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自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!  作者: 氷見野仁
第2章 『ドライアドの秘密』
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第38話 4人はすれ違う

「ここは……なに、英雄の街……?」


 ゲート【X】から中心街へと歩いて向かっていた4人は、道半ばにあった外区の街へと立ち寄る。


「へぇ……? 英雄ってなんだろ」


「あっ、ねぇねぇ、ここに石碑あるよ!」


 リィズが日本語で書かれていた石碑の文面を読む。


「30年前、平原にてカテゴリー5【獅子帝王狼(エンペラーレオウルフ)】を討伐した英雄を讃える……? カテゴリー5?」


「多分獣の強さじゃろ、おそらくカテゴリー5が一番強いとみた。それを倒したというのが英雄視されておるのでは?」


「そういえばこの前遠征した時テイムしてリンク繋いだ獣が獅子王狼(キングレオウルフ)って名前だったよ!」


「となると、その獣の進化後になりますかね。その獅子帝王狼ほどの獣をテイムして連れ帰るか、この都市が我々の世界に牙を剥くのならばどうにかして障害を削るくらいの使い方はできそうですか」


「本を所蔵している場所を探すのは当然として、この周辺にいる強い獣の所在情報を得るのが第一目的になりそうじゃの。行動は夜。今は一旦休憩しようじゃないか」


 シャオロンはポケットから財布を取り出す。先ほど殺した職員から拝借したものであった。


「お札? にしてもこの肖像誰だろ? 見たことない。そもそもここ本当に日本なのー?」


「ふん、100年ほど前にこちらに巨岩を送っている。あれのせいでなんらかの影響が起きているのは事実。気にしてもしょうがないじゃろ」


「そうですね。とりあえずゲートのように職員が警備している場合、夜間に侵入するしかない。今夜遅くにあの都市部まで出ようとなると、今寝るしかない。宿を取ります」


 そう言うと、英雄の街で宿を探し、チェックインする。4人は夜の7時にロビーで待ち合わせするとそれぞれの部屋に引っ込んでいった。


 ◆◆◆


 夜7時、4人はしっかりと休息を取ったあと集合する。


「さて、それでは行きましょうか。どうやら電車が中心街まで通っているらしいです。行きましょう」


「電車かぁー、あんまり乗りたくないなぁ。注目されるのは好きだけど人混みは苦手ぇ」


「文句言っても任務は覆らん。少なくともこの都市のことはしっかり知って帰らねばなるまいて」


「準備できたよー、行こっかー」


 英雄の街を出て、4人は電車に乗り込み中心街へと赴く。


 電車に揺られながら4人は外を眺め、田舎の田園風景、居住地区、そしてビル群が立ち並ぶ商業・教育研究区への移り変わりを見ながらこの都市の異質さを垣間見た。しかし、都市のことを詳しく知らないため、今は頭の片隅へと追いやっておく。


 そのまま研究区画で降り、近くにいた人に図書館の場所を聞いた。


「今聞いた話だと、図書館はこの駅から2駅ほど先にあるそうです」


「ふむ、ではまた歩くというのでどうかね。現在夜8時、こちらもあちらも変わらなければ、図書館が閉まるのは夜7時ごろ。職員が全員帰宅するのは9時ごろじゃろうて」


「「えーまた歩くのー?」」


「しょうがないじゃろ、ある意味で潜入捜査、おそらくこちらの世界でも犯罪。すでに2人殺しておるから変わらないが」


 シャオロンは一足先に駅から出る、それをジェイドやリィズ、ゼータが追う。


「……でも、殺す必要はなかったんじゃないの?」


「ああするしかなかったとシャオ爺が言っているのですから必要だったのでしょう」


「そうじゃよ。あまり自分の力を過信するのはよすんじゃ。あそこで黙らせておかねば誰が侵入したかバレていた。この都市は少し原始的な面も見える。歪じゃ。しかし、どこに目があるかわからない。殺しておけば、我らがあちらに戻るまでは誰がやったかバレないじゃろうて」


「バレた頃にはすでに当事者は消えている、なるほど考えましたね」


 実は監視カメラがありすでにバレていることは、4人にはわかりようがなかった。だからこそこの都市が歪ということになるのだが、4人は気づかない。


 2駅ほどとなりまで歩き、教育研究区へと足を踏み入れる。明かりはなく、人の気配もない。


「ふむ、この大通りを歩いていけば図書館という話でしたが……」


「ねーあれじゃなーい? 結構おっきーよ」


「確かに、あれのようじゃな」


 4人の前に中央図書館が現れる。バレぬよう裏口に周り、空き巣のように窓ガラスを開け、鍵を開ける。


「電子でも量子鍵でもない……ふーむ。このような都市を作り上げているわりにはこういう部分は原始的じゃの。都市にいる人間全員なんらかの暗示か洗脳でも受けているんじゃないか?」


「ははは、まさか。詛呪保持者やそれに準ずる能力者がいたとて、そこまで広範囲に効果を及ぼせるものがあるとは見たことも聞いたこともありません」


「……そうじゃの」


 シャオロンはジェイドの返答に同意し、そのまま図書館内へと足を踏み入れる。最初に目指したのは表の入り口にほど近いホール。基本的に図書館はここで都市の情報等が手に入るのだ。館内の見取り図も置かれていることが多く、闇雲に探すよりかはその方がいいだろうと4人とも立ち寄る。二人はこの都市の地図を発見し、眺める。


「ほほう、ほぼ半月状の都市のようじゃな、海側は削れたようになっており、海に面していない側はゲートとそれを囲う防壁のような感じじゃ。それが台地の上に立っている……。こんな地形地球上にあったか?」


「詳しく調べてみないとわかりませんが、なかったはずです」


 そこにリィズが入ってくる。


「そもそも日本だとしたらだけど、そんな海岸線ないよ。だから日本じゃないことは確かだと思うー。でもー逆に日本じゃないなら日本語が書かれてたり、日本っぽかったり、変」


「確かにここにくるまですれ違った方々も日本人かと言われればそのような人は少なかったような」


「あまりいなかったね」


 ゼータは3人の話に入りつつ、そのまま続ける。


「3階に冒険者が見るような資料がいっぱいあるらしいよー。でももし日本語で書かれてるならリィズ以外は役立たずだねー」


「リィズ、頼みましたよ」


「まかせてー!」


 4人は3階へと階段で上がっていく。コツ、コツ、と誰もいない夜の図書館に足音が響く。そのまま何事もなく3階まで上がり、外界情報室へと足を踏み入れる。


「外界、情報室?」


「そう書いてあるのですか?」


「う、うん」


「なるほどの、このオリエストラという都市の外はまとめて外界、というわけか。このオリエストラ以外に人間がいないというのは本当らしいの」


 この3階にくるまで多少の下調べはしており、オリエストラの現状はそれぞれがしっかり共有していた。


「服の質がこちらの冒険者と似通っていて助かりましたね。街を歩いていても違和感を持たれない」


 本当に助かりました、と付け加え外界情報室へと入る。


「これは……本当に本が多いですね」


「うは〜、どれから読めばいいかわからない〜。日本語っぽいけど、結局外界ってなんなのぉ?」


「地図によると、我らが来たのが英雄平原、そのとなりがドライアド大樹海、沿岸部は沿岸部っぽいの。その奥はだいたい山じゃ」


「はぁ〜……とりあえず3人は映像作品でも探してなんかみといて! あたしは本探すからっ!」


 そういうと、リィズはツインテールを(なび)かせながらタタタタ、と奥の方へ走っていってしまった。


 取り残された3人は適当に絵や写真が多い作品を探すことにした。


 そうして時間を潰すこと数時間、図書館の奥の方からリィズの声が聞こえてきた。


「あったーーーー!」


 リィズの声が響き渡る。3人は今見ている映像作品を止め、リィズの元へと向かった。



「なにがあったのじゃ?」


「ドライアドの出現位置とその予想区域!」


 3人は、は? と思ってしまう。そこに至るまでのリィズの奮闘を知らないのでしょうがないのだが、説明を求めるのは仕方のないことだろう。


「リィズさん、自己完結しないで1から説明してください」


「わかったー、まずね。都市の歴史から調べたの。したら、太陽暦でもマヤ暦でもユダヤ暦でもなくて五神暦っていうのが採用されてるみたい!」


「「「「五神暦?」」」


「うん、それでね、序盤の歴史は省略するけど、5人の神様がいて、この世界を作って、宇宙に浮かべたんだって。獣を作ったのもこの神ってことになってるみたい。獣の神ってのがいて、そいつが作ったって。あとは時の神とか重力の神とか、世界を作るのに必要な神さまが合わせて5人」


「なんだそれは……ここは地球ではない?」


「んでね、獣の湧かない場所、この場所ね、を見つけたり、王政があったり、それを倒したりするんだけど。それまでは獣から石が出てない。石が出るようになったのは100年前で、そこから総合冒険商社ってのが増えて今に至るみたい」


「100年前、ですか。組織に石がほとんど転送されてこなくなった時期と一致しますね」


「ふーん、変なの」


「んで、本題はここから。英雄が倒した獅子帝王狼みたいに強いのいないかなって調べてたら、今観測されている上で生きてるカテゴリー5ってのが4体いるんだって! カテゴリー5は一番強い区分けみたい。たくさん人がいても勝てないのは全部カテゴリー5って書いてある。ここの都市の人も詛呪(カース)みたいな力使えるらしいよー。それがいっぱいいても勝てない」


「なるほどなるほど、だったらあの弱そうなふたりが獅子王狼に勝てたのはそれにありそうだね……。くっそーあいつら、どこにいるんだ……! 次の獣テイムしたら絶対見つけ出してやる」


「で、4体のうちゼータがテイムできそうなのが1体いて、それがドライアドなの! でもでもドライアド大樹海っていう広い樹海を根城にしてて、どこにいるのかわからないからこの図が欲しかったのー。でも時間はあるし探してみる価値はあると思わないー?」


「確かにそうですね。正直今回の調査任務は完了していると思っていいはず。次は攻め入るのか、それとも再度石を回収するための遠征になるかはわかりませんが、この都市はキーになります」


「そうじゃな。もう夜が明けるからバレる前に退散するとしよう」


「しよー!」


 ゼータがシャオロンに呼応し、4人は退散する。時刻は朝6時半を回ったころ、外に出たところでリィズの腹が鳴る。


「…….しょうがないでしょー。夜通し調べ物してたんだから、お腹くらいすくってー」


「では、どこかで食事にするとしよう。しかし、まだ時間が早い。もう少し周囲を見て回り観察してからだ」


「はぁ。そうなると思ったー。誰もいないなら注目もしてもらえないしぃ、うろうろ歩く意味ないのにぃ。あたしの価値はそんなに安くない」


「文句を言うでない。組織にいる以上必要なことじゃ。そもそも食事をした後、樹海と呼ばれる場所に行くのだから関係ないじゃろうて」


「うーん、そうなんだけどぉ、気持ちの問題、みたいな?」


「しょうがないよーリィズーここはシャオ爺の言うこと聞いておこうよ」


「はぁーあ、わかったー」


 そうして周囲を見て回ったあと朝7時半、教育研究区にあるカフェが開き始めるころ、4人は大通りへと戻ってきていた。


「おー、結構賑わってるねー」


「そうですね。人自体はかなりの数住んでいるようです」


「ますます歪じゃの。外に人間がいないことを疑問に思わないのじゃろうか?」


「それより、ご飯! お腹すいた!」


 リィズがだだをこねるので、4人は近くにあったカフェへと階段を上がり入ってゆく。1階にはきれいなりんごが軒先に置かれた八百屋が入っていた。


 そしてその後カフェの中で食事を楽しみ小休止していた4人は、さすがにそろそろ店から出るかと支払いをしている時、声を聞く。


「ちょ…….で引っ……のさ!」


 何か下から声が聞こえるな、とちょっと聞き耳を立てるが、特に気にも留めない。そのまま支払いを済ませ、4人で下まで降り、駅へと向かってゆく。その背後をクロンたちが歩いているとは知らず。



 異世界から来た4人と、オリエストラの4人はすれ違う。そして、お互いそれに気づかない。

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