第42話 戦局の行方
リストアが突きのように構えた長剣は、フレイアが受けようとしたところから消え去る。
「なに!?」
フレイアはまさかそれほどに速度があがるとは思っておらず、辛くもギリギリ避ける。
ピッ、と、頬に一本の線が走り、つーと、血が流れる。そして、避けたことで隙ができ、その隙をとらえたクイックが、トンファーを振りかぶり殴りつける。
それはフレイアの操る木の幹に防がれてしまうも、【速力調整】の乗った一撃は威力もあがり、木を抉り取ってゆく。フレイアは防戦一方だ。
「なるほど、なかなか強いな」
「関心してるとこ悪いけど、全然終わってないぜ!」
リストアは飛び上がり体を回転させ、さらに威力を上乗せした長剣を上から振り下ろす。
「ぐぅッ!」
フレイアは上から振り下ろされる長剣を自身の刀で受ける。しかし、さすがに重すぎたのか乾いた地面が衝撃でひび割れ、膝をつく。そこをクイックが突く。
「ッ! 舐めるなァッ!」
フレイアは再度背後から生やした樹木を動かし大きな拳なようなものを作り上げ、それを振るうことでリストアとクイックをはねのける。そのまま樹木の腕を2本、自身の周囲に配置した。
「あれは厳しいな。敵が単純に増えたのと一緒だ。クイック、どう思う」
「少し、難しいぜ。でもやらないと」
「……そうだな。一応副社長に救援要請を出しておく。死ななければ助けてもらえる」
「捨て身か?」
「まさか! 勝つために戦うんだよ!」
リストアはフレイアに気づかれぬよう笛を吹いた後、動く。ふたりは長剣とトンファーでフレイアへ攻撃を加え続ける。それをフレイアは、自身の刀を挟みつつ、同時に後方の樹腕でいなす。
もちろん樹木で作った腕はもろく、長剣やトンファーでえぐられ、切られるが、木の異常な再生力で破壊したそばから修復され、そのまま膠着状態へと陥る。
「ふぅ、ふぅ、貴様ら、なかなかやるじゃないか……」
「お褒めの言葉どうも」
「どうだ、このまま続けてもお互い消耗するだけだ。そこに転がっている女を連れてこの森から出て行くならば、見逃してやらんこともない」
「大変慈しみ深い提案どうも。でも、こっちもここでやらないといけないことがあってね。帰りたくても帰れねえんだ」
「帰れないぜ」
「……そうか、残念だ」
フレイアの後ろに作られた、地面から生えた巨大な樹腕は、さらに広範囲をガードできるよう拳を開き、周囲を警戒する。
「クイック、あれでいくぞ! できるな!」
「応!」
二人はまた、フレイアへと肉薄する。武器を振るう。
フレイアは怪訝な顔をしながらも、展開している木手で二人を捉えようと動かすも、【速力調整】のかかった二人は想定以上の速度で動き回る。
「チィッ! ちょこまかと!」
先ほどまでならばふたりで突っ込んできてそのまま長剣とトンファーで斬る、殴る等の一辺倒だったが、ここにきてフェイントを入れ始めた。なぜ今だ、最初からすればいいだろう、とフレイヤは思うが、答えは出ない。
次第にまったく捕まらない二人に対しイライラを募らせ、樹腕も刀も大振りになってゆく。
(やはりな、かなりせっかちな性格なのが災いしている、これならいけるだろう)
リストアはクイックに目配せすると二人で突っ込んでいった。リストアは長剣を斜め上から、クイックはトンファーを木腕へねじこむ。フレイアはそれに対抗しようと刀でリストアを受け、クイックを木腕を二本使い受け、いなそうとする。
「クイック、やれ!」
すると、クイックはトンファーを振り抜くのを止め、手をフレイアへと向ける。向けると同時に、クイックが周りに纏ったオーラが消える。クイックの祝福には1つ弱点がある。
それは、同時に2回分しか自身の力を使えないことだ。つまり、今までクイックがフレイアの速度を落とすことができなかったのはその制約があったからだ。しかし今、事前にかけていた、リストアの能力でもらったクイックが切れた。制約は、ない。
「貴様ッ!」
「【速力調整】!」
【速力調整】が、クイックから繰り出され、フレイアへと吸い込まれるようにしてかかる。強度は弱。景色がスローになる。
(やられた!)
フレイアは負けを感じ取る。クイックのかかったままの人間と、スローな自分、樹腕は【速力調整】の効果範囲外だがクイックへと向けていて、フォローには間に合わない。
そのままクイックは樹腕の下に沈み込み拘束されてしまうが、リストアは必ず治すと誓い、動きがスローになったフレイアの腹部へと、長剣を横薙ぎに振るい、斬り込む。
そして、その攻撃を受けフレイアが吹き飛ぶ。そのまま背後にあった木の幹へと吸い込まれ、ドゴ! という音を響かせながら止まり、崩れ落ちた。
「や、やった!」
リストアは全身に疲労感を感じながらも、とどめを刺そうとフレイアへと一歩一歩近づいていく。長剣を振り抜き、ついた血を落とす。その時リストアは自身の剣を見て、疑問を浮かべる。
(あれだけ切り込んだのに、血がほとんどついていない……?)
腹部を長剣で思い切り叩いたのだ。剣の腹ではない、刃でだ。白いワンピースだけならば肉体が上下に分かれてもおかしくない。リストアは嫌な予感がし、フレイアの吹き飛んだ方向を見やる。
「フゥッ、フゥッ、き、貴様ァッ!」
フレイアは、生きていた。白いワンピースの腹部が木のように硬化しており、パックリ割れてそこから血は流れているものの、傷は浅い。内臓にも届いていない。
「く、クソがぁっ!」
リストアは叫ぶ。完全に捉えたと思っていた。まさか、白いワンピースが木のように変化するとは思わなかったのだ。
「はぁー、はぁー、まさか、ここまで追い詰められるとは思わなかった。母さまの元で修行をして強くなったと思っていたが、まだ甘かったわけだ。……はぁー。母さまにもらったこのワンピースもボロボロだし、どう弁明すればいいか…..」
「母、さま?」
リストアはその一言に引っかかる。獣は往々にして唐突に湧き、唐突に倒され消える。家族、というものは群れとしての単位で判断される。しかもカテゴリー4よりも上は、群れない。
つまり、親に当たる獣は存在しないはずなのだ。せいぜい同族程度の認識であるはず。にも関わらず、フレイアは、母親という単語を使った。親がいる。これは、報告せねばならない大事だとリストアは判断する。
「その、母さま、とは、一体誰なんだ……」
「誰とは、今更なのか。こうやって木を操っているんだからわかるだろ」
リストアは最悪の想像をし、それを確認するため絞り出すように、紡いだ。
「——まさか、ドライアド……!」
ニィ、とフレイアが笑みを浮かべる。
「フフッ、正解だ。母さまは人気者らしいからな、人間に命を狙われる。だから森の中を動き回り、人間を追い返していたのだ。今まではちょっと脅せば簡単だったのに、ここまで食い下がられるとは思わなかったぞ。無駄な戦いだった」
「クッソ……!」
ドライアドに娘だと!? なんの冗談だ、そうリストアは心で悪態をつくが、この状態を打開する方法がない。今自分の後ろには戦闘不能の仲間がふたり。彼らを置いて逃げることはできない。リストアの矜持に反する。
「では、森を荒らした罰として、少しだけ痛みを感じてもらう。なに、殺しはしない。個人的にもあまり好きではないからな」
リストアは、近づいてくるフレイアから後ずさりをして逃れようとする。しかし、森の中は動きづらく、すぐに地面を這う根に足を取られ後ろ手をつきながら倒れてしまう。
「そういえばさっきあの女に使ってた力は、自分にも使えるのか? ならば、少し死にかけても問題ないな?」
フレイアは、躓いたリストアを振りかぶった刀で斬りふせる。袈裟斬りにされた体は、肩から左右に別れないまでも深く、肺にまで達している。今まで感じたことのない痛みをリストアは感じながら。
(リペ……ア……)
自身の能力を自分に使いながら、意識を手放した。




