食堂を手伝ってみよう
昨日はセレネの奴に付き合わされて、2日連続で森に連れて行かれてしまった。
途中で、初心者パーティーが仲間にヒールをかけているところに出くわしてしまって、危うく召されそうになってしまった。
魔法の練習にはなったけど、当分森には行きたくない。
今日はマウニおばさんに頼まれて、下の食堂を手伝う事になっている。
お昼から団体の予約が入ってるらしく、出来ることだけでいいからと頼まれたのだ。
ハンカチ越しに物を掴むことにも大分慣れてきたので、手伝えることはあるだろうからね。
「よ〜し、ルーもがんばるよ〜!」
で、隣でルナが気合いを入れている。
私がマウニおばさんに頼まれるのを聞いていたルナは「ルーもおばちゃんのおてつだいする」と直訴したからだ。
ちょっと気合いが入り過ぎてて心配だけどね。
「マウニおばさん、フロアーの掃除は私とルナがやるから、バケツだけ用意してくれる?」
「おいおいマヒちゃん、おめえ物が掴めねえのに掃除なんて出来んのかい?」
マウニおばさんは何故か男性みたいな言葉使いで話す。一人称もオレって言うし、今はもう慣れたけど初めて聞いた時には驚いた。
「こういう客席みたいに、物が少ないところならね。ルナはこないだ作ったお手製モップを持ってきてくれる?」
「わかった、ルー、もってくるね」
お手製モップとは、私が指示しながらルナに作ってもらった物で、いくつかのモップの棒を外して、それを紐で結んで纏めた物だ。
ルナは自分が作ったお手製モップの出番とあって、喜んで取りに行った。
「もってきたよ、ルーの作ったモップ、もってきた〜」
「じゃあおばさん、二つのバケツに水を入れてフロアーに置いてくれる」
「おうよ」
水の入ったバケツ二つとお手製モップ三つがフロアーに置かれた。
「これで準備はOKかな、あ、リュンヌもちょっと手伝ってくれる?」
「了解だっぺよ」
リュンヌの言葉使いも相変わらず変だ。変わった母娘である。
「じゃあね、ルナはお手製モップを水に浸けてから、そのままバシャっと床に置いちゃって。
お手製モップが動き出したら、たまにモップの前に水をかけるんだよ」
「わかった。ルーは水をかけるかかりだね」
「そうそう、水は少しづつかけてね」
「リュンヌは水を絞ったモップを床に置いて。それで汚れてきたら濯いでの繰り返しでお願い」
「了解だっぺよ、よくわからんけんどやればわかんだべ?」
「うん、やればわかるよ。じゃあ始めるね」
私は複数の風魔法を同時に使って、机と椅子を宙に浮かせる。そして天井近くまで上昇させてそれをキープする。
続いて3つの風魔法を発動すると3つのお手製モップが回転を始める。
一つ目のびちゃびちゃのモップが汚れを落とす。ルナがそれについて歩いて水を足していく。
「ルナ、ちょっと水が多いよ、もう少しゆっくりかけて」
「わかった〜」
二つ目のモップは水拭き用だ。
「マヒナはん、絞るから回転止めて」
「了解!」
それらの後ろから三つ目のモップで乾拭きしていく。床がみるみる内に綺麗になっていく。
「おお〜、器用なもんだな〜、マヒちゃん」
「ごめん、おばさん、集中してるから話しかけないで」
集中が切れたら机と椅子が落ちてしまう。なんとか集中を保って、10分後には床が見違える程に綺麗になった。机と椅子を着陸させて、無事にフロアーの掃除が終了した。
「いや〜、凄いもんだな、マヒちゃん。あっという間に綺麗になったぜ」
「水魔法も同時に使えたら、一人で出来るんだけどね。まだ、そこまでは難しいのよ」
「いやいや、大したもんだ、オレこんなの初めて見たわ、またお願いしていいかい?」
「いつでも言ってよ、手伝うから」
「マウニおばちゃん、ルーは?」
モップを片付けながら、ルナがおばさんの目を見る。褒めてもらえると思って、その目はキラキラしている。
「おう、ルナちゃんも大したもんだ。そんだけお手伝い出来ればもう立派なお姉ちゃんだな」
「えへへへ〜」
ルナがニコニコしてる。嬉しくってしょうがないって顔だな。
「それじゃ、マヒちゃんとルナちゃんはちょっと休憩しててくれ、オレとリュンネは料理の準備するからよ」
今の私とルナでは、料理に関しては大した手伝いは出来ない。ちょっと疲れたし、お言葉に甘えて休憩することにした。
休憩を始めて直ぐにルナは寝てしまった。張り切り過ぎちゃったかな。
休憩の間の約1時間、ルナは一度も起きて来なかった。そろそろ休憩時間は終わりの筈だ。
「マヒルナ〜、そろそろお客さん来るから、降りてこ〜い」
「名前を繋げないでよ、おばさ〜ん」
2階から大声でツッコンでしまった。
マヒルナって、なんか昼間っからダラっとしてそうな響きがあるな。
「ルナ、ルナ」
「うう〜ん、マヒナお姉ちゃんどうしたの?」
う〜ん、ちょっと寝ぼけてるな。
「どうするルナ、まだ寝てる?」
「う、う〜ん、・・・うん、そうだ! おてつだいだ! ダメ! おきる!」
ルナがカッと目を見開いた。まだまだやる気充分みたいだね。
覚醒したルナと一緒に食堂に降りると、すっかり開店準備は整っていた。あと5分で開店である。
「奥のテーブルを繋げてあるとこが予約席だ。まあ予約は1時からだからそれまでは普通に営業するだけだがな」
「フロアーは二人に任すから、上手いことやれよ」
「任しといてよ、マウニおばさん」
「ルーもがんばるもん」
そして開店時間の12時になった。
「「いらっしゃいませ〜」」
そこからは姉妹の素晴らし連携プレーが続いた。
お客さんが来ると、私が注文を聞きに行き、ルナはメモ帳を持ってついてくる。
ルナがテーブルの上に置いたメモ帳に、私がお客さんの注文を霊体感応素材のペンで書くと、ルナがそのメモを厨房に持っていって渡す。
料理が出来上がれば、私が霊体感応素材のハンカチを使って、テーブルまで運ぶ。私の身体はなんでもすり抜けるので、料理さえぶつけなければどこでも通れるし、空を飛んでるので、自由自在に動けるのだ。
お客さんの食事が終われば、ルナが空いた食器を下げに行く。ルナも小さいので、割とどこでも通れる。
下げられた食器は、隙を見つけて私が風魔法と水魔法を駆使して洗う。時間があれば火魔法で乾燥まで終わらせてしまう。
お会計はルナが受け取り、私が計算して、ルナがお釣りを渡す。
一連の作業が流れるように進み、またそれを繰り返す。
姉妹ながら、絶妙な連携プレーだった。
「ふう、一息ついたな。やるじゃねえかマヒルナ、大したしたもんだ」
「だから、名前を、くっつけないでよ」
「後は予約のお客さんだけだな、ルナちゃんは疲れたんじゃねえか?」
「つかれてない、ルーはまだおてつだいする」
「そうか、ならもうちょっとだから頑張れ」
「うん!」
「「「こんちわ〜!」」」
「来たようだな「「いらっしゃいませ」」」
「おや、マヒナさんにルナちゃんも、今日はお手伝いかい?」
「うん、ルー、おてつだいだよ、おっちゃん」
予約のお客さんは、近所の商店街の面々で全員顔見知りだった。
予約なので、特別な注文などはない。私は料理を運ぶことに集中した。ルナはおっちゃん、おばちゃん達にアイドル並みの人気で、終始場を和ませていた。
「「「ありがとうございました〜」」」
商店街の人達も帰り、後片付けをしていると、ルナがテーブルにつっ伏して寝てしまった。
「ごめん、リュンネ、ルナを上まで運んでくれる?」
「あらら、寝ちゃったねや、ルーも頑張っとったねやね、わらすが運んだるっぺよ」
「マヒちゃんも上がっていいぜ、オレらは夜の仕込みがあるからな」
これからまだ仕込みか、おばさんも、リュンネもタフだな〜。
この店は夜には冒険者相手の居酒屋のようになる。閉店時間は夜の10時だ。
「ついでだから夜も手伝うよ、マウニおばさん」
「わりいけど、甘えて手伝ってもらおうかな」
結局、今日は最後まで手伝うことにした。最後にはルナも起きてきて、ちょっとだけ夜も手伝いました。
ーーーーー[次回予告]ーーーーー
死んじゃったけど魔物に転生して蘇った私。
幽霊じゃないですよ、ウィルオウィスプなんです!
職安に仕事を紹介してもらった。職安経由の初仕事に気合いを入れて向かったら、着いたのはなんと大きなお屋敷だった。
最初っからハードル高くないか!
次回[煙突掃除をしてみよう]
お姉ちゃん、ルーもおてつだいがんばるよ!
誕生日投稿スペシャル、13時台の投稿です。
この作品としては本日8回目の投稿となります。
やっと午後、先は長いなあ
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
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お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。