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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【4章・終点と行き止まりの境目/祷SIDE】
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『4-4・不穏』

4-4


 佳東さんは突然、この特殊な事が出来るになったと言った。佳東さんを含めて、これがどういった物でなのかを知らないようであった。


 これは魔法だ、間違いなく。私は言葉にしなかったが、そう判断する。

 おそらく水に関係する魔法で、例えばテレキネシス、例えば念動力の様な類の力だった。この教室から屋外のプールまで、直線距離にして30mはある。その距離を操作出来る程の念動力ということになる。私の家系に伝わっている魔法とは大きく性質が異なる。私の知っている魔法では佳東さんのような芸当は不可能だった。


 この魔法を、急に出来る様になった、と佳東さんは言った。彼女は魔女の家系ではないが、魔法を使える体質だったようだ。必ずしも魔法を使える人間が、魔女をやっているとは限らない。



 現代において魔法は極秘裏に、限られた人間にのみ伝わっているのみだった。社会からは、その存在はほぼ全てが喪失し忘れ去られている。

 だが魔法を扱う事の出来る魔女の家系は、それに伝わる知識と習練によって、魔法を保持し続けてきた。其処には、つまり血筋という才能が大きく関与している。


 佳東さんの家系がそもそも魔女で無かったのか、それとも時代の変遷の中で魔女の技術が失われたのか、そのどちらであるかは分からない。

 全ての魔女の家系が、その技術を継承し続けているわけではないからだ。だた、少なくとも佳東さんには魔法の才能があり、今回の事態を切っ掛けに魔法の能力が表出したのだろう。危機的状況に陥った事で、覚醒したとでもいうべきだろうか。


 葉山君と小野間君は、既にこの魔法を見ていたようだった。黙っていた私に、葉山君が説明する。


「佳東さんのこの力、……超能力としか言いようがないのですが、水を操る事が出来るようなんです。此処まで逃げてこれたのも、彼女の能力のおかげでした」

「水が近くにありゃもっと凄かったんだよな。さっきはスプリンクラ-みたいに出来てたし」

「だから水に関しては問題ありません。屋外プ-ルですが、無いよりはましでしょう」


 葉山君は、これを超能力と評した。やはり三人には魔法については知識はなさそうだった。突然目の当たりにした超常的な力に動揺は少ないように見えたが、そもそも、それ以上の事が今起きているか、と思い直す。


 さて、どうしようかと思う。

 私には魔法についての最低限の知識はあるが、「余所」の系統の魔法に関して私が教えられることは殆どない。私が魔法使いであることを明かす事も、あまりメリットがあるとは思えなかった。


 明瀬ちゃんの方をチラリと見てから、私は佳東さんに話しかけた。彼女を緊張させないように、と軽く笑顔を作る。


「佳東ちゃん、凄いね」

「い、いえ……で、でも、プ-ルが遠い、から、これだけしか……。あと……すごく、疲れるので、直ぐに何度も……は」


 佳東さんの話し方はとても消極的な感じを受ける。声も小さく、何かに怯えている様に言葉を言い淀む。ゾンビ騒動によるものではなく、元々の性格に依るものだと思えた。私とも相変わらず視線を合わせようとしてくれない。言葉の末が消えた佳東さんに、葉山君が言い聞かせる様に強く言う。


「出来るよな、佳東。これは全員の生存に必要な事だ」


 葉山君の言葉に佳東さんは躊躇いがちに黙って頷いた。

 少なくとも救助が来るまでは、この教室で籠城する他ないと私達は確認して会話は終わった。

 救助なんてものが来るならばの話だけれども、と私は次の言葉を呑み込む。


「喉が渇いたぜ、水を寄越せよ」

「いや、全員で分け合うべきだ」


 小野間君と葉山君は何かと対立する傾向があると、この十数分の間で私は思った。葉山君の反論に、小野間君が苛立ちを隠そうともせず声を荒げる。


「佳東が早く次を持ってくればいいだろ。超能力でよ」

「あの、……その、ま、また、頭が痛くなっ……」


 佳東さんの言葉を、葉山君が遮る。


「佳東さん、頼めるかな。出来るよね?」

「……は、はい」


 そのやり取りに感じた不安じみたものを、私は口にしなかった。




【4章・終点と行き止まりの境目/祷SIDE 完】


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