冒険者ギルドで登録の変更をしよう
今日はセレネと一緒に冒険者ギルドにやってきた。私のギルド登録は転生した今でも有効なのだが、役所と同じように変更の届出が必要なのです。
「どうしたんですか、マヒナさん、その姿は? いや、セレネさんから少しは聞いてたんですけど」
「いやぁ、まあ、色々あってね、久しぶり、サクちゃん」
「ぷぷぷっ、実際に見るとウケるでしょ、サクちゃん」
「ウケ狙ってウィルオウィスプになってないから!」
セレネのヤツはいつもと同じ軽いノリでイジってくる。それがセレネの良さなんだけど、たまに本気でイラッとする。
ギルドの受付嬢をしている、ウサギの獣人のサクちゃん。公私ともに仲の良い私の友人でもある。
私はサクちゃんに、話せる範囲で今回の経緯を説明した。
「それは大変でしたね。しかし、それだけの登録の変更となると、ギルマスに直接頼んだ方が良いかもしれないですね。ちょっと待ってて下さい」
サクちゃんは、奥の階段をピョンピョンと登って行った。相変わらず動きが可愛い。
「セレネ、あんたは依頼を受けないでいいの?」
「え、今日はお休み。だってなんか、こっちの方が面白そうじゃん」
「面白がんな! 仕事しろ!」
全く、コイツはほんとに。
セレネと会話してる間に、サクちゃんが戻ってきた。
「ギルマスが直接お話しを伺うという事なので、2階の支部長室まで来て下さい」
「あたいも一緒に行っていい?」
「セレネさんもご一緒にどうぞ」
「だからアンタは仕事しなさいよ!」
完璧、楽しんでんな、コイツ!
何を言っても仕事する素振りを見せないセレネも一緒に支部長室まで行く事になった。
カウンターの脇を抜けて階段に向かう。サクちゃんが私のウサちゃんリュックに気がついて、ちょっと嬉しそうな顔をする。
三人で階段を上がり、支部長室のドアの前に立つ。
コンコン
「ギルマス、よろしいですか?」
「おう、構わないから入れ、入れ」
「失礼します」
「ぶわっはははは、マヒナ、マジでウィスパーじゃねぇか!」
「いきなり大爆笑すんな! あとウィスパーって言うな!」
私はあんなに丸っこくない! 足はふにょんってしてるけど。
「くひひひぃひぃ、がはははっひ、けひっ、けひょん、けひょ」
「咽せるまで笑うな、こら!」
「けひひひ、はひぃ、ひひひ」
まだ笑ってやがる、このオヤジは!
「がははは、いや、すまんすまん。しかしお前、本当にウィルオウィスプになったんだな。ウィルオウィスプなんてワシも初めて見たぞ!」
「そりゃあどうも、いい加減に笑うのやめてくれる? 腹立つわ〜」
冒険者ギルド、モーント支部のギルドマスター、ロウゲツさん。昔はSランクの凄腕冒険者だったらしいが、今は引退して、このモーント街のギルドマスターをしている。
普段は気の良いオヤジだが、人の顔を見るなり大爆笑するとは、失礼極まりないオッサンだな。つられて爆笑しているセレネもムカつくけどね。
「いや〜、悪い悪い、ついな。しかし登録の変更はいいけど、お前、そんなんで冒険者の仕事なんて出来んのか? ぷふふ」
「だから、笑うなっての! ギルドの登録証は身分証明証にもなるからね、仕事は、まあ、可能性を探りながらかな」
「そうか、まあ焦らずゆっくりとやるんだな。じゃあ経緯について聞いていくけど・・・」
私はギルマスにも話せる範囲で経緯を説明した。その後、いくつかの質問に答える。
「ついでという訳じゃないが、職種の適正検査も受けておけよ。種族特性が加わるから魔法使い以外の職種が加わってるかも知れんぞ」
ギルマスの提案で私は、職種適正検査の再検査を受けることとなった。
職種適正検査とは、専用の魔道具で自分に適した職種を調べる検査である。
初めて冒険者ギルドに登録する際に、この検査を受けるのは当たり前だが、冒険者として成長することで新たな適正職種を獲得することも少なくない為、定期的に受けることが推奨されている検査だ。獲得した職種は副職として冒険者ギルドに登録される。
副職の獲得は冒険者としてのレベルが上がった目安ともなり、多くの副職を持つ事は冒険者ランクとはまた違った一種のステータスとされている。
私の前に拳大の魔水晶が置かれ、私はそれに両掌を翳す。そうすることで魔水晶と繋がっている石版に適正のある職種が文字で表示されるのだ。
触れるわけじゃないのでウィルオウィスプである私でも問題なく検査を受けられる。
「うおっ、こ、こりゃ〜驚いたな!」
「な、何よ、勿体ぶらずに教えなさいよ、爆笑オヤジ」
「爆笑オヤジってお前・・・。まあいいや、喜べ、新たに3つも職種が表示されたぞ」
「おお、凄い。優秀じゃないのよ私!」
いっぺんに3つも職種が増えたなんて話は聞いたことがない。それに副職3つ持ちなんて一流冒険者と言って過言ではないのだ。
「1つめは魔道具装丁者だな。こいつはマヒナの魔法使いレベルであれば獲得していておかしくない職種だな。寧ろ道具を触れないウィルオウィスプへの転生はマイナスに働いているだろうから、転生前に獲得していたと見るべきじゃねえか」
一度獲得した職種が消えることはまずない。なので転生前に獲得していたとしても不思議ではないのだ。
魔道具装丁者。
道具に魔法術式を付与して魔道具を作製する者の事である。冒険者を引退した一流魔法使いがなることの多い職業で、この職種を獲得していれば一生食いっぱぐれることはないとま言われている。
私が最も獲得したかった職種でもあるのだ。
「2つ目は隠密。これはウィルオウィスプの種族特性を得て条件を満たした職種だろうな」
隠密。
偵察、潜伏、諜報のスペシャリストで場合によっては暗殺までもこなす。文字通り姿を隠すことに特化したこの職種は、正にウィルオウィスプの種族特性にうってつけだと思う。
「そんで最後に3つ目なんだが、なんでこの職種なんだ? 訳がわからん?」
「勿体ぶらずに教えなさいよ、何の職種が表示されたの?」
「いやな、それがな、その、テイマーなんだよ、テイマー」
「へっ、テイマー? なんで?」
「なんでってワシに聞くなよ、ワシに。わかるわけねえだろうがよ」
テイマー。
魔物と従魔契約を交わし従わせることが出来る職業。
ウィルオウィスプの種族特性からも、魔法使いとしての職質からもかけ離れた印象がある職業、というよりテイマーという職業は、他の職質と整合性を持たない特殊な職業なのだ。
でもまあ副職は多いに越したことはない。何かの役に立つかもしれないしね。
その後は問題なく冒険者ギルドの登録の変更は終わった。
新しい登録証もその場で発行してくれたので、新たに獲得した副職の職業毎の説明が書かれた3冊の冊子と一瞬に、私のウサちゃんリュックに入れてもらった。
ウサちゃんリュックを見て、必死に笑いを堪えるギルマス。
このくそオヤジ! 絶対に方法を見つけてひっぱたいてやるから、覚えてなさいよ!
「そういや、セレネが依頼完了の報告をした薬品会社の護衛の報酬が出てるけど、その金も持ってくか?」
「そうね、それじゃあそれもリュックに入れてくれる?」
「あ、そうか、手で何も持てないんだったな。ぷふ、くくく、があっははははひひはひ、けひょ、ごほごほ」
「いい加減にして、このくそオヤジ!」
ーーーーー[次回予告]ーーーーー
死んじゃったけど魔物に転生して蘇った私。
幽霊じゃないですよ、ウィルオウィスプなんです!
魔物になっちゃったと言っても私だって女の子。ショッピングぐらい楽しみたいですよ。
次回[買い物に行ってみよう]
高っ! 高過ぎるでしょこれ、マジで!
誕生日投稿スペシャル、6時台の投稿です。
この作品としては本日4回目の投稿となります。
ちょっと疲れたから少し休憩しようかな。
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
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