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自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!  作者: 氷見野仁
第2章 『ドライアドの秘密』
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第43話 邂逅

 ドゴォッ! エリックの振るう大剣と、ドライアドの作る巨大な樹剣が交差する。


「ドライアド殿、話を聞いてくれぬか!」


『ふん、話なら戦いながらでもできるだろう!』


「戦いをする理由がないのです!」


『妾には、ある』


 ゴッ、ゴッ、と、およそ剣戟ではない音が陽の光が届く大きな広場に響き渡る。


 エリックの大剣はただ大きく重いだけではなく、砕かれた賢者の石が多分に使用されており、その硬度は折り紙付きだ。それにエリックの【金剛力(こんごうりき)】が合わされば、大抵の獣は一瞬で光の粒子になる。


 しかし、ドライアドはそんなことは意にも介さず、樹木を操り作り上げた剣で金属の大剣を弾く。フレイアとは、隔絶した差があるようだ。


『フン、なかなかやるな。「可能性」とやらは感じないがな。そもそも年を重ねすぎだ』


「なんの、話だ!」


『敬語が崩れてるぞ、そっちが素か? 話を聞いてもらいたいのなら、敬語は続けた方がいいのではないか?』


「よもや、聞こうとしない者に使う敬語は、無いッ」


 ガッ、と剣同士が噛み合い鍔競合いになる。


『フン、いいだろう。妾に1つでも傷をつけたら聞いてやる』


「約束、だぞ!」


 轟! エリックの振った大剣が側面からドライアドを襲う。しかし、ドライアドは冷静に自身の樹剣を地面に突き立て、エリックの大剣を防ぐ。


 ゴアッ!! ふたつの剣がぶつかる音が大樹海を震わせる。


「ふぅー、やはり、カテゴリー5ドライアド、一筋縄ではいかぬな……」


『そなたらが勝手に区分けしたカテゴリー5とやらと一緒にしないでもらおうか。そ奴らとも我らは一線を画す。言わば、カテゴリー6と言ったところか』


「それはまた、大きく出ましたな……ッ!」


『なに、事実なだけだ。今も別に本気を出していない。……そなたも出してなさそうだが』


「ええ、お互い様でしょう。ドライアドともあろう方が、そんな硬いだけの剣を出す芸だけだとは思っていない」


『そうか、では少し本気を出すとしよう』


ドライアドの周囲の地面から何本も木の根が伸び、そのまま鋭利な刺突となりエリックを襲う。


「ぬゥん!」


 エリックはそれを大剣を大振りで振ることで、粉々の木端へと変える。


『ほう! なかなかやるじゃないか!』


 ドライアドは感心していた。 ほとんどの人間は脆弱(ぜいじゃく)だ。祝福があったとしても普通ならカテゴリー3の獣以下の強さで一生を終える。


 しかし、目の前の人間はどうだ。並のカテゴリー5ならば相手にならないだろう。人種という矮小な枠の中でここまで自分を高めた者は今までいただろうか。主はこれよりも強かったが、彼らは例外だ。規格外といったところだろう。目の前の人間は規格内でありながら、自身に食らいついている。素晴らしい、とさえ思った。


(彼の進化はここで止まっているのだろう。なればこそ、この者は「可能性の糸」の一端ではない。しかし、その強さは一級品)


 ドゴ、と、剣と剣を切り結ぶ音が響く。もう何度剣同士を重ねたか、二人は覚えていない。しかし、両者の顔には、凶悪な笑顔が張り付いていた。この戦いを、待っていたかのように。


 ◆◆◆


 ピピ、ピピ、とフロウの腰に下げた端末から音が鳴る。


「......リストアのパーティーから救援要請です!」


「本当ですか!」


「ええ、今すぐ向かいましょう」


 4人は少しゆっくりだったペースを上げ、リストア達とフレイアが戦闘していた場所へと急行する。そこにはいくつかの血の跡のみが残され、誰もいなくなっていた。


「これは……戦闘跡ですね。しかしこれは……あの4人組との戦闘形跡ではない。ここにいたのは全部で4人……3対1? バカな」


「そこまでわかるの、すごい」


「これは戦闘技術ではなく、冒険者としての慣れですがね。足跡や血の跡で何人いたかはわかります」


「で、4人しかここでは戦ってない、そういうこと?」


「そうです。獣ではなく人だと思います。足跡が人間ですから。例外はドライアドですが……そちらはこの音から考えるにボスが戦ってます。では、彼らは何と戦って、連れ去られた……?」


「連れ去られた……んですか?」


「ええ、血の跡があるのに死体がない。それにリストアは回復のスペシャリストですから、この血の量でも死んでいない可能性の方が高い。おそらくどこかへ連れ去られた」


「じゃあ、死んでない?」


「その可能性が高いです。ひとまずは、安心していい。しかし、いったい誰が……」


 その時、正面の森から人の声が聞こえてくる。


「いつまで歩けばいいのー。なっがーい」


「と言われても、この地図そこまで正確じゃないんですよ。もうすぐ一番奥から3つ手前の目撃証言のあった地域ですよ」


「途中カテゴリー3何匹かしかいなかったからそろそろドライアドと会いたいなー」


「ホホホ、誰かいるようですよ」


 そうして、ひらけた広場で、8人は邂逅する。


「「あっ!!」」


「お前らあ!!」


 戦いは避けられない。


「ホホホ、ゼータ。因縁の相手か。運命じゃろうなぁ」


「あいつら2人はボクがやる! 邪魔すんなよ!」


「それは無理でしょ、ゼータの役目はドライアドをテイムすることー。ここは食い止めるからさっさと先に行ってよー」


「......クッソぉ! ドライアドテイムしたら絶対ボコボコにしてやる!」


 リィズがゼータを先へ行かせようと発破をかける。


「おや、行かせませんよ」


 それをフロウが止めようと一歩先に出る。


「おっと、それはできない相談じゃのぉ」


 更にシャオロンが前へ出て青龍偃月刀を構える。その横にはジェイド。チッ、とフロウが舌打ちをする。


(これは、なかなかに強い。やはり一筋縄ではいきませんか。ここであっしが向かうと他の三人は確実に死にますね)


 そんなことを考えているうちに、ゼータが不満そうな顔をしながら先ほどテイムした三又大角鹿ヒュージトライホーンディア(またが)り消えていく。長く考える時間はない。


「ラビ! 追いなさい! あなたが適任です!」


「わかった!」


 ラビはフロウの意図を理解し、【加速加力(パワフルアクセル)】を使用しその場から離脱する。


「むっ、速い!」


 想定していた速さを上回る速度のラビを、シャオロンもジェイドも捉えられない。リィズに至っては見ていない。ラビを捉えようと袖に隠していた暗器を投げるも、宙に浮く銀色の液体に邪魔される。


「ふむ、珍しい力を持っているようじゃの」


「ご老体にそう言われるとは、恐縮ですね」


「思ってもないことを」


「ええ、あなた方には殺人容疑、そして住居侵入容疑がかかっています。おとなしく捕まっていただけますか?」


 フロウの腰に下げた試験管から、銀色の液体が流れ出ている。


「それは、できぬ相談だ」


 スッ、と青龍偃月刀を構え直す。


「クロン、カエデ。あなた方はそれぞれ残りのふたりを。私はあのご老体を。おそらく、本気で行かないと勝てない」


「わかりました」


「わかった」


 クロンとカエデはそれぞれ自分の相手を見定める。


「えー戦うの? めんどくさい……」


「まだ少年少女ではないですか。胸が痛みますね……が、任務のためには仕方ない」


 4人は、フロウと、そしてシャオロンの邪魔にならないよう別のひらけた場所を探し、飛ぶ。ジェイドを追うのはクロン、そしてリィズを追うのはカエデだ。それぞれはそれぞれのフィールドへ移動する。この場には、フロウとシャオロンが残された。


「ふむ、お手並み拝見といこうかの。名前は?」


「フロウ・ミタール。あなたの名も、聞いておこう」


(ワン)小龍(シャオロン)。人は儂のことをシャオ爺と呼ぶよ」


「そうですか。では、参る」


「こい、若造!」


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