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十二話 世紀の大脱出劇開幕! 美少女怪盗VS欲深き聖女⑤

あい、ここ数日リアルがやけに多忙だった作者です。

更新遅れてすみませんしたぁああ!!

夜道を翔ける影と、それを追う無数の影。静寂の夜とは程遠い喧騒が渦巻いている。


 ――――やばいやばいやばいやばいっ!!?


 景色がすごい勢いで後ろに流れていく。ジェットコースターよりも激しく上下に動く視界に、吐き気が限界まで来ていた。


 俺を横抱きにしたまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねるキャロルを狙うのは、後方の教会集団。


 殺意満点の光球を無数に放ってくる。それをキャロルは見事な動きで避け、時にカードを投げて迎撃していた。


 激しい動きに、キャロルへ抱き着く腕に力が入る。そんな俺の至近距離を光球がヒュンッと通り過ぎていく。


 ――――ひゃあ!? まって!? い、いま掠った!? 攻撃掠ったよねぇ!? 


 東門への道のりは、すでに三分の二ほどを踏破している。が、その段階になって、追手の激しさはピークを迎えていた。


 がたがた震える俺をちらりと見て、キャロルが声を掛けてくる。



「アイちゃーん、だーいじょーぶかー?」


「…………だ、大丈夫……大丈夫……」


「おっけー! そろそろ限界だネ! いようし、スピードあげていくヨ!」



 言うや否や、キャロルはダンッと強く地面を蹴った。



「――【ハイステップ】っ!」



 その言葉と共に、キャロルの身体が加速する。背中に迫っていた光球を置き去りにする勢いで前進する。


 すごいっ、これなら逃げ切れるかもしれない! 俺は急加速で発生したGで「くぇ」って絞められた鳥みたいな声出てるけど!?


 

「なっ! 速い……!」


「天使様を抱えているというのに……くそぉ! 追え、追えぇえーー!!」



 教会の面々も必死に追ってくるが、アーツを使ったキャロルの速度には叶わない。見る見るうちに距離が開いていく。

 

 キャロルは時折飛んでくる光球をサーカスの軽業のように避けつつ、くるりとターンを決め、教会の面々へと挑発的な笑みを向けた。


 

「にゃーっはっはっはっはっは! 捕まえれるもんなら捕まえてみなヨ! 全力で走ればボクに追いつけるカモ? ……あっ、もう全力だったりする? ごめんネ?」


「「「「「あぁあああああああ!!? あの不届き者を絶対に許すなぁあああああああああッ!!」」」」」



 ぶちり、と彼らの堪忍袋の緒が切れる音が、ここまで聞こえてきそうな勢いだった。全員、聖職者にあるまじき鬼のような形相をしている。


 ちらり、とそれを覗き、あまりの迫力にソッコーで視線を逸らした俺は、元凶であるキャロルにジト目を送った。



「…………キャロル、挑発する必要はなかったんじゃ?」


「癖になっちゃってるんだヨ、人を煽るの」


「…………その癖、すぐに直すことをお勧めするぞ」



 ジト目を強めてみても、キャロルはにゃははーと笑みを浮かべるのみ。どうやら聞く耳は持っていないらしい。


 だがまぁ、さっきのアーツで追手からかなり距離を取れたのも確か。それに、よくよく確認してみれば、教会の面々は怒りが先行しすぎていて、動きがてんでバラバラだった。


 それに、今走っているのは建物と建物の間にある路地だ。道幅はそこまで広くない。そんなところで集団がバラバラに動けば……。



「うわっ!?」「ちょっと、押さないでよっ!!」「痛い! テメェ、今俺の足踏みやがったなぁ!」「くそっ、邪魔!」「天使様! いまお助け……ぎゃあああああああ!!?」



 まぁ、こんな感じの地獄絵図が出来上がるわけで。



「…………むごいな」


「じごーじとくってやつだネ! 可愛い可愛いアイちゃんを監禁してた連中だぜい? ざまあみろだヨ!」



 一応、あの惨状の原因はキャロルなのだが……まぁ、効果的な手段を取っただけだし、ツッコむのは止めておこう。


 それにしても……このMMOに置いて、キャロルの実力というのはどのくらいなのだろうか? この逃亡劇で見せた動きだけでも、相当な手練れだと言うのは分かるのだが……。


 そう思い、キャロルに視線を向けてみる。



「? どったの? ……あっ、さてはアイちゃん……ボクに見惚れちゃった!? いやぁ、やっぱり~? ボクの美少女っぷりは半端ないネ!」



 ……手練れだろうが何だろうが、コイツが変人なのは変わらねぇな、うん。


 さて、なんだかんだで追手のほとんどを追っ払ったと思うんだが……東門まではまだかかるのかね?


 キャロルに尋ねてみたところ、もう五分ほどで着くという。なるほど、勝ったな。風呂入ってくる。


 と、俺が内心で余裕綽々をかましていると、キャロルが少し深刻そうな思案顔になった。


 何か、気になることでもあるのだろうか? 後はもう、駆け抜けるだけのような気がするのだが……。


 キャロルは俺が疑問の目を向けているのに気が付くと、難しい顔のまま口を開く。



「うーん、ボクの気のせい……というか、考えすぎならそれでもいいんだけどネ? あの聖女が何もしてこないのが、ちょっと気になってるんだヨ……」


「…………ああ、そういえば」



 アリーゼさん、教会でキャロルが煽り散らした後からまったく見てないな。


 でもあの人、ただの聖女だろう? 戦う力とかなさそうなんだが?



「何言ってるのサ、アイちゃん! 今時の聖女は戦うのが一般的なんだヨ!? 戦闘能力のない聖女なんて、具材の挟まってないサンドイッチみたいなモノだヨ」


「…………それは唯のパンだ」



 おかしい、俺の知ってる聖女と違う……。


 けど、アリーゼさんに戦う力かぁ……まぁ、あの穏やかで優しそうな仮面の完璧っぷりを考えれば、戦闘能力を隠していてもおかしくない……のか?


 まぁ、そういうこともあるか……と俺が納得をした、その時。



「――――あら、賊にしてはなかなかいい勘をしていますわね」


「ッ!! アイちゃん、飛ぶよッ!!?」



 キャロルが勢いよく地面を蹴って、跳躍。くるりと視界が反転する。


 一体何が――は?


 目に映ったのは、いささか信じられない光景。


 轟音と共に砕け散る石畳。そこに拳を叩き込んだ姿勢で佇む――聖女アリーゼ。


 修道服なのは変わらないが、その両腕には無骨なガントレットが嵌っており、足には頑丈そうなグリーヴが見える。


 ――――まさかのグラップラー系!? 戦えるのかぁ……とは思ったけど、てっきり魔法系だと……。


 アリーゼさん……否、アリーゼは拳を引いて構えを取ると、よく切れるナイフのような目つきで少し離れた場所に着地したキャロルを睨みつけた。


 さらに、彼女の背後から神官騎士がぞろぞろと……いや、どこに隠れてたんだよ? ってレベルで出てくる。


 うーん、これは……ピンチなのでは?



「さて……ここまではうまく逃げることが出来たかもしれませんが、ワタシが来たからにはそうは行きませんよ? ここで確実に、仕留めさせていただきます。愚か者に、神の鉄槌を」


「「「「「愚か者に、神の鉄槌をッ!!」」」」」



 アリーゼの言葉に、神官騎士が一斉に武器を構える。


 鈍色に輝くメイスを寸分の狂いもなく同時にブンッ、と振るって見せる姿は、威圧感が半端じゃない。

 

 けれど、そんな神官騎士たちよりも……ガキンッ、とガントレットを鳴らすアリーゼ一人が……怖い。


 威圧感? 覇気? なんかそんな感じのモノを、ひしひしと感じるのだ。思わず、キャロルに抱き着く腕に力がこもる。


 それに……キャロルが。あの、どんな場面でも余裕綽々を崩さないキャロルが、一切のおふざけナシな表情で、アリーゼを見つめている。


 これは……どうやら、一筋縄ではいかない様子だぞ?


 

「さぁ、薄汚い賊よ。天使様を返しなさい。貴様の腕が立つのは分かりましたが……この人数を相手にするのは不可能です」


「お断りだヨ。お前こそ、化けの皮が剝がれてるみたいだけど? 聖女さまがそーんなこわぁい顔してていいのかにゃー?」


「……所詮は賊ですか。言葉が通じませんね。――――総員、戦闘開始! 何としてもあの小娘から天使様を取り返しなさい!!」


「「「「「ハッ!!!!!」」」」」



 アリーゼの号令で、神官騎士たちがぞろぞろとこちらに向かってくる。統率が取れた動きはまるで一つの生き物のよう。


 一人一人の気迫はそれほどではないが、集団になり統合されたソレはアリーゼが放つモノに負けるとも劣らずと言ったところか……あれ、ヤバいんじゃないか、これ?



「…………キャロル、どうする? 俺も、出来ることはするぞ?」


「――にゃははっ、だーいじょーぶ。アイちゃんは、何も心配しなくていいからネ」



 キャロルはそう言うと、向かってくる神官騎士たちをキッとにらみつけ――「ほやっ」――ふぇ?


 

「ふぁあああああああああああああああああああ!!?」



 あああああ!? 高い高い高い高い!? ぬぉおおおおおおおおおおおお!!?


 な、投げられた!? なんで!? なんでぇ!!? 


 ふわりっ、とお腹の底がひっくり返るような感覚がして、視界がぐんっと上に上がった。結構な勢いですっ飛んだ俺は、屋根よりも高い空中でジタバタと藻掻く。


 視線を下に向ければ、ポカンとした表情のアリーゼと神官騎士たちが俺を見上げており――元凶たるキャロルは、「てへっ☆」とでも言うように腹の立つポージングを取っていた。


 ――――アイツは、後で殴る。


 しかし、なんでこんなことを――と、俺が至極真っ当な疑問を思い浮かべていると――。



「よぉし!! やっちゃって――――シアンッ!!」


「人使いの荒いリーダーですね。まぁ、いいのです。――――【スパークウェイブ】!」



 バリバリバリバリバリバリ――――ッ!!!!



「「「「「がぁああああああああああああああああッ!!!!????」」」」」


「…………はい?」



 な、何が起こったんですか……?

 

 ちょっと待って、目の前で起きた光景に、頭がついていかない。


 何処からか、聞き覚えのない声が聞こえたと思ったら、神官騎士たちがいた場所に黄金の雷撃が叩き込まれた。


 威勢よくキャロルに向かっていた彼らは、一転して地獄絵図に。鎧を焦げ付かせ、地面を舐めながら苦しそうに呻いている。


 あ、あの集団を一撃で……? えっ、素直にスゴイ。というか、今のって雷魔法? うわーすげー、カッコイイ……。やっぱり、魔法って言ったら火か雷、みたいなところあるよねぇ。


 ――なんて、吞気なことを考えてる余裕はないんだけどね!!? ちょっ、滞空時間過ぎたから! 後はもう落ちるだけというか現在進行形で落ちているというかぁあああああああああああああああああああああああ!!?


 

「ほいっ」



 恐怖で目を瞑って出来た暗闇に、キャロルの声が響く。それと同時に、絶賛落下中だった俺の身体が、何か柔らかいモノに包まれる。


 恐る恐る目を開けると、そこには悪戯っぽい顔で笑う阿保キャロルが……。



「ちぇえいっ!」


「あいたっ! もう、アイちゃんいきなり何すんのサ!」


「…………それは、こっちの、セリフ、だぁ……!」



 思わずその額に手のひらを叩き付けてしまったが、別に俺悪くないよな? な? 


 「あてて……」とわざとらしく顔をしかめながら、俺を横抱きの形で受け止めたキャロルは屋根に着地。


 ……なんか、だんだんとこの体勢に疑問を抱かなくなっている自分がいる気がする……。


 


読んでくれてありがとうございます!


ブックマや評価もとっても励みになります。


もしよかったら下の☆マークに色を付けてやってください。へこへこしながら続きを書く作者が見れますよ? ……あっ、見たくない? ですよねー。


次回は……多分、決着かな? 話が伸びるなー。明日も更新頑張りますね!!

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