魔物省に届出をしよう
魔物が街に住むには、人間とは違う届出をしなければならない。人間と違って、特殊能力を持つものが多いからだ。
人間としてこの街の市民権を得ている私も例外ではなく、魔物に転生したという種族変更の届出が必要が必要となるのだ。
そんな訳で私は、魔物省にやって来た。
敷地の正門の脇に広い花壇があり、その中央には長方形の立派な黒曜石に[魔物省]と銘が彫られてた看板がある。
その正門から建物の正面玄関までの距離は50メートル。正面玄関の脇にも[魔物省本役所]と浮き文字で書かれた立派な看板が掲げられていた。
建物自体も大きく立派な建物だ。
正面玄関をくぐり中に入ると、チラホラだけど人間の姿も見える。
ここに用がある人間もいるんだな。私は初めて来たけど。
こんなに広いと思っていなかった私は、真っ直ぐに総合受付に向かった。
どこに届けを出せば良いのかサッパリわからないからね。
「あの、この街の居住許可の変更申請をしたいのですけど」
「はい、えっ、もしかしてウィルオウィスプの方ですか?」
「えっ、はい」
「うわぁ、超レア種族ですね、サインをして下さいませんか?」
「色紙もペンも持てないですよ、霊体なんで」
そんなニコニコ顔で、色紙とペンを渡されても無理ですよ。
「そ、そうですよね、失礼しました」
「居住申請でしたら一階ですね。あちらの奥に[生活環境課]と書かれている所がありますよね、あそこで申請して下さい」
私は案内された[生活環境課]の窓口に移動した。
「あれ、ウィルオウィスプですか、あのサインを貰えないですか?」
「いや、だからペンが持てないので無理ですって!」
ここでも色紙とペンが用意されている、レア種族にサインを貰う事が役所内で流行ってるのか?
私は転生するに至った経緯をザッと説明した。
「なるほど、種族変更の届出ですね。既にこの街にお住まいになっている方の変更届は、3つ奥にあるあちらの住民窓口からお願いします。ここは新規窓口となっておりますので」
「そうなんですか、わかりました」
[生活環境課]には窓口が5つもあったので紛らわしいなと思っていたけど、どうやら違う窓口に来てしまったらしい。
私は3つ奥の窓口へと移動する。
「超レア種族のウィルオウィスプさんじゃないですか! あの、サインを」
「あ〜もう、サインは出来ないって何度も言わせんな!」
またもやサイン攻め、流石に3回目ともなると口調が荒くなってしまった。
さっきの窓口と同じように、私は転生へと至った経緯を説明する。
「ああ、そういう事情ですと、先に[転生課]で転生届けを出していただく必要がありますね」
「[転生課]は三階です。この先の階段を上がっていただいて、三階に着いたらすぐに左に進んだ廊下の突き当たりの右側になります」
「三階かよ!」
ヤバイ、大分イライラしてきた。
「あ、役所の壁や天井はすり抜け禁止になってますので、ちゃんと階段を通って行って下さいね」
「わかったわよ」
段々と面倒くさくもなってきたけど、行かないわけにはいかない。
言われた通りの順路を通って[転生課]の窓口までやってきた。
「うおっ、ウィルオウィスプだ、サイン下さい」
「だから出来ないっての!」
そんな、さ○まさんはしてくれたみたいな顔されても、出来ないものは出来ません!
そして、またもや繰り返される転生した経緯の説明。あ〜、イライラする。
「それだと隣の[転生課 異種族転生部]になります。ここは[転生課 異世界転生部]ですので」
「いい加減にして!」
全く、役所ってのはホントに。
渋々隣に移動する。
「おお、ウィスパーだ! あのサインを」
「本当にいい加減にして!」
「それとウィスパーって言うな!」
ウィスパーって略称で呼ばれると何か丸っこい感じがしてとても嫌だ。
それにしても、レア魔物からサインを貰う事が役所内で完全に流行ってるな。どこの窓口にも色紙とペンが用意されている。
「あの、届けはここで良いんだよね」
「はい、ここで間違いないですよ。ペンが持てないという事ですので、口頭での届出になりますがよろしいですか?」
「はい、構いません」
どうやらここで合ってるようだ。とりあえずはホッとした。
改めて転生の経緯(薬品会社の事は上手く伏せて)を詳しく説明し、現在の生活環境、その他いくつかの質疑応答を経てやっと届出を終えた。
「これで転生届けは終了です。この受理票を持って一階の[生活環境課]で居住許可申請をして下さい。場所は」
「もういいです、場所はわかるんで、っていうかそっから来たんで」
駄目だ、イライラが止まらない!
「役所の方から転生祝いを差し上げています。ウィルオウィスプですと霊体感応リュックですね。受理票はそれに入れて行って下さい」
「ウィルオウィスプにも触れる素材で作られた、普段使いにも便利なリュックタイプとなってます」
「只今持ってまいりますね」
おお、それは便利だ! 正直、何も持ち歩けなくて困っていたので助かる!
役所も気の利いた事が出来るじゃないか。
・・・・・・。
「どちらの色になさいますか?」
「・・・あ、あの、他のデザインはないんですか?」
「あいにくデザインはこの一種類だけなんです、色はこちらの二色から選べますよ」
「・・・じゃあピンクで」
「マヒナさんもピンクですか、不思議と皆さんピンク色ばかりを選ばれるんですよ」
「そりゃあそうでしょうね、デザインがウサちゃんなんですから。くすんだ緑のウサギさんは選ばないと思いますよ」
私はウサちゃんリュックを背負って一階に戻る。周りからの視線が痛い。
最初の[生活環境課]の住民窓口に戻って、受理票を渡す。
「転生届けは出されたんですね。それでは居住許可の変更申請を始めますね。現在の生活環境はどのように・・・・・・」
[転生課]でやった質疑応答とほぼ同じ内容がここでも繰り返される。もう、うんざりだよ。
「これで最後ですね。マヒナさんの居住許可の変更申請はなされました」
「やった〜、これで終わったんですね?」
「はい、たしかに申請はなされてますよ」
良し、やっと帰れる。
「申請された新しい居住許可証は、この後四階の講習室で種族講習を受けていただいて、講習後の引き渡しとなります」
「・・・・・・。」
「え〜と、今日これからですと、4時間後が空いてますね。本日受講なさいますか?」
「・・・いえ、明日来ます」
「居住許可証の受取り期限は5日間ですので、その間に種族講習を受講なさいませんと、また始めからになってしまいますが」
「・・・大丈夫です、明日来ますから」
「そうですか、講習の窓口はここですので、また明日お待ちしています。午前8時までに来ていただければ、並ばないで済むと思いますよ」
「わかりました、そうします」
私は、魔物省を後にした。
疲れた、精神的に疲れた。クタクタだ。
家に帰ると、ウサちゃんリュックはルナに大好評でした。
翌日は気持ちも新たにして午前7時30分に[魔物省本役所]に行ってきたけど、ウィルオウィスプの資料が足りないから取り寄せると初っ端から出鼻を挫かれた。結局講習を受けられたのは、お昼も過ぎた午後1時からだった。
種族講習では私の知らないウィルオウィスプの生態を色々聞けたのは良かったが、その途中でゴーストには足が有るのと無いのがいるという話題になった。
講習官に「足が無いと言っても、足先にいくにつらてスウっと消えていく感じで、ウィスパーみたいに[ふにょん]っとはなってませんよ。あんなマンガみたいに」って言われた時には、本気で殺意が湧いたよ。
結局一日仕事になってしまったけど、無事に居住許可証は手に入れました。当分お役所には行きたくないです。
余談ですが、窓口に[霊体感応素材]で作られた、ペンと色紙が用意されていて、しっかりとサインを書かされましたよ。
ーーーーー[次回予告]ーーーーー
死んじゃったけど魔物に転生して蘇った私。
幽霊じゃないですよ、ウィルオウィスプなんです。
魔物となったしまってもお金は必要です。お金を稼ぐには、魔物になってしまった私にも出来る仕事を探さなきゃね。
次回[職安に行ってみよう]
勝手に改名して変なフレーズを連呼しないでよ、全く!
誕生日投稿スペシャル、4時台の投稿です。
この作品としては本日2回目の投稿となります。
まだまだ投稿しますんでよろしくお願いします。
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
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お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。