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霧中  作者: みちる
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堕落

夜は、時間の流れを全身に感じることができる。真っ白いテーブルの上に無造作に置かれたコンビニのレシートも、脱ぎっぱなしの下着も、片付ける動作ひとつひとつが感じる時間の流れに合わせて遅くなる。ゴミ箱の縁に当たって溢れたゴミも、ゆっくりと落ちていく。ひとつひとつの動作が終わるたびに口から小さな息が漏れる。たいした動きはしていないのに、山でも登ったかのような息切れがする。そんなことでさえも、私は生きていることを実感してしまう。

胃から低い唸り声のような音がして、今日1日何も食べていないことに気がつく。さっきのコンビニのレシートは、実家に住んでいる両親に荷物を送った控えだった。胃は欲望を訴え続けるのに対し、脳はそれを拒み続ける。そんな生活が、もう少しで1ヶ月を迎えようとしていた。私は今日も、ベッドに背中を縫われ続ける。

朝日が目に刺さる頃、私の意識はほんの1時間だけ暗い底で浮遊を始める。夢は見ない。ただ暗い、道のない、海底のような場所を漂う感覚が続いた後、一筋の光に吸い込まれるように地獄に引き戻される。一筋の光という言葉を希望を表す言葉として使われることが多いが、私にとって一筋の光とは、地獄への道標だった。


「おはようございます。朝のニュースのお時間です。」


付けっぱなしのテレビから、柔らかい表情のニュースキャスターがニコニコと挨拶をしてくる。この人の服はいつも清楚で整っていて、その立ち振る舞いからも清潔感を感じさせる。この立場に来るまでに、この人はどんな苦労を超えてきたのだろう。それは今の私では超えられない苦労なのだろうか。この人は今の私を見たら、意気地なしと笑うのだろうか。そんなことを考えてしまい、自然と左目から涙が溢れた。嗚咽はない。頭が追いつく前に、心が泣いているのを感じた。

重い腰を上げ、ベッド下の引き出しからバスタオルを取り出し、風呂場へ向かう。一歩一歩床を踏むたびに、胃から何かが迫り上がってくるような違和感を感じた。そのままトイレで一度吐いた。出てきたのはほぼ胃液で、固形物は一切なかった。

シャワー中は自分の好きな音楽をかける。できるだけ明るい、ポップなもの。歌う気力はまだあった。実家にいた時から、入浴中は音楽をかけることが日課になっていたが、それはこんな状態になった今でも継続していた。無意識に、これがなくなったら自分が保てないと思ったのかもしれない。

熱いシャワーを浴びると、どんどん意識が覚醒してくる。同時に不安感も押し寄せる。

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