第1話 赤い偽人狼(前編)
引きこもりの青年『鈴鳴 優』は現在、理解不能としか言えない状況に置かれていた。
いつものように本を読んでいたはずが突然光に包まれ、気づけば見覚えのない小屋にいた。手元にあったはずの『ピーターパン』の本までもが消え混乱していたら、目の前の少女が「私はピーターパンだ。」だの訳のわからない事を言いだし、更に混乱していたが目の前の少女っは構わず「ここは『幻世』だ。」とか「これからここで暮らしてもらう。」だとか言っていたが、正直まだ頭がついてきていない、勘弁してほしいものだ。これは、あれだろうか?俗に言う『異世界召喚』というやつなのだろうか・・・と、思考を回転させていた。
「優君大丈夫?意識飛んでなーい?目、死んでるよ?あ、ごめーん元々だったね。」
と、クスクスと笑いながらに言う。なんだろう、10年振りに人と話すが、なんだろう。これが殺意と言う物だろうか。
「あ、今私の事殺してやろうか。とか、考えてるでしょ。」
なんてことだ、完全に読まれている。
「あ、図星みたいだね。」
しかし、よく考えてみればこの子は本当にあのピーターパンなのだろうか?確か、ピーターパンの話ではピーターパンは男の子でいじめられている子供をネバーランドに連れていく。という物だったはずだ。しかし、今僕の目の前にいるのは男の子ではなく、女の子だ。ピーターパン違いと言う事だろうか?
「あ、僕は本当にあのピーターパンだからね?名前が似てるとかそういうのじゃないからね?」
また思考を読まれている!?と、いうか何だこの子は変わっているというか、何だか馴れなれしすぎやしないだろうか。イマイチ何が何だかわからないが、一つ理由を聞きたい事がある。これだけは聞いておかないと納得できない。
「何故、僕は呼ばれてここで暮らさなければならない?」
ずばり、これだ。別にあの世界に未練等ない。だが、ここで暮らす理由ぐらい知っておけるのは当然の権利であろう。
「お・・・・とと。そうだ、忘れる所だったよ。」
と、彼女は微笑みながら続ける。
「優君にはこの世界で『登場人物』達を助けてほしいんだ。」
「はい?」
何と言う事だ。また一つ疑問が増えてしまった。
そして、ピーターパンは真剣な顔で言った。
「ここ幻世にはね?『チキュウ』・・・?で言うところの『おとぎばなし』だっけ?に登場する子達が実在するの。でも、ここに生まれる子達はおとぎばなしに出るには、ふさわしくなかった子達いるの。それでも、その子達はおとぎばなしの道を行くんだけど、チキュウのおとぎばなしみたいに幸せではなくて、そのほとんどがバッドエンドを迎えるんだよ。」
僕は絶句した。おとぎ話は全てが綺麗で、幸せなお話だとばかり考えていた。だからそれが『おとぎ話』なんだと考えていた。だが、それは違ったようだ。それどころか『相応しくない者』?どうしても頭がついてこない。
「たとえば・・・?」
不意に言った。そして、彼女は、さっきとは違い、元のふわっとした口調で返してきた。
「んっとね・・・最近、赤ずきんちゃんのお婆ちゃんがね、赤ずきんちゃんと狼を無理やり融合させちゃった。とかかな?」
なんだそれは?あれか?某錬金術漫画の娘と犬を混ぜてキメラを作ったみたいなノリなのであろうか?そもそも、赤ずきんの話に出て来るお婆さんは、そんな事をする悪い人ではなかったはずだ。そして彼女は更に続ける。
「チキュウでいうおとぎ話は殆どが幸せのお話なんだろうけど、幻世のおとぎ話は違う。生きる道その物なんだよ。そして、その9割・・・いや、約10割ぐらいがバッドエンドを迎えるんだよ。チキュウでは幸せになるはずのヒロイン達はほぼ全員不幸になる。だから、皆みーんな、助けを求めてる。あ、『人魚姫』達は別なんだろうけどね。」
優はなんとか、理解する事が出来始めていた。そして、ある疑問を2つ問う。
「2つ聞いてもいいか?」
「ん、いいよ?」
「1つ目は俺をどうやってここに連れてきた?」
「それはね、『呼生』っていう僕の力だよ。チキュウで言うところの能力かな?」
と、答えて来る。そして「次は?」と問いかけて来る。
「もう1つは、どうして・・・俺何だ?」
と、僕は一番の疑問を投げかける。そして、彼女はそれにも簡単に答える。
「一番理解してくれそうだったから・・・かな・・・?」
言い終えると同時にピーターパンの目が見えた。そして、僕は恐怖し、狂気のような物を感じた。何故かって?一言で言うと彼女の目は、血よりも赤黒い色をしていて、かつへろりと笑っていたからだ。しかし、それでも僕の答えは決まっていた。しかし、それに伴い一つ聞いておかねばならない。
「助けるってのは・・・どうやればいい?」
「あ、やってくれるんだ!!よかった♪」
彼女は明るい表情を更に明るくして言った。
「皆を幸せにしてあげてほしいんだ。家を用意しておくから、優君を信頼させて、その子達と一緒に暮らしてほしいんだ♪」
僕は絶句した。
「・・・まぁ殆ど女の子なんだけどね。」
「は?」
なんてこった。また疑問が増えやがった。
――――――――――――――。
5分ぐらいだろうか、俺はずっと考え込んでいた。だが、答えは見つからず縋るような気持ちで、
「他の方法はない・・・のか・・・?」
説いた。
「ないに決まってるでしょ?」
知ってた。
「無理だ!!」
訴える。
「ダメです。」
拒否された。嘘だろ何か悪い冗談だと思いたい。なに?初対面の人と同居?それも男ならまだ大丈夫だ。最悪最低限の話をしておけばなんとかなるどろう。だが、ほとんどが女の子だと?俺は男だぞ?女の子といれば何も思わない訳がない。できれば考えたくもないが、恋愛経験は勿論、女心というやつなんて何もわからない。そうだ、逃げだそう。きっと大丈夫だ。うん、大丈夫。
「・・・やっぱりダメ・・・?」
と、この沈黙を両手を合わせた少女がとろけるような甘い声で言う。
「・・・し、仕方ねぇなぁ・・・」
鈴鳴優はあっさりと承諾した。
「じゃあ、行ってらっしゃーい♪」
愛らしい少女の見送り、そして見送られる青年。何も知らない第3者から見れば和やかな景色だろう。しかし、彼は不満を抱きながら、よたよたと小屋を出る。
「くっそ、どうしてこんな事に・・・。」
ピーターパンが「とりあえず仲良くして連れてくればいいんじゃない?」とか言ってはいたがこの説明はどうもてきとーすぎる気がするのがいかがなものだろうか。
「えっと・・・誰を探すんだっけか・・・」
ズボンのポケットに手をツッコミ紙を取りだす。あいつが、
『折り曲げるたら可愛い可愛い妖精さんが出てきて助けてくれるよ☆』
とか、言っていたのだが・・・まさか本当に妖精が出て来る訳がない。恐らく妖精の絵でも描いてあるメモだろう。そう考えるとあいつも可愛い物だな。と考えながら優は紙を折り曲げた。その瞬間、紙は光の粒子となり、空中に溶けた。ちょっとまて、これメモじゃなかったのか・・・すると、手のひらに粒子が浮かび上がり、少しずつ人の形を作っていく。そして、
「すぅ・・・すぅ・・・。」
「・・・え?」
手のひらの上には、5㎝程のを赤色のインクで染められ毛先だけが緑い色という変わった髪を持つ女の子が気持ちよさそうに寝息をたてて眠っていた。いや、そんな事は大した事ではないのだ。問題は、
「何で服を着ていない!?!!」
そう、素っ裸なのだ。思わず投げてしまいそうになったがギリギリの所で思いとどまった。そして、慌てて目を抑える。
「何なのこの世界?マジでなんなのこの世界!!!!!」
青年は困惑した。ついでだが、これを肉付けしている蒼雷氏も困惑した・・・
――――――――――――――――――――
「誰か・・・来る・・・。」
赤いずきんを被る『登場人物』である、少女はつぶやいた。彼女の数10キロ先の匂いまで嗅ぎわける彼女の嗅覚は何者かが近付いている事を察知した。
少女は願う。
「夜のあたしに信頼させて、混ざりであるあたしを正面から愛して。」
一人目の少女。『赤ずきん』は、そうぼそっとつぶやくのであった。
今年も寒い季節が来た・・・
どうも、いつもお世話になっております!!!!蒼雷です。
1話から早速、なかなか振りまわされている優くん・・・正直書いていてなかなか楽しいですねw
さて、物語の内容に触れていきましょうか。ひょんな事から登場人物を助ける事になっておまけに一緒に暮らす事になってしまった優君!!作者だったら間違いなくあたふたするこの状況!!どうやって生活していくのか!?それでは、後編でお会いしましょう。ノシノシ