チェリー Sec―68
チェリー Sec―68
そんな状況も、季実子が医療を・・・医師としての仕事に絶望した!
こんな挫折は、おそらく敏江医師にとって始めての経験だ!
その後は医師として呼ばれる度に、体が震えた!
大きな自信を無くすと、その後の医師は、
今・・・・この医師免許を破棄したくなる!
そう・・・現実逃避を何度も考える!
しかし、患者は目の前にいる!
四面楚歌の状況が敏江を追い詰める!
それを知って、ベテラン看護師が傍で見守ってくれる!
ベタテランでは無いが、結子も敏江の心の支えになった!
結子の夢の中に、その時の光景が何度も現れる!
やはり・・・・後悔が・・・・結子は出来る事は無かったか?
それが・・・・今も結子の心残り!
最近は特に、産科事例で民事刑事訴訟は後を絶たない。
そんな現状を知ってか、最近産婦人科医になろうという医師は稀だ。
訴えられた状況で弁護のために、自らの正当性を立証するべく、
手段を講ずる等、あるいは講ずる暇など皆無に等しい。
何故なら、この医師不足の現状で診療を行ないながら、
訴訟対策に費やす時間など1分たりとも無い。
そんな時間があればまず睡眠を・・・・が多くの医師の考えだろう!
地獄的な勤務スケジュール、それもどんどん酷くなって!
近隣の産婦人科施設が相次いで閉鎖に・・・・
だからといって敏江は、そんな泣き言は口にした事は無かった。
敏江は、やはり人を一人死なせてしまった事への反省、
季実子は敏江の為にやり残した事は・・・・あったに違いない!
ああすれば・・・・・あの時電話一本でも!
あの時・・・・・敏江の下に駆け馳せれば・・・・・
敏江を無駄死にさせずに・・・・・
今でも時折・・・・・・・
そんな過去の面影が夢の中に突如として出て来る。
原告側弁護士の嘲笑にもじっと堪えていた。
週刊誌の餌食にもなった。
少しずつ医療に対する絶望感が・・・・・
季実子の心を被い尽くす様に・・・・
敏江の心に不安感が徐々に増して行く様に、
季実子の心も壊されて行った!
それは重くずんとのしかかり、
季実子の心も絶望感が支配してしまって・・・・
医療の現場を・・・・・時をずらして離れて行く事に!
それは日を追う毎に増してきて・・・・・
やり場の無い怒りも・・・・
そして、敏江は選んでしまった!
自らの死を!
医師として、絶対に選択してはいけない選択を!
夕暮れの瀬戸内海の海に・・・・・
日が沈むのと同じ様に、敏江もゆっくりと身を沈め・・・・
足首・・・、腰・・・、胸・・・・・・肩に架かる黒髪
顔が隠れ・・・・・息が・・・・・・止まりそう!
そのままで・・・・・
そこは、かつてある男性と、ダイビングで見つけた・・・・
海中にある洞窟を目指して!
海に浸かる30分前に・・・・・
睡眠導入剤を・・・・・・、
敏江医師としての経験から必要量・・・・
服用して!
それは・・・・自らの屍は地上に現われない自信をもって、
海中に全て浸かった洞窟へ向かった!
自らの体には飛び出さないように石を固定して!
きっと苦しい、窒息だ!
酸素不足! 意識が遠のく!
これで・・・・死ねる! 完全に!
もう・・・医師に未練は無い!
終わった!
海中の洞窟で、徐々に敏江の意識が遠のき、命の終わりの頃、
季実子は、K大学病院の産婦人科で、今まさに女児を取り上げていた。
新しい命の誕生だ!
後で季実子は感じた!
これはひょっとして・・・・・、人の命の交換作業なのだろうか。
母敏江の命と・・・・今生まれたばかりの赤子の!
そんな非科学的な事は無いと思う!
無いが、それを信じるような事が実際起こるのだ!
誰も知らないこの世の中で・・・・・・!
そして、その後その女児は、医学を目指す!
そう・・・・季実子の知らない場所で、着々と医学部を目指し、
優秀な成績でT大学医学部を卒業した。
その名は確かM・K!
その時の母親は看護師で、その赤子を生んで・・・・・
ある事件でその看護師は人のために命を落とした!
勿論だが、その事は季実子も結子も・・・・・・知らない!
きっと、何処かで巡り会う運命と思われる!
その季実子は母親の死以後・・・・・・、
その女児を出産に関与した後、
何故か大学病院を辞めた!
そして、産婦人科も・・・・・
医師の仕事も辞めた!
その胸のうちは、季実子の心に聞かないと解らない!
季実子は何度も母敏江の発見された海!
瀬戸内海に何度も足を運んだ!
敏江の苦しみ、苦悩を少しでも知りたい、感じたいと!
瀬戸内海を・・・・
母敏江の死んだ海に出向いた!
季実子・・・・・実は、父親を知らない!
そこに・・・・・瀬戸内海の海に何か出生の秘密があると・・・・・
季実子の幼い記憶では、そこに佇む一人の男性を、
一度だけ見た!
それは、敏江の好きだった男で、季実子の父であると確信した!
CB&D・Cup Cap-68 Fin IKAROS




