十七話 センスの類って自分で自覚できないし、他人に否定否定されても中々認められないものだよね。でも、これはひどいと思う
新年初更新!!
今年もよろしくお願いいたします。
「それではこれより!! 『キャロルと愉快な仲間たち』の実力をアイちゃんに見せつけよう!! の時間だヨ!! ボクたちの凄いところ、アイちゃんに存分に見せつけてるんだヨ!」
くるりくるりと舞うように回りながら、キャロルが満面の笑みを向けてくる。
今、俺とキャロルたちがいるのは、アリフ村をでた先にある、『アリフ荒野』というフィールドだ。
自己紹介が終わったあと、俺はキャロルに引っ張られ、彼女の仲間たちと共に村を出てここに来ていた。なお、説明の類は一切ナシである。なんでここに連れてこられたのか、全くわかっていない。
『???』となっている脳内を一度スッキリさせるべく、初となるフィールドの景色を眺める。
砂と岩で構成されたどこか物寂しい光景が広がり、遠くの方には連なる山が見える。彼方の方はまた違ったフィールドなのだろうか?
でもあの山、なんか禍々しい感じのオーラに包まれてるな……なんかあるのかね?
山を見ながら首を傾げていると、いつの間にか隣に来ていたトモエさんが声をかけてきた。
「ふむ、アインスさんは『領域』を見るのは初めてですか?」
「…………りょう、いき?」
「領域は、一種のインスタンスダンジョンであり、このゲームの攻略目標です。領域の奥地にいるボスを討伐することで領域を消し去ることができ、次のフィールドに足を進めることができるのです。あの山は始まりの街の周りに存在する五つの領域が一つ、【険しい山】ですね」
いや、名前よ。まんまやんけ。
確かに標高は高いし登るのは大変そうだけど……もうちょっとかっこいいネーミングになんなかったの?
それとも、このゲームのフィールドは全部こんな感じの名前だったりするのか……?
俺が訝しげな顔をして要るのを見たトモエさんが、クスクスと袖で口元を隠しながら、上品に笑ってみせる。本当に、所作の一つ一つが優雅な人だ。思わず、見惚れそうになる。
「やっぱり、変な名前だと思いますよね? 安心してください。他の領域はファンタジーゲームらしい名前ですよ。変なのはあの山だけです」
「…………そ、そうなん、ですか」
「もう! アイちゃんにトモトモ! 楽しくおしゃべりして友好を深めるのはいいけど、ちゃんとボクの話を聞いてよネ!! 無視はいくないんだヨ!!!」
うごぉ……! 耳がキーンってなったぁ……!?
いつの間にか背後に来ていたキャロルが声を張り上げてプンスコと頬を膨らませる。お前をほっといたのは悪かったかもだが、耳にダメージを与えるのはやめて……やめて……。
「…………リインディア。耳元で叫ぶな。鼓膜が死ぬ」
「ふーんだ! アイちゃんがボクの話を聞いてくれないのが悪いんだからネ! だから、ボクは悪くない!」
プイッ、と不満げに顔を背けたキャロル。うん、これはもう、どれだけ文句を言っても聞く耳を持たないだろう。これ以上は不毛というものだ。
色々と湧き上がってくる文句をグッと飲み込んで、俺はキャロルに気になっていた事を尋ねる。
「…………なぁ、リインディア。俺はなんでここに連れてこられたんだ?」
「……ほえ? ボク、説明してなかったかー? 何も言わずについてきたから、分かってるかと思ってたんだケド……」
うん、何も言われてないねぇ。何も言わずについて行ったのは、あれよあれよの間に連れてこられて、疑問を口にする暇さえなかったからだよ。
俺がジト目を向けると、キャロルはにへらと微笑み、「ゴメンゴメン」と両手を胸の前で合わせてかっるい謝罪をした。
……くそっ、見た目がいいせいで、そういう何気ない仕草がメチャクチャ可愛く見える。不満とかどっかいっちまうじゃねぇか。ズルいなぁ。
「アイちゃんには、ボクたちのパーティーに入ってもらうから、その前にしっかりとみんなの強さを確認してもらおうと思ったんだヨ! アイちゃんも、自分が入るパーティーがどのくらい凄いのか、知っておきたいでしょ?」
「…………ん? 待て、リインディア。なんの話だ。誰が誰のパーティーに入るって?」
「ほえ? アイちゃんが、ボクたちのパーティー『キャロルと愉快な仲間たち』にだヨ?」
はっはっは、まーた知らない話が出てきたな? いつの間にそんな話が進行していたんですかねぇ? あと、パーティー名本当にそれなのか?
俺が宇宙に放り出された猫みたいな顔をしていると、呆れた様子のシュテルンさんがキャロルに向かって口を開く。
「もー、キャロルっちダメじゃん! アイっちに全く説明してなかったんでしょ? それじゃアイっちが困っちゃうじゃん! あと、パーティー名は『薔薇色ホイップムード』だし」
シュテルンさん、グッジョブ! もっと言ってやってくれ! でもそのパーティー名はキャロルとどっこいどっこいだと思うな!
「全く、シュテルンのいう通りです。リーダーなんですから報連相はしっかりしてください。キャロルはそういうところが適当すぎますよ? あと、パーティー名は『乙女隊・天上天下唯我独尊』がいいと言っているじゃありませんか」
「そうね。でもまぁ、キャロルの適当さは今に始まったことじゃないし、言って直るようなものなら、私たちは苦労せずに済むのだけどね。あと、パーティー名は『ヴァイス・フェー・ヴァルプルギス』一択よ」
トモエさんとファブリカさんも援護射撃してくれるのはとてもありがたいのだが……いや、ネーミングセンス。なんでそこだけキャロルと同レベルなんですか?
「むむむっ! 聞き捨てならないネ! ボクの考えたパーティー名が一番に決まってるヨ!」
「いやいや、ナシよりナシだから。キャロルっちのちょーダサいパーティー名とか、ウチのセンスヤバいパーティー名に比べたら、ダサダサのダサっしょ」
「ふふっ、二人とも。自己評価はきっちりとしないと、あとで恥を掻いてしまいますよ?」
「その言葉、自分にもそっくり返ってきてることを自覚なさい、トモエ。というか、生産職の私にセンスで勝とうというのが間違いなのよ。三人とも、素直に敗北を認めなさいな」
「ボクが一番!」
「ウチの!」
「私に決まってます」
「やれやれ、私以外ありえないのが、まだ分からないのかしら?」
うわぁ……なんか非常に不毛な争いが始まったんだが? はっきり言って全員同レベルのような気がするんだけど……うん、言ったら矛先がこっちに向きそうだから、黙っておこう。
そういえば……話に入ってこないシアンさんも、この流れだと、似たような感じなんじゃ……。
そう思い、さっきから無言無表情で佇んでいるシアンさんに視線を向ける。
俺の視線に気づいたシアンさんは、ギロリと鋭い視線を向けてきた。
……容姿が整ってると、睨まれるだけで凄い威圧感だよなぁ。ぶっちゃけ超怖い。
「……アインス・トゥルーカーム。もしかして、シアンがあの四人と同じレベルのネーミングセンスをしているとか考えているのです?」
ぎくり。か、完全に心を読まれてやがる……。
さっと視線を逸らした俺を見て、シアンさんは腕を組み、呆れを多分に含んだため息を吐いた。
「はぁ、全く。シアンを馬鹿にしないで欲しいのです。おふざけ、少女脳、昭和、厨二なんかと一緒にされるのは心外なのです」
「…………ご、ごめん、なさい」
「……そんなに怖がられると、シアンがいじめているみたいになるのです。別に怒ってないので、普通にするのです」
「…………こ、これが、普通、です……が」
言葉を交わすのもギリギリなんですよ? キャロルが大丈夫だと言っていたから、何もいえずに固まるなんて無様な感じにはなってないけど……。
シアンさんみたいな美少女を前にして、クソザコメンタルのコミュ障がまともに話せるとでも? ……なんて開き直りをしたら、またゴミみたいな目で見られるんだろうなぁ。
俺、Mじゃないから蔑まれたら悲しいだけなの……心はガラスというか、砂細工レベルなの……優しくして?
そんなアホみたいなことを考えている自分に、思わず「へっ……」と自虐的な笑みが漏れた。
それをシアンさんに見られて、「何この人」みたいな目で見られた。めっちゃドン引きしてた。
死にたい。
「…………死にたい」
「い、いきなり何を言ってるのです!? 大丈夫なのですか!? というか、死にたいだなんて冗談でも言っちゃいけないのです!」
あっ……シアンさん優しい……。俺に対してはやけにツンケンしているけど、絶対に良い子なんだよなぁ。
そんなシアンさんに嫌われる俺って……うん、考えるのをやめよう。砂細工メンタルが木っ端微塵に砕け散っちゃうから……。
俺は瞳からハイライトを消し去り、がっくりと肩を落とした。
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