誕生日祝いを届けよう[中編]
私が魔王国を目指してプカプカと飛んでいると、前方で荷馬車が立ち往生していた。
進んでいる街道の先で、大きな翼を広げたような炎が燃え盛っていて、先に進めないようだ。
聞けば、あの炎の正体は不死鳥じゃないかと言うが、はてさて。
「仕方ないね、私が見に行ってみるよ」
「嬢ちゃん本気か? あれだけの炎に近づくのは危険だぞ!」
私の発言に、スケルトンが目を丸くして驚く。
「私には炎属性無効の特性があるからね。プラ、ウサちゃんリュックをお願い」
「あいよ、まかしとき!」
ウサちゃんリュックのフタが開いて、中からプラが飛び出した。
「うわっ、何?」
「えっ、スライム? って豹柄?」
がシャン、カラカラ
スケルトンと一緒にデュラハンも驚く。慌てたデュラハンは頭を落っことしてしまった。何やってんだか。
「私の従魔で豹柄スライムのプラチャンだよ」
「豹柄スライムなんて聞いたことがないな。新種か?」
デュラハンが、自分の頭を拾いながら聞いてくる。
「突然変異種だよ。それでプラはどうする? ここで待ってる?」
「ウチも炎は大丈夫やから、リュック飲んだら行くわ。マヒナちゃんは先に行っといてええよ」
「わかった。じゃあ先に行ってるわね」
私はプラを置いて先へと進んだ。
街道沿いに先へと進んで行くと、炎がどんどんと大きくなる。実体のある者では近づくことも難しいだろうね。かなり熱そうだ。
感じないから全然わかんないけどね。
炎に近づくと、炎の中心に鳥のような姿が見えてくる。さっき天に向かって伸ばした翼は、今は力なく地面にペタンと横たえていた。
更に近づく。大きい! 5メートルくらいはあるんじゃないかな。翼を広げればもっとかも。
間違いない。不死鳥だ。不死鳥は苦しそうに顔を歪めている。
どっか身体の具合でも悪いのかな?
不死鳥って、伝説の魔獣って言われてるけど神獣だよね、言葉は通じるのかな?
「え、え〜と・・・大丈夫ですか? 怪我とか?」
「み、見てわからぬか。だ、大丈夫ではないが、怪我では、な、ない」
綺麗な声だ。苦しそうで、少しくぐもった声なんだけど、綺麗なことはわかる。
それにしてもどうしようか、私に何か出来る事はないのかな?
「お、お主、ぽ、ポーションを持ってお、おらぬか?」
「ポーションですか、ちょっ、ちょっと待って下さいね」
丁度良いタイミングで、プラがポヨンポヨンと飛び跳ねながらやって来た。
「凄い炎やな、熱くてかなわんわ」
「プラ、あんたは熱さは感じるんだ。火属性無効なのに?」
「ウチは火属性無効とちゃうよ、耐性が高いだけや」
「ふ〜ん、そうなんだ」
てっきり火属性無効かと思ってた。
「お、お主ら、無駄口叩いてないで、は、早くポーションを」
「は、はい、ごめんなさいね」
確かにそんな場合じゃなかったね。
「プラ、あなた用に買ったポーションがあったでしょう。出してくれる」
「ああ、コレやな。ほい、100万ゴールドや」
「いいから早く不死鳥さんに、そのポーションを渡してあげて!」
100万ゴールドはスルーして、プラを急かすように言う。
「なんやマヒナちゃん、ノリ悪いやないの」
文句を言いながらも、プラは触手をミニョ〜ンと伸ばして、不死鳥さんにポーションを渡した。
差し出されたポーションを、不死鳥さんは器用に翼を使って受け取ると、嘴に挟んで一気にゴクゴクと飲み干した。
「ふう〜、あ、ありがとう、助かったわ」
不死鳥さんがお礼を言ってくれる。そして、身体から勢いよく吹き出していた炎も徐々に鎮火していき、最後には完全に消え去った。
それでもまだ苦しいのか、巨大な身体は横たわったままである。
「え〜と、あの、動けます? 街道を塞いじゃってますんで、動けるようなら少し移動しませんか?」
「う、うぬ、そうだな、暫し待て」
そう言って、不死鳥さんは何度かゆっくりとした呼吸を繰り返す。その後、深く深呼吸をして息を止めて。
「ほい!」ポンっ!
「えっ? な、何?」
街道に横たわっていた巨体は煙のように消え、その場所には、真っ赤な長く美しい髪をした、綺麗な中年の女性が立っていた。
「び、びっくりした〜。え、え〜と、不死鳥さんですか?」
「うむ、我じゃ! 我は神獣であるからな。この様な事も可能なのじゃ」
神獣って人間に変化出来るんだ! 知らなかったよ。
不死鳥さんが街道の脇に移動しようとするが、まだ体調が悪いみたいで、ヨロけて躓き膝をついてしまう。
「ちょっとプラ、見てないで手伝ってあげてよ」
「せやな、ほれ、飴ちゃんでも食べながら、ウチの上に座っとき」
プラの身体が通常サイズよりも大きくなり、飴ちゃんをミニョ〜ンと差し出しながら、不死鳥さんにウニョウニョと近づいていく。
「すまぬなスライム、ん、って、スライム?」
不死鳥さんがプラの姿に驚きの声を上げた。まあね、豹柄のスライムなんか見た事ないだろうね。
「豹柄スライムって種族で、私の従魔のスライムのプラチャンです。危険はないですよ」
「そうか、しかし豹柄とはな、変わったスライムじゃな」
不死鳥さんが恐る恐るプラの上に座ると、プラがウニョウニョと街道の脇に移動した。
不死鳥さんは、プラの上から立ち上がろうとするが、まだフラついているようだったので、プラにはそのまま椅子代わりになって貰った。
私は街道脇へと移動した不死鳥さんを、改めてじっくりと観察する。
不死鳥さんの人化は見事なもので、どう見ても人間にしか見えない。
見た目的には、若くはないが老女というわけでもない。温和そうな貴婦人といった感じで、非常に若く見える50代とでもいうところか。
不死鳥さんが街道脇に移動したので、立ち往生していた荷馬車も移動を開始し、こちらに向かって来た。
「助かったよ嬢ちゃん、ありがとうな。それで、そちらのご婦人は?」
「この人が不死鳥さんだよ。人に変化出来るんだって」
「な、何! そのご婦人が不死鳥だって!」
「本当かよ、おい!」
御者台に座る、デュラハンとスケルトンの二人が驚きの声を上げる。そりゃあ驚くよね。
「しかし具合が悪そうだな、荷馬車で乗り心地は良くはないが、乗っていくかい?」
有り難い提案だと思った、が、不死鳥さんの返事は違っていた。
「ご厚意痛み入る、だが、止めておこう。我の体は、またいつ炎を吹き上げてもおかしくない状態なのでな」
「え、そうなの?」
「うむ、未だ、我の体が危険な状態であるのは変わりないのだ。なので荷馬車の御仁達は、先を急がれよ」
「そうか、なら先に行かせて貰うか。嬢ちゃん達もいいのか?」
「私達なら大丈夫だよ」
「わかった、道中気をつけてな。不死鳥さんもな」
不死鳥さんが頭を下げると、荷馬車は出発していった。
荷馬車を見送った後、不死鳥さんが私の方に向き直って言う。
「ところでウィルオウィスプの娘さんよ、この豹柄スライムとやらを従魔にしているという事は、お主は魔物使いなのか?」
「副職だけどそうだよ。本職は魔法使いだけどね」
「そうか、副職とはいえ《従魔契約》は行えるのだな。だったらお主に頼みがあるのだが」
「《従魔契約》なら問題なく使えるけど、頼みって?」
「うむ、実はな、我をお主の従魔として貰いたいのだ」
「え、従魔? 神獣を従魔って、え、有りなの?」
普通、テイマーが従魔にしている魔物は、どこにでもいるような普通の魔獣だけだ。レア魔獣を従魔にすることも稀なことなのに、神獣を従魔にするなど聞いたことがない。
「いやな、これにはワケがあるのだ。実はな・・・」
不死鳥さんが話したワケとは、実に驚くべき不死鳥の生態から生じたものだった。
不死鳥とは、厳密には不死ではなく、500年周期でその肉体は死を迎えるそうだ。しかし、その死と同時に一つの玉子を生み、その玉子に自らの魂を転生させて、新しい肉体を手に入れることで不死を成しているのだという。
そして、この不死鳥さんは、正に今、その死の間際にいるらしいのだ。
通常その転生は決まった場所で行われるそうで、その場所が、目の前の山脈の中でも一番高い火山の火口の中にある洞窟の奥で、大変過酷な場所なのだとか。
その洞窟の奥で玉子から孵化し、ある程度成長するまではその洞窟の中で安全に過ごし、その後に外の世界へと飛び立って行くという事だった。
この不死鳥さんは、転生時期が迫っているにもかかわらず、無理をして出掛けていた為に、その転生場所まで戻ることが出来なくなってしまったらしい。
洞窟で安全に成長することが不可能になってしまったので、私の従魔となり、成長するまでの間、私に保護して欲しいという事だった。
先程、不死鳥さんの身体から吹き出していた炎は、その転生の前兆だったということだ。
「そんなギリギリの状態で、一体何処に行ってたんですか?」
「いやな、あのな、その」
不死鳥さんは、急にモジモジし出して言葉を濁す。
「そのな、我の推しの吟遊詩人の魔導円盤録音販売一周年記念演奏会があってな、どうしてもそれが見たかったのじゃ」
・・・阿呆だ、この人。
「そんな蔑む様な視線を、我に向けるでない。わかっておる、自分でもわかっておるから!」
「・・・・・・でだ、どうだ、我を従魔にして貰えんかのう?」
まあね、自業自得だとはいえ、困っているのは本当だろうしね。
「まあいいよ。巣立つ時まで成長するまででいいんでしょ、どれくらいかかるの?」
「おお、助かる、恩に着るぞ。なあに、巣立つまではたったの50年くらいじゃ」
「ごじゅ・・・・・・50年!」
そんな、「たったの50年で何を驚いてる」みたいな目で見られてもな〜。
500年周期で転生を繰り返して、魂自体は不死の存在の価値基準で判断しないで欲しいよね。
「ほれほれ、そうと決まればサッサと《従魔契約》を済ましてしまおうぞ。おっ、そうじゃ、ついでに転生も済ましてしまおう。なら広い場所に移動じゃな。ほれ、こっちじゃ、はやくはやく」
・・・な、なんか急に元気になった気がするけど、気のせいだよね。
とても、今から死ぬ人には見えないんだけど、気のせいだよね。
私達は広い場所へと移動し、不死鳥さんはまた巨鳥の姿へと戻った。
「で、では、じゅ《従魔契約》を、た、頼む」
私は両手を突き出して不死鳥へと翳し、従魔契約魔法を唱える。
「汝、我が命に従い、我が従魔となりて、我と共にあり、我と共に生き、我の道を照らせよ。さすれば我も汝とあり、汝に道を示す者となる」
契約魔法の証となる光が、私と不死鳥に宿り光り出す。契約魔法は無事に成功した。
「う、うむ、問題は、な、なさそうじゃな。では、つ、続けて、て、転生を行うのじゃ。て、転生後も、よ、宜しくな、ま、マヒナ」
そう言うと不死鳥の巨体から炎が噴き上がる。最大で20メートル以上もの火柱が立ち上がったが、30分程でその炎も下火となる。
余りの熱さに、後ろに下がっていたプラも私の下へと戻ってきて、私と共に収束する炎へと近づいていく。
燃え盛る炎のような模様をした大きな玉子が一つ、その場所に産まれていた。
ーーーーー[次回予告]ーーーーー
魔国に向かう途中の街道の脇で転生した我。
不死鳥じゃよ、今はまだ玉子ではあるがな。
次回予告をやれと言われても困るのじゃ。
我はまだ玉子であって、孵化しておらんのじゃからな。
まあ予想では、マヒナが魔国に到着して、アレコレとあるのだと思うがな。
次回[誕生日祝いを届けよう[後編]]
孵化するまでは、我には出番がないからのお。そこまでの話は読み飛ばしても良いと思うぞ。
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