池の水を全部抜いてみよう[前編]
領主の屋敷の煙突掃除が終わって、暫くの間は清掃系のお仕事が続いた。
道の脇に続く側溝、下水道の本管、高層建物の外壁に窓拭きと掃除した場所は多岐に渡っている。
おかげさまで私が行った掃除は大変好評で、清掃系の仕事に自信もついてきました。そして今日の仕事も清掃系? と言っていいのかどうかよくわからないけど、分類すれば清掃系と言える気がします。
では、今日のお仕事とは一体何なのか、それはズバリ、池の水を全部抜く事なのです。
「わざわざすまんねマヒナ、今日は君の働きに期待しているよ」
「それはいいんですけどね領主、本当にこんなに大きな池の水を全部抜くことなんて出来るんですか?」
今回の計画の発案者であるこの街の領主、セイアッド=ムーン子爵に話しかけられた。期待されても私一人でこの池の水を全部抜くなんて事は不可能である。
モーントの街の中央に広がる街民の憩いの場、モーント中央公園。公園という名がついてはいるが、そこらの村なんかよりもよっぽど広い面積を誇る公園である。
モーント街にはその街中を南北に貫いているオドリー川がある。そのオドリー川の流れを利用して中央公園内に作られた人口池がこのヘプルバーン大池である。
ヘプルバーン大池の水は様々な用途に利用されており、中央公園内に建設された浄水場を経由しての飲料水を筆頭に、農業用水、防火用水にも利用されている。その為、非常に大きな池となっていて、この池の水を抜く事は至難の業だと思える。
余談ですが、モーント中央公園内には幾つかの施設があり、モーント中央浄水場もその一つである。
モーント中央浄水場はヘプルバーン大池とオドリー川の水を取り込んで飲料水へと変えているが、現在は浄水能力が半減している状態になっています。その為に、モーント街の全域で、ヘプルバーン池洗浄期間は節水を行なっていて時間帯によっては部分断水も行われている。
私は領主の要請で、二日前にもヘプルバーン大池を訪れている。オードリー川からの取水口を土魔法で塞ぎに来たのだ。
ヘプルバーン大池は二日前よりも格段に水位を減らしているが、まだまだ水量が多く本当に今日抜く事が出来るのかと、私は不安になってしまっていた。
「ヘプルバーン大池の水質の悪化は深刻な問題なんだよ。水質の改善の為には一度水を抜いて、底に溜まった泥を除去しなくてはならないんだ」
「それはわかりますけどね、ちょっと広過ぎると思うんですが」
「今回、私が大掛かりな水質改善を決意した原因がマヒナ、君なんだよ。煙突掃除の時のマヒナの見事な水魔法のコントロールを目にして決断したんだ、期待してるよ」
「いや、期待されても煙突掃除とは規模が違い過ぎるでしょうが!」
正直、勝手に期待されて、いざ抜ききれなかった時に文句を言われたら困っちゃうよね。
「君一人に水抜きをやらせるわけではないので安心してくれ。騎士団の魔道士部隊にもやらせるし、冒険者ギルドにも協力してもらう手筈になってるからな」
「そういう事ならまあいいですけどね」
気づけば池の周りには沢山の人が集まってきていた。ん、ちょっと待って、冒険者ギルドって事は。
「やっほ〜、マヒナ、来たよ〜」
やっぱり来たかこの阿保女!
「何しに来たのよ、あんたは魔法使えないでしょうが、セレネ」
「チッチッチ、わかってないねえマヒナは。全くわかってない」
私をイラつかせる事に関しては超一流だねセレネ。池の底に沈めてやろうかしら。
「今回の水抜きには水質改善の他にも目的があるのですよ、それはズバリ、ヘプルバーン大池の生態調査なのです。ジャジャ〜ン」
「何がジャジャ〜ンだ、この脳筋女」
コイツの自信満々な言いっぷりからして、冒険者ギルドのギルマス、ロウゲツさんに聞いた事をそのまま繰り返しているだけだな。
「まあ聞きなさいなマヒナさんや、長く放置されていたこのヘプルバーン大池の性体験は乱れている恐れがあるのだよ、フッフッフ」
「何がフッフッフだ、この阿保。性体験を乱してんじゃないわよ、生態系だろうが、脳筋!」
「ん、あれ・・・。ああ、そう、その生態系が乱れている恐れがあるのだよ、フッフッフ」
「そのフッフッフを止めろって言ってんのよ!」
「ああ、もう面倒くさいや、なんかね、正体不明の水性魔獣がいる可能性もあるから、あたい達冒険者もそれに備えるように言われたからさ、遊びに来たってわけよ」
遊びに来たって言っちゃったよ、この女は、全く。
「あ〜、ダメだよセレネお姉ちゃん。あそびじゃないんだからね! ルーはがんばるからねマヒナお姉ちゃん!」
今度は我が妹が、沢山の子供達と一緒に現れた。領主令嬢のミーシャの姿も見える。
「ルーちゃんも来たんだ、ルーちゃんは何を頑張るの?」
セレネの質問に答えたのは、ルナの前に割り込んできたミーシャだ。
「わたくしたち、ようねん学校のせいとたちは、生き物きゅうしゅつたいですわ。水の少なくなった池から、お魚さんたちをきゅうしゅつしますのよ」
「へ〜、面白そうだね。あたいもそれやろうっと」
「ルーはがんばるよお姉ちゃん。ミーちゃんにもセレネお姉ちゃんにもまけないからね!」
今回もやる気に満ちているルナが、力強く握り締めた小さな拳を突き上げる。
「頑張るのはいいけど気をつけるんだよルナ。本当に何が潜んでいるかわからないからね」
「うん!」
幼年学校の子供達の他にも、中等・高等学校の学生や、魔法学校、騎士養成学校の生徒達も集まって来ている。
ボランティアと思われる街の人達の数も増えてきた。この辺の人達は皆、水の減った池の生物の捕獲部隊なんだろうな。
今回の池の清掃計画は、私が考えていたよりも格段に大規模な計画だったようだ。
どんどんと人が集まり続ける池のほとりから、人垣を掻き分けて中等学校の生徒だと思われる女の子が一人、私の方に近づいてきてペコリと頭を下げた。
小さな身体の上には、身長の割に大きくまん丸の頭が載っている。その顔はクリっとした黒目がちの可愛い目が特徴的で、頭の上にはピンと立った二つの耳がフサフサしている。
お尻からもラインの入ったフサフサの尻尾が生えが獣人の女の子だ。
「マヒナさんっすね。あたしは領主様より今回の清掃計画の監督を仰せつかったチャーンドっす。一応保健所の所長をやってるっす」
大人の女性でした。どう見ても中等学校の学生としか見えなかったけど、獣人は見かけではわからないからなあ。
「はじめましてマヒナです。チャーンドさんは何の獣人さんなんですか?」
「よく狸と間違えられるっすけど、アライグマの獣人っす。清掃は得意っすよ」
「マヒナさんの事は領主様から伺ってるっす。今日はよろしくお願いするっす」
「こちらこそ宜しくお願いします、チャーンドさん」
私とチャーンドさんはお互いに挨拶を交わして握手をする。モフモフの尻尾に飛びつきたい衝動に駆られてしまったが、初対面の相手に流石にそれは失礼なので、必死に我慢しましたよ。
ーーーーー[次回予告]ーーーーー
死んじゃったけど魔物に転生して蘇った私。
幽霊じゃないですよ、ウィルオウィスプなんです!
遂に水抜きが始まった、って前置きが長いのよバカ作者! 私が苦労した水抜きシーンが短過ぎ!
それにね、長いから前後編に分けたみたいだけど、結局はそれでも長くて中編まで入れる始末。
もうちょっと考えて書き始めなさいよ!
次回[池の水を全部抜いてみよう[中編]]
あ〜疲れた、当分水魔法使いたくないわ!
誕生日投稿スペシャル
本日通算18回目
この作品で本日10回目の投稿です。
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