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自己再生なんて、ぜんぜんギフトじゃない!  作者: 氷見野仁
第1章 『交わる世界』
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第22話 父と娘

 ウィン、と自動ドアが開き3人が会社へと入る。本格的に暑くなる季節ではないため夕方の気温はまだ少し肌寒く、暖房の効いた社内の気温が肌にしみる。


「おや、お帰りなさい。前回みたいに変なことに巻き込まれなくて幸いです」


「無事巻き込まれたわよ。戦闘にはならなかったけど」


「幽霊、出た」


「おやおや、それは運がいいやら悪いやら。出るとは聞いてますが滅多に出会わないと聞いてますがね。しかし、クロンがうちに来てから変なことに巻き込まれがちですねえ。もしかして他にもなにか変なことに巻き込まれてたりしませんよね?」


 フロウが目を細くしてラビを見る。ラビは挙動不審になりながらそれを否定するも、どうやら効果がないようだ。


「......まさか他にも巻き込まれてるんですか?」


「巻き込まれてるけど、そっちももう解決するから! 解決するから大丈夫!」


「そういえばこんな噂が耳に入ってきてるんですよ。呪い持ちと女の子がマグナ・アルボスに喧嘩を売ったとか、新人戦で決着をつけるとか。まさか、違いますよね?」


「……私たちです」


 そう白状すると、フロウはわかりやすく額に手を当てため息をつく。


「はぁ、外に出るようになったはいいものの、なんでそう問題を起こすんですか。あっしらの会社は個人の力は強くても団体としては吹けば飛ぶほど小さいんですから、もう少し気をつけて行動してください」


 「すみません......」


 ラビは、耳が痛いのかフロウのねちっこい説教に萎縮してしまう。すると、フロウはなにかを察したのか、カエデを見て唸った。


「......なるほど、だからカエデで3人目というわけですか。忠告しときますがマグナ・アルボス大手商社の一角です。所属冒険者も強ければ入る新人もエリートが多い。素行は良くないですが実力はピカイチです。そもそも新人戦とは名ばかりで16歳から冒険者をしているならキャリア4年目まで参加できます。勝てるんですか?」


 新人戦は甘くない。ただでさえラビ達の中に新人も新人がふたりもいるのだ。フロウは心配にもなる。


「......だいたいなぜそうなったんですか? まさか、何か変な条件出されてませんよね?」


 察しが良すぎるフロウは3人が、正確にはクロンとラビのふたりだが、なにか隠していることを看破してしまう。ここまでバレては仕方がないとラビは白状した。


「えっとぉ、私たちが負けたらぁ、エリックと私がマグナ・アルボスに移籍? 会社は解散? みたいな?」


「ラビ嬢!!」


「ごめんなさぁい! 売り言葉に買い言葉でぇ!」


 フロウは当然怒る。自分たちの知らないところで完全にイかれた賭けが進行しているのだ。冒険者は血の気が多く、このような条件つきの決闘は認められている。そして、子の責任は親にあるという都市の慣習から、マグナ・アルボスの要求が通ってしまう可能性さえあった。


「フロウさん、これには僕にも原因が。それになんとしてでも勝ちますから、大丈夫です」


 フロウは3人の真剣な眼差しを受け、それ以上の追求を止める。アルカヌム・デアの所属冒険者は一人残らずラビに甘いのだ。


「はー。わかりました。新人戦の受付は明日までですね。ライセンス発行は今日はもうできませんので急いても仕方ありません、結果の確認だけします。して、石は?」


「はい、コレ」


 カエデが手に持った石をフロウに渡し、フロウはそれを見定める。


「ふむ、この大きさだと…カテゴリー2中位ですか。ドライアド大樹海の入り口付近となると、十字大角鹿(クロスホーンディア)あたり、ですかね? 当たりかな?」


「当たり。おじさんすごい」


「おじっ……! まだ自分では若いつもりなんですがね」


「ちょっカエデ! この人副社長!」


「へ? そんな偉い人が受付をしているとは、これはこれは失礼しました」


「受付をしてる理由は聞かないでもらえると助かるわ……」


 一連の流れでラビがばつの悪そうな顔をしていると、フロウは軽く咳払いをして話と続ける。


「しかし3人で倒したのではテストの意味がない。さすがにそこまで甘く採点できませんよ」


「大丈夫よ、カエデひとりで倒したわ」


「倒した。すごいでしょ」


「新人がひとりでカテゴリー2中位を? ......それはなかなかどうして。ではこちらの書類をお渡ししますので明日朝持ってきてください。ラビ、エリックが英雄平原の調査を終えて明日戻るとのことです。新人戦の話は彼にお伝えしておきます。いいですね?」


「は、はぁーい……」


「それと、カエデ。クロンの部屋のとなりを開けておきました。好きに使ってください」


「ん、くーちゃんの部屋に住むからいいのに」


「良くない! ちゃんと自分の部屋に住んで。うちで変なこと起こさないでよね」


「えー」


「えーじゃない!」


「あのー、僕の意見は聞いてもらえないのかな?」


 そうして3人とフロウと解散し、各々の部屋へ戻り今日も夜が更ける。


 ◆◆◆


 翌朝3人はロビーに集まりフロウに書類を提出すると、数日前にクロンがやったように協議会事務局へ向かった。協議会事務局の入る建物にカエデが驚いたりとクロンと同じような反応をしながら何事もなくライセンスを受けとりその帰り道、ラビはふと気になりカエデへ尋ねる。


「そういえば、カエデってランクいくつだった? 前から外界へ行ってたならそこそこ高そうだけど。ちなみに正確な順位をだと私は14050、クロンは……」


「僕は30349位。下の方だけど、これからどんどん上げてくからそんな言い淀まなくてもいいじゃないか」


「そうね、ごめんなさい。それで、何位だった?」


「5245位。ぶい」


「えっ」


「うっそぉ!? なんでそんな高いの?」


「うーん、強いから?」


「そ、そう……」


「納得いかないよ…」


 クロンもラビもそれ以上なにも言えなかった。

 

 3人はそのまま会社まで戻ってくる。ラビを先頭にエントランスの自動ドアを抜けると、ロビーの中心でエリックが腕を組んで仁王立ちしていた。ラビはその場でピシィと固まってしまう。


「ラーーーーーーービーーーーーーー!」


「ヒェ、ご、ごめんなさい〜〜〜! だってぇ!」


「だってじゃないッ!! なんでこんな大事なことをギリギリまで黙ってたんだ!」


「うっ、言いづらくて……」


「昨日の夜フロウから連絡をもらってから、いろいろとコネを使って裏を取った。ずいぶん長くタチの悪いスカウトに悩まされていたようだな。よもや俺ではなく娘を標的にしようとは、許せん。しかしもっと許せんのは、そんなことにも気づけなかった自分自身だ。ラビ、なぜ俺を頼ってくれなかった! そんなに自分の父親が頼りないか? なぜ言ってくれんのだ」


「だって、パパに迷惑かけたくなかったから……」


「次からなにかあったらちゃんと言ってくれ。親を頼ってくれないか、ラビ」


「ごめんなさい……」


「わかればいいんだ、今回はこうなってしまったが、ならばあとは新人戦で相手に目にものを見せてやればいいだけだ。そこでだ、今回新人戦までの残り4日間、俺とフロウでお前らに修行をつけてやることにした。短い期間だがみっちり鍛えてやるから覚悟するんだな」


「「「えーーーーーーーー!?」」」


 ◆◆◆


 その後3人は新人戦の参加申し込みを済ませた後、3人、それと1匹は会社の地下にある修練場へと足を運んでいた。クロンがメーネを連れてきたのは、留守番をさせるごとに本人? 本スライム? の機嫌がみるみる悪くなっていったからである。なのでメーネに確認をとったところ、自分の身は自分で守れるとのことなので、都市内限定で連れ歩くことにしたのだ。修練場の椅子にメーネを置き、見てるように言うとそのまま中央に陣取っているエリックとフロウの方へと向かう。


 エリックは同じような戦闘スタイルのクロンとラビを、フロウもまた同じような戦闘スタイルであるらしいカエデを見てくれるとのことなので、別れて教わることになる。カエデに至っては未だに自身の祝福(ギフト)を新人戦まで秘密にしたかったなどと言っているが、そんなものこの際誰も考慮してくれないのは火を見るより明らかであった。


 そうして新人戦までの日々は過ぎてゆく。

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