!
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