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十四話 世紀の大脱出劇開幕! 美少女怪盗VS欲深き聖女⑦

決着!


久しぶりに戦闘シーン書いたせいで勝手が思い出せんかった……分量もいつものい1.5倍くらいになっちゃったし……。

 ガキィィンッ!! と、金属と金属がぶつかり合う音が響く。


 キャロルがいつの間にか装備していた短剣と、アリーゼのガントレットが交錯した音だ。


 

「シィ!!」


「おわっとと……!」



 一度目の衝突は、アリーゼが競り勝った。裂帛の気合と共に振り切られた拳で、キャロルが後方に吹き飛ばされる。


 キャロルは空中でくるりと一回転し、体勢を整えて着地。すぐさま短剣を構え、キャロルを油断なく見つめている。ダメージは……大丈夫そうだな。


 筋力ステータスは、アリーゼの方が上ということか……。けど、ぶつかり合う時の動き的に、敏捷ステータスでは勝っている。


 なら、ここで俺がやるべきことは……!


 背中の翼を意識して、戦場の近くまで降下する。


 そしてまずは、眼下のキャロルに向けて手を翳し――



「――【アタックアップ】」



 キャロルの身体に、ステータスがアップしたことを示す赤いエフェクトが掛かる。


 筋力ステータスをアップさせる強化魔法。これで、アリーゼとのステータス差は幾分か埋まったはずだ。


 けど、俺の魔法はこれだけじゃない。ステータス差が埋まったとはいえ、上回ったかどうかは分からない。


 なら、今度は――こうだ!



「――【アタックダウン】!」



 アリーゼに向かって手を翳し、唱えるは『魔法:弱化』の【アタックダウン】。筋力ステータスに対するデバフだ。


 これで、キャロルとアリーゼの筋力ステはトントン……いや、キャロルの方が上回っているかもしれない。


 

「アイちゃん、サンキュー!」


「くっ……まさか強化だけでなく弱化まで使えるとは……!」


「へっへーん! アイちゃんを出世の道具程度にしか考えていなかったつけが、ここで出ちゃったネ? さぁ、覚悟しなよ暴力聖女! ご生憎様、天使様の加護はボクに付いているんだよッ!!」



 キャロルがアリーゼに向かって地面を蹴る。接敵は一瞬。加速のままに短剣を振るった。


 アリーゼはガントレットが嵌った両腕を交差させそれを防ぐが、明らかにさっきよりも押されている。


 よしっ、いいぞっ! 上手くいった! 後はこのまま、押しきれれば……!



「くぅ……! はぁあああ!!」


「おっと、残念ながら当たらないヨ! それじゃお返しの……【アサルトエッジ】!」


「あぐぅうう……!」



 アリーゼが振るった拳をひらり、と半身になって交わしたキャロルが、反撃のアーツを叩き込む。


 攻撃後の隙を晒していたアリーゼに、光を纏った短剣が打ちつけられ、その身体を大きく後退させた。


 そして、ダメ押しとばかりにアリーゼに向かってカードを投擲。アリーゼはとっさに回避行動に出るが、カードの一枚が肩にを掠る。


 

「うぐっ……! なめ、るなぁああああああッ!! 【ライジングフィスト】ォ!!」


「むっ、喰らうのは不味そうだネ。【ハイステップ】!」



 アリーゼの反撃! ガントレットにエフェクトを纏い、真っ直ぐにキャロルへ突っ込んでいく。


 しかし、キャロルには当たらない。高速移動のアーツでアリーゼに向かっていき、擦れ違いざまに体を低く伏せて拳を回避。


 そのまま短剣を振るいアリーゼの横腹を切りつけ、痛みで動きを止めた彼女の背中を蹴っ飛ばした。


 突進攻撃の勢いに背中を蹴られた衝撃が加算され、アリーゼの身体は面白いように吹っ飛んでいく。そしてそのまま、地面に叩き付けられた。


 石畳へのヘッドスライディング……うん、普通に痛そう。



「あがっ……! くぅ……よ、よくも……よくも、やってくれましたねぇえええええ!!?」


「ふふっ、そんなに怒ったら、ただでさえ怖い顔がもっと怖くなっちゃうヨ? ただでさえ鬼婆みたいなのにサ!」


「ぁああああああ!! 賊風情が、このワタシを虚仮にするなんてぇええええええ!!」


「にゃーっはっはっはっはっは! おいおい、セリフが完全に悪役だゾ? 聖女の名が泣いてるネ!」



 うわー、キャロルすっげぇ楽しそう……。


 煽りに煽り、アリーゼをトニカク怒らせるキャロル。


 アリーゼは昂った感情に飽かせて拳を、蹴りを放つが、フェイントも何もないソレはキャロルに掠りもしない。


 逆に反撃を食らってしまい、少しづつダメージを重ねていった。


 キャロルの一撃はそこまで重くはないが、何度も何度も当たればそれは無視できない損害となる。


 怒りのままに攻撃を続けていたアリーゼも、減り続ける己のHPに焦りから冷静さを取り戻し、動きが理性的なモノになってくる。


 そこからの戦いは、一種の膠着状態に陥っていた。


 アリーゼが踏み込みの勢いをのせた拳を放つ。キャロルは身を捻って回避。


 次いで、アリーゼはその場に足を止めての連続攻撃を敢行。拳、蹴りを織り交ぜた打撃の嵐を、キャロルは上に跳ぶことで抜け出し、カードの雨を降らせる。


 俺は上空から戦いの様子を見つめながら、切れたバフデバフを掛けなおしていた。そして、キャロルのHPが減れば、その都度【ヒール】で快復させる。


 戦うことで役に立てないのだから、このくらいはしないとな。まぁ、キャロルのHPを回復させるたびにアリーゼが親の仇でも見るかのような目つきで睨みつけてくるのが怖かったが、『絶対に手が届かない場所にいる』という安心感で、なんとか耐えることが出来た。


 戦闘は順調に進んでいる。そう思っていたのだけれど――



「くぅ……はぁ、はぁ。…………仕方ありませんね。これは……これだけは使いたくなかったのですが……」



 キャロルの攻撃を受け、苦し気に息を荒上げているアリーゼが、何やら嫌な予感のするセリフを口にする。



「ッ! させないッ!!」



 そして、警戒した様子のキャロルが珍しく焦りを見せ、攻撃を急ごうとして――



「暴血の拳にて、我が敵を打倒せん――【ブラッドランペイジ】」



 ――――遅かった。


 ドンッ!! とアリーゼの身体から全身を覆うように血色のオーラが迸る。


 見るからにヤバそうなソレを見て、知らず知らずのうちにゴクリと唾を飲み込んだ。


 アレは……魔法? エフェクト的に強化魔法の類だと思うが……それにしたって、気配が不気味だ。


 怖い、というよりも『危うい』という印象を受ける。


 オーラを警戒し、攻撃を取りやめたキャロルは、苦々しい表情を浮かべていた。



「うわぁ……自身のHPを代償に全てのステータスを上げる禁断の強化魔法……だっけ? 前に何かで読んで、うわぁ……って思ったのを覚えてるにゃー……。聖女様がそんなヤバすぎな魔法、使ってもいいのかナ?」


「貴女を打倒し、天使を取り戻すためなら、手段は選びません。例え、教会の教義から外れていようと――それでは、死になさいッ!!」



 ――速い!?


 ダンッ、と石畳を砕く勢いで踏み込んだアリーゼは、残像を出しそうな勢いでキャロルに突っ込んでいく。



「シィ!!」

 

「わわっ、【ハイステップ】ッ!」



 アーツを使用したキャロルが、アリーゼの拳を横っ飛びで回避。そのまま、距離を取ろうとして――



「遅いですよ!」



 いつの間にかキャロルの目の前にいたアリーゼが、拳を振るった。



「あぐっ!?」



 ズドンッ!! と鈍い音が響き、キャロルの身体が吹き飛ぶ。

 

 なっ……! 速すぎる……!


 回避された攻撃のキャンセル。そこから移動のベクトルを回避行動を取ったキャロルへと向け、距離を取られる前に拳の一撃を叩き込む――それを、目にもとまらぬスピードでやってのけた。


 ど、どれだけステータスが上がってるんだ……? とっさに短剣を挟み込んでガードしたキャロルのHPを、半分も持っていきやがった。


 とにかく、まずは回復を……! それと、防御バフもだ!



「――【ヒール】! 【ガードアップ】!」


「うぅ……アイちゃん、ありがと」



 お礼を言うキャロルの言葉は、どこか弱々しいモノだった。その反応に、俺は軽く目を見開く。


 あの余裕綽々がデフォルトみたいなキャロルが……やっぱり、今のアリーゼはそれほどまでに危険だということだろう。


 くそっ、どうしたら……! ……いや、焦ったところで事態が好転するわけじゃない。むしろ、迂闊な行動はそのまま危機に繋がってしまう。


 でも、このまま何もしないなんて出来るわけがないし……。


 そう、俺が逡巡しているうちにも、下では戦闘が再開していた。


 ……いや、これはもう戦闘と呼べるのだろうか。



「はぁああああ!! 死ねッ!! 死ねぇええええッ!!」


「くぅうう……! ボクは負けないよ……! 絶対……にッ!」



 暴風の如き連撃を、血色のオーラを揺らめかせるアリーゼが放つ。


 そこに込められた威力は、掠っただけでも危険なのだということが、見ただけで分かってしまう。


 キャロルは、ソレをギリギリのところで避けている。


 緩急をつけた変幻自在な動きで、舞い落ちる木の葉のように、拳と蹴りの嵐を避ける、避ける、避ける……!


 しかし時折、回避が間に合わずに防御を選択せざるを得ない状況に陥り、そのたびにHPを大きく減らしている。


 このままじゃ、ジリ貧だ……! 何か、何か手はないのか――?


 俺に出来ることは、強化と弱化と回復。そして、戦場を俯瞰視点で眺めること。


 そんなことした出来ない自分に歯噛みしそうになるが……ならば、出来ることを限界までやるだけ。


 だから俺は、見て、観て、視て――どんな些細な情報も見逃さないように、眼を皿のようにして観察する。


 ハッ、人と接することは苦手でも、人を観察することは得意中の得意だ。


 なんせコミュ障は、何時如何なる時だろうと――――人の顔色を窺って生きているからなぁ!!


 人に聞かれたら情けなさで死にたくなるようなことを思い浮かべながら、魔法を放ち、戦場を見つめ続ける。


 

「――――…………ん?」



 そして――――気付いた。



「…………キャロルの動きが、おかしい?」



 気になったのは、キャロル。


 アリーゼの攻撃を避け、受け流し、防御する――その行動の合間合間に、何やら妙な『隙』があるように見えるのだ。


 いや、隙と言うより……何かをしようとして、失敗しているような――?


 その動きから推測できるのは、キャロルには何かしらこの状況を打破するための手札があり、しかしアリーゼの猛攻の前に、それを切ることが出来ない……のか?


 確証はない。だが、そう考えれば、キャロルの動きに説明が付くのも確か。



「シィイイイイイイネェエエエエエエエエエエエエッ!!」


「うぐぅ……お断りだヨ! ボクが……勝つッ!」


「戯言をぉおおおおおおお!!」



 ……賭けてみよう。


 俺の考えが正しいかどうか。そんな無駄な思考を回していたら、何時まで経っても動けない。


 そして、何もせずにこのまま敗北するなんざ、死んでも御免だ。


 瞼を下ろし、すぅ、と息を吸って、吐く。


 目を開き、覚悟を決めた。


 ――――行くぞ。


 眼下では、キャロルがアリーゼの攻撃を受けて吹き飛ばされているところだった。



「――【ヒール】」



 キャロルに向かって回復魔法を飛ばす。……アリーゼは、こちらを見ない。俺のことなんざ、これぽっちも眼中にないようだ。


 

「ふ、ふふふ……さぁ、殺して差し上げましょう……」



 今、彼女の目にはキャロルしか映っていない。キャロルを倒すことに執着している。


 あの魔法には、思考能力を低下させるデメリットとかもあるのかもしれない。なんか、見るからに『暴走』って感じだし。


 けど、今はそれが好都合! 


 バサリ、と翼を広げ、俺は戦場を目掛けて降下する。


 そして、インベントリから『あるモノ』を取り出した。


 

「くぅ……」


「さぁ、死になさい? ――【クリムゾンインパ――」



 ッ! 今だッ!!


 キャロルに向かってアーツを放とうとしていたアリーゼへと、俺は手を振るった。



「ク――何ッ!? これは……!」



 振り上げた拳を、振り下ろす――――その刹那。


 アリーゼに鎖が巻き付き、その身体を拘束する。


 上半身を重点的に縛り上げた鎖は、アリーゼの放とうとしたアーツを阻害し、強制的に不発にした。


 困惑の声を上げ、鎖が伸びる先――背後に降り立った俺を見て、アリーゼは憤怒の表情を浮かべた。


 

「て、天使ぃいいいいいいいいいいいい!!!!?」


「…………アインスだ。覚えておけ」



 にやり、と。どこぞの自称美少女怪盗さんを真似て、挑発的な笑みを返す。


 アリーゼを縛り上げたのは、俺の持つ唯一の攻撃手段『ペンデュラム』による拘束攻撃。


 それにより聖女は――明確な隙を晒した。



「…………キャロルッ!」


「ッ! っはは!! やっぱり、さいっこいだネ! アイちゃん! 君はまさしくお宝だヨ!」



 立ち上がり、頼もしい笑みを浮かべたキャロルは、おもむろに眼前に手を翳した。



「――ではでは、ご照覧あれ。今宵限りのショータイム」



 何か、呪文のようなモノを唱え始めるキャロル。それに合わせて身体からオーラが立ち上り、ふわり、と彼女の髪や衣服を揺らす。


 そして……アレは……賽子、か? 


 立方体の六面賽子が一つと、正ねじれ双五角錐の十面賽子が二つ。キャロルが翳した掌に浮かんでいた。



「――一世一代の大博打。運命を決める賽子を振るいましょう」



 キャロルはそっと賽子が乗った手を振るう。


 まるで舞台女優か何かのような、芝居がかった美しい所作で賽子を放り上げた。


 宙に舞う賽子は、空中に現れた魔法陣に絡めとられるように静止すると、くるくると回り出した。


 ――――その時、何故か。


 『それをしなければいけない』という直感が脳裏を過った。


 それに逆らわず、空いている手をスッとキャロルに向け、口を動かす。


 使うのは――この世界に来てから一番多く使っているスキルと、今日覚えたばかりの魔法。



「――『加護』。――――【ラックアップ】!」



 キャロルが纏っていたオーラに被さるように、加護の燐光とバフエフェクトが舞う。


 キャロルが軽く目を見開き、ニヤリと笑みを浮かべながら、俺に向かってウインクを一つ。



「――ほんっとに、アイちゃんは最高だネ! 愛してるぜぃ?」



 悪戯っぽく、そんなことを言いながら、キャロルはパチンと指を鳴らした。


 空中でくるくると回っていた賽子が、ぴたり、と止まる。


 ――来る。直感的にそう感じた俺はアリーゼの拘束を強めた。



「属性賽子『5』――【聖】、魔導賽子――わぁお、『01(クリティカル)』♪ じゃあ、覚悟してネ! 聖女アリーゼ――【ダイス・マジック】!」



 その言葉で、空中の賽子がはじけ飛んだ。キラキラと輝く粒子となった。


 光の粒子は宙にとどまって点となり、点と点を繋ぐ線を伸ばし、やがて一つの大きな魔法陣となった。



「なぁ……そ、その魔法陣は……! 聖属性最上級魔法の……!」



 魔法陣を見て、アリーゼが絶句していた。


 確かに、宙に描かれた複雑な文様から感じる力は、絶大の一言に尽きる。


 

「アイちゃん! 聖女を投げて!」


「…………分かった」



 キャロルの言葉に従って、ペンデュラムを操作。アリーゼの身体をぐいっ、と持ち上げ――空に、放り上げる!


 拘束によって動くことすら出来ず、成す術もなく空中を舞ったアリーゼ。


 キャロルは宙を泳ぐ彼女に向かって、魔法陣の照準を向けた。


 ――――決着が、突く。


 

「ぁあああああああああああ!!? 己ぇえええ!! おのれぇええええええええええええッ!!」



 藻掻きながら、怨嗟の声を上げるアリーゼ。


 俺とキャロルは示し合わせるように視線を交錯させ――アリーゼを見上げ、声を張り上げる!



「これにて終幕――ボクたちの、勝ちだ!」


「…………今までお世話になりました。お礼だ喰らえコンチクショウ」



 そして――



「【神聖十字砲セイクリッド・クロス・ブレイカー】!!」


「くぅ……うわぁあああああああああああああああああ!!?」



 魔法陣から放たれた眩い純白の極光が、全てを飲み込む奔流となって、アリーゼを夜空の果てに吹き飛ばしたのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます!


ブックマ感想評価も励みになっております!

また次回!

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― 新着の感想 ―
[一言] 生きてたりするんだろうか?
[一言] クズの聖女が最上級の聖属性魔法でやられるというのも皮肉なもんですね。
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