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黒き空のハルピュイア  作者: 心鏡
一章 邂逅
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三話 プラヴァシ

憎い。


空を蝕んだ人間が。

諦めきった仲間が。

先に死んでいった妻が。

何も変えられない自分が。

そして今日、自分を憎む理由が増えた。

娘が、最後の姫アールマティが傷を負って帰ってきた。

カームシャードのための花を一人で探しに行き、人間にやられた。

もちろん人間は憎い。怪我を負わせた人間は私の足の下で寝っ転がっている。

私達は鳥達のように鋭い嘴も、地を這う獣達のように力強い顎も大きな口もない。

だから背後から襲い空から落とす。それだけで大抵の獣は狩れる。

だから

何度も

何度も

何度も

人間を落とした。

何回目かに腕を落としたか、足を落としたか

人間にはもう繋がっていない。

最後に足で首をもいだ。

だが、何も。何も満たされない。

私は英雄だった。

人一倍高く早く飛び回り、本来は狩れないような大型の獣も楽に狩れた。

仲間を何度も助け、皆の前に立ち強さを示し続けた。

それがどうだ。

何が英雄か。

この蝕まれた空に、全てを諦めた仲間にかけるべき声を持たない。

今より暖かいところへ行けばまた少しは暮らせるだろう。

だがそれが何だ。

空を失った私達は広い生活範囲を持てない。

それは生きていける人数が限られるということであり、二度と空の王者を名乗れないことでもある。

ゆくゆくは、種を失うのだろう。

それでもまだ私達は生きている。

洞に戻ると娘が起きていた。

「…痛みはあるか。」

「いいえ、大丈夫です。それよりも花を摘まないと。」

私は足を洗わずに来た。それで察したのだろう。

「それはもういい。ライリが代わりに行った。それよりも出立の準備をしておけ。駆けるには問題ないだろう?」

「はい、問題ありません。…お手数をおかけしました。」

「気にするな。俺にも責がある。」

そう、私にもだ。

娘は私に頼らない。娘は私をただの戦士長として扱う。

高い空へと駆ける心を失くした私に期待していないのだろう。

だからこそ、花摘みに誰も連れては行かなった。

手の空いた戦士が、それこそ私がいた。

私もよもやカームシャードの腕を手折ってからすぐに向かうとは思わなかった。

少ない仕事も任せてはもらえないのかと憤慨するのもおこがましい。

娘に、彼女に期待されないほどの態度を皆がとっているのだから。

空を見上げ続ける彼女はこの黒い空に一体何を見つめているのか。

私には、分からない。


黄昏時。恐らくは。

体が教えてくれた時間と、僅かばかりに変わる空の明るさがそれを伝えてくれる。

空と大地が交わる光景を見たのは如何程前か、まるで思い出せない。

ただただ、素晴らしい時だったとは覚えている。

環のように並んだ戦士や女、子供達の中へ彼女がカームシャードを抱えて飛んでくる。

彼女は私達の中心へ来ると祈るように声を出す。

「我らが友、カームシャードはその力を、肉を、想いを今空と大地の合間に帰す。次なる我らはその力を受け継ぎ、肉を大地から糧として得、想いを心に留めん。カームシャードよ、願わくば我らが追い風とならんことを。」

地に向かって急降下する彼を見送るように皆が花を放った。もう、実に慣れたものだ。

皆がひとしきり黙祷し終わったのを見計らって声を出す。

「我らは次に進まねばならぬ。まだ、まだ立ち止まる時ではない。新たな山が私達を歓迎してくれよう。ナヴィド。案内を頼むぞ。」

「承知しました。黄昏時が終わる前には出立します。皆様ご準備を。」

皆が荷支度を始める。私は、妻の残した腕くらいだ。

大地の恵みは私達が生きていく上で十分だ。それ以上求めては、結果として不幸を招く。

人間達にはどうにもそれが分からんようだが。


「さぁ行きましょう。あまり速くは飛びませんが、何かあればお声がけください。」

女子供を中心に戦士達が囲むように飛び立つ。私は最後に飛び立つ。

「戦士長プラヴァシ。皆をどうか頼む。」

「必ず風は、大地は恵みを下さいます。諦めてはなりませんよ。」

「…はい、必ず。」

年老いた戦士や、皆を乳母として育て上げた老母の言葉を背に、空へ駆けた。

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