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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【2章・焔を掲げて/祷SIDE】
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『2-2・暗転』

2-2


 私の何とも返しがたい言葉で会話が途切れた。時計をチラリと見て明瀬ちゃんが話を切り上げる。明瀬ちゃんにつられて私も教室に掛けられた時計を見た。時間は12時半になろうとしていた。矢野ちゃんに用事を頼まれていたのを思い出して、私達は顔を見合わせる。明瀬ちゃんが席から立ち上がったので、私と矢野ちゃんも一緒に立ち上がった。


「さて、行こっか」

「付き合わせて悪いね」


 全然、と私は首を横に振って矢野ちゃんに返事をする。明瀬ちゃんが私の言葉に合わせ親指を立てた。

 矢野ちゃんが所属している天文部の活動に協力して欲しいという事だった。今月末に行われる文化祭の展示用に、天文部がプラネタリウムを自作したらしく、発表前に私と明瀬ちゃんに観て欲しいとのことだった。「デキ」についての感想を聞きたいらしい。


 矢野ちゃんは天文部に所属しているが、私は剣道部、明瀬ちゃんは帰宅部と見事にバラバラだった。私が剣道部に所属していることについて、誰もが似合わないと笑うのが少々不服だった。明瀬ちゃんと矢野ちゃんも例に漏れず笑う。

 私の背が低いせいか、顔が子供っぽいと言われるせいか、もしくは両方かもしれないけれども、とにかく似合わないと笑われる。一度ムキになって防具姿を見せた事もあったが、二人に笑顔を提供しただけで終わった。私としては矢野ちゃんの性格も、おおよそ天文部に似合っているとも思えないのだけれども、その点について明瀬ちゃんの言葉を借りれば、「ああ見えて中々に乙女だからさ-」という事らしい。


「科学室への移動が面倒、ほんっと面倒」

「明瀬はいちいち大げさなんだよ。大した距離じゃなくないか」


 明瀬ちゃんと矢野ちゃんがそんな話をしていて、私は二人の後ろを付いていきながらそれを聞いていた。二人と比べると私は頭一つ分小さいので、先を歩かれると前が見えなくなる。

 

 明瀬ちゃんが不満を述べているのは、今まさに科学室へ移動している事についてだった。私達の通う「県立内浦高校」は、二つの校舎に別れた構造だ。一般教室や職員室のあるA棟と、科学室や音楽室等の特別教室が集まるB棟が平行に並び立っている。

 どちらも白塗りの三階建ての校舎で、二つの校舎の2階同士を繋ぐ渡り廊下がある。1階から外に出て中庭を通っていくル-トを除けば、その渡り廊下でのみ二つの校舎間の行き来が出来た。矢野ちゃんが言う通り、時間としては1分もあれば渡り切れるくらいの長さで、実際、明瀬ちゃんが唸っている間にB棟まで着いてしまった。


 B棟2階の廊下、西側突き当りに科学室がある。科学室では天文部の部長である御馬先輩が私達を待っていた。御馬先輩とは何度か会ったことがある。天文部というには少し不似合いな、スポ-ツ刈りで筋肉質な人だった。

 プラネタリウムを私達に見せたい、という話を矢野ちゃんがしておいたらしい。御馬先輩も感想が気になるらしく、様子を見に来たということだった。私が会釈すると、明瀬ちゃんは手を挙げて、それを挨拶にしていた。上級生相手とは思えない軽い様子に、私は肘で明瀬ちゃんを小突いた。


 科学室の重たい黒のカ-テンを閉め切ると、外からの光は遮断され音も聞こえなくなる。外の世界から切り離されたみたいで、いつもの科学室じゃない様に思える。矢野ちゃんが教室中央の机の上に高さ30cm程のプラネタリウムを置く。黒の型紙を多面体状に組み上げた物と、白色のライトを組み合わせた造りだった。


「本番は暗幕を張った中でやるから、もっと綺麗になるんだけど」


 そう言いながら矢野ちゃんがスイッチを入れると、その黒の多面体から光が溢れ出して、大小入り乱れた光の欠片が教室の壁一面に拡がった。ライトの光だと分かっていても、それでも浮かび上がって見えるのは空一面の星の海で。素人目ではあるが、自作とは思えないクオリティに思える。

 私は明瀬ちゃんの横に座って、教室の中の星空を見上げる。明瀬ちゃんと本当に星空を観に来たみたいで、嬉しくなる。


「明瀬ちゃん、今度は本当に星を観に行きたいな」

「祷、星とか好きだっけ」

「星空って良いなぁ、って思って」

「じゃあ、今度三人で行く?」


 明瀬ちゃんの言葉に私は曖昧に頷いた。電気の光で彩られた星空の下、綺麗であったが、それはやはりライトの光でしかなく。矢野ちゃんがスイッチを切ると一瞬で消えてしまった。明瀬ちゃんが盛大に拍手をして、矢野ちゃんが照れ臭そうにしていた。拍手を続けたまま、テンション高く、プラネタリウムの完成度を褒め始める。


「すごい、すごいって。作ったなんて信じられないくらい」

「明瀬にそんなに褒められると、調子狂うな」


 教室の隅で観ていた御馬先輩が口を開いた。


「でも本当に素晴らしい出来だと思うよ、矢野さん」

「いえ、そんな、御馬先輩のおかげで……」

「僕は少しだけ手伝っただけだよ」


 二人のやり取りを見ていた明瀬ちゃんが、ふと私の肩を叩いた。矢野ちゃんが渋い顔をしながら、親指を立てた後に今度は小指を立てる、というのを交互に繰り返していた。

 私は渋い顔をした明瀬ちゃんの額を小突く。矢野ちゃんがもし見ていたら、多分もっとひどい事になった気がする。小突かれて大げさに痛みを訴える明瀬ちゃんを見て私は笑おうとして。


 明瀬ちゃんの声とは違う別の音に、私の思考は止まった。

 微かな、微かだが、窓ガラスとカ-テンで遮断された外から聞こえてきた音。くぐもってはいるが、それでも高く、耳に突き刺さるような音。その音はまるで、そう。

 悲鳴の様な。


「ねぇ、なにか聞こえない? 悲鳴、みたいな」

「悲鳴?」


 私の言った悲鳴という言葉に明瀬ちゃんが首を傾げた。その側を抜けて私は科学室の窓まで駆け寄る。焦燥感じみた何かが私の背中を押した。閉め切った黒いカ-テンに手をかけて思い切り開く。カーテンレ-ルを擦る音がけたたましく鳴り、カ-テンが翻る。眩しい程の太陽光が目に飛び込んでくる。


「何、あれ」



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